変幻自在な、元祖ビーンバッグチェア

  • 文:佐藤早苗
  • 編集:山田泰巨

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Vol.63
変幻自在な、元祖ビーンバッグチェア
サッコ

ピエロ・ガッティ、チェーザレ・パオリーニ、フランコ・テオドーロ

文:佐藤早苗 編集:山田泰巨

1969年に発表された「サッコ」もまた、イタリアのモダンデザインを象徴する名作です。イタリア語で「袋」を意味する袋状の椅子は、内部に詰まったポリエステルペレットが使う人の身体の形にフィットして変形します。現在では一般的になったビーンバッグチェアの元祖といえる存在です。

脚も座面もない「サッコ」は既存の椅子の概念を覆すプロダクト。当初はハンドル付きの透明のバッグでしたが、後にレザーやファブリックのバッグへと切り替えられています。サイズはW800×D800×H680mm

1968年、イタリア・トリノを拠点にしていた3人の若いデザイナー、ピエロ・ガッティ、フランコ・テオドーロ、チェーザレ・パオリーニが、ポリスチレンの詰まったビニール袋を持ってザノッタの創業者であるアウレリオ・ザノッタを訪ねました。彼はすぐに3人が持ってきた袋の可能性を見抜き、30分後にはプロトタイプをつくったといいます。

ガッティ、テオドーロ、パオリーニは、誰がどんな姿勢で座ってもフィットし、可能な限りフレキシブルでユニバーサルな椅子というアイデアから「サッコ」を着想しました。固定した形状がない「サッコ」は、袋の2/3ほどを満たす発泡ビーズがさまざまな形への変化を可能にします。脚も座面も背もたれもない椅子は農家で使われる麻袋にヒントを得たとも言われ、アメリカでは「ビーンバッグチェア」と呼ばれました。アヴァンギャルドで実験的な椅子はすぐに世界中で人気を博し、使う人の身体に合わせて変形することから結果としてエルゴノミックな椅子となった「サッコ」は他にも大きな影響を与え、一つの分野を確立するに至ったのです。

製造元のザノッタのウェブサイトでは、アームチェアに分類されている「サッコ」ですが、上部を内側に織り込むとスツールに。軽量なので移動も簡単です。

誕生から50年を迎えた2019年には、ピエール・シャルパンによるデザインの漁網をリサイクルしたテキスタイルを使った限定版も登場しました。