インスタレーションから生まれた、彫刻的な椅子。

  • 文:竹内優介(Laboratoryy)
  • 編集:山田泰巨

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Vol.62
インスタレーションから生まれた、彫刻的な椅子。
トム バック

ロン・アラッド

文:竹内優介(Laboratoryy) 編集:山田泰巨

人目を惹く造形の「トム バック」は、もともとインスタレーション作品を構成する一要素としてデザインされた椅子でした。ロン・アラッドの作家性を象徴する独創的なフォルムと実用性が巧みに融合し、アートとデザインの境界を超えた存在となっています。

20世紀末から多彩な作品で話題を集め続けるロン・アラッドは、インスタレーションのためにこの椅子の原型をアルミ素材でデザインしました。波状のシェルは意匠だけではなく、アルミの強度を増すための工夫でもありました。サイズはW640×D640×H750×SH413mm

ロン・アラッドはロンドンの名門建築学校「AAスクール」を卒業後、自らのデザイン事務所を設立。1981年に既製品である廃車のシートと鋼管をコラージュした「ローバーチェア」でデビューします。独学による彫刻的な家具は話題を集め、またたく間に新世代のデザイナーとしてシーンの一翼を担うようになります。

そんなアラッドが1997年、ミラノ・デザインウィークでのインスタレーション用につくった椅子を原型とするのが「トム バック」です。67脚の椅子を積み重ねた彫刻作品「トーテム」のために、アルミニウムを真空成型で波状にうねらせたシェルを特徴とする椅子がつくられました。翌年、これをもとに量産化を図ったのがポリプロピレン製の座面をもつ「トム バック」です。ユニークな形で人目を惹き、見た目の先入観と実際の使い心地とのギャップで人々を驚かせるのは彼の得意とするところ。豊かなアート性と量産可能な製造工程によって「トム バック」は広く流通し、アラッドの代表作となったのです。

「トム バック」の原型となった「トーテム」はミラノの広場に設置された後、ヴィトラ・デザイン・ミュージアムにコレクションされています。

軽く耐久性もあるポリプロピレン製のシートの座り心地は快適で、さらにシートに空いた穴に後脚が通せるようになっておりスタッキングも可能です。