気品と色気を併せもつ、イタリアの名作椅子。

  • 文:竹内優介(Laboratoryy)
  • 編集:山田泰巨

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Vol.64
気品と色気を併せもつ、イタリアの名作椅子。
キャブ アームチェア

マリオ・ベリーニ

文:竹内優介(Laboratoryy) 編集:山田泰巨

1977年にマリオ・ベリーニがデザインを手がけた椅子「キャブ」は、気品のある姿ながら、そこはかとなく漂う色気が魅力的な名作椅子です。レストランや美術館などのパブリックスペースから個人宅のダイニングまで、オールマイティーな椅子として長年に渡って愛されています。

鉄のフレームを芯材に、脚の裏から座面の裏にかけてファスナーを使用して革を張りぐるむ構造。馬具の縫製技術を応用し、手作業で革を縫い合わせています。サイズは W620×D520×H815×SH445mm。

イタリアの巨匠マリオ・ベリーニは1960年代に活動を始め、70年代には早くもイタリアを代表するデザイナーとなりました。日本との親交も深く、ヤマハや象印のプロダクトデザインに加え、五反田の東京デザインセンターでは建築設計も手がけています。現在もなお、精力的に活躍を続けています。

ベリーニの数多い作品から椅子1脚を選ぶとなれば、1977年の登場以来、50万脚以上が製造されている「キャブ」をおいて他にありません。この椅子の大部分は、鉄パイプの構造体とそれを覆う厚い革でできています。どちらか単体では椅子として成り立ちませんが、構造体に革を被せることで椅子として機能し、フォルムと快適さを生み出しています。

鉄と革の椅子といえばマルセル・ブロイヤーの「ワシリーチェア」やマルト・スタムの「S33」などが連想されます。しかしそれらは要所にのみ革を使用し、装飾性を排除した機能美を強調させています。一方、全体が革で覆われたキャブの均質なフォルムからはイタリアの粋な雰囲気を感じ取れます。ベリーニは、「慣習、感情、文化が形態をつくる」と語っています。それぞれの椅子を凝視することで見えてくるデザインの面白さを名作椅子は気づかせてくれます。

フレームと厚革がつくり出す張力で背もたれのフィット感と抜群の座り心地を実現。カッシーナが誇る最上級の革を使用しています。

アームレスやハイチェアを始め、ソファやベッドなど、ファミリーも次々と登場しています。