樹脂加工の可能性に挑んだ、新たなる名作。

  • 文:竹内優介(Laboratoryy)
  • 編集:山田泰巨

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Vol.68
樹脂加工の可能性に挑んだ、新たなる名作。
スマトリック

吉岡徳仁

文:竹内優介(Laboratoryy) 編集:山田泰巨

吉岡徳仁の独創的かつ実験的な発想と、樹脂加工の可能性を追求するカルテルの技術力が融合した椅子「スマトリック」は、樹脂の繊細さを引き出した新たな名作と言えるでしょう。2017年のミラノサローネで披露したプロトタイプの量産化に成功し、2019年から国内でも販売が開始されました。

背面から座面まで2層のメッシュ状の樹脂できた構造は、カルテルの最新技術なくしては成り立たなかったといいます。サイズは、W610×D550×H770×SH440mm。

2020年東京オリンピックの聖火リレー用トーチのデザインでも話題を集めたデザイナー、吉岡徳仁。そのクリエーションは世界で高く評価され、デザインの領域を超え、アートの文脈でも注目を集めています。

自然と光をテーマに詩的な作品を多く手がける吉岡は、これまでもハニカム構造の紙製椅子「ハニーポップ」、植物の繊維構造の椅子「パーネチェア」、結晶構造の椅子「ヴィーナス - 結晶の椅子」など、素材の構造から椅子をデザインしてきました。吉岡は「スマトリック」で、樹脂素材でしか表現できない椅子を完成させました。繊細に見えますが、樹脂製の細い格子は二層の立体形状になることで単体でも構造体として成立しています。座り心地も、それ自体が弾力性をもつので樹脂でありながら包み込むように優しく身体を受け止めてくれます。

「ものの形を整えるということよりも、現象そのものや、目に見えない感覚や要素を多く取り入れたデザインを提案している」という吉岡の椅子は、道具としてだけでなく、生活の中で気づきを与えてくれる豊かな存在。視覚的なものを超え、私たちの感覚に訴えかける「スマトリック」は、新たなマスターピースになる可能性を秘めています。

樹脂の特性を活かし、座った人の体重によってしなり、その人の体型に合わせて包み込むような座り心地が体験できます。

座面は透明、白、黒、プラムの4色、脚は座面同色のカラー塗装とクロームメッキを揃えます。ステンレス脚を使ったアウトドア仕様は、雨で水が留まること無いので屋外にも最適。ゆっくりと時間の流れを楽しめるロッキング仕様もあり、バリュエーションも豊富です。