日本のモダンデザインを示した、籐のラウンジチェア

  • 文:竹内優介(Laboratoryy)
  • 編集:山田泰巨

Share:

Vol.58
日本のモダンデザインを示した、籐のラウンジチェア
アームレスチェア

剣持 勇

文:竹内優介(Laboratoryy) 編集:山田泰巨

1964年の東京オリンピックを控え、世界中のゲストを迎え入れるべく内装設計にインテリアデザイナーの剣持勇を起用した「ホテルニュージャパン」。そのラウンジチェアとして剣持がデザインした「アームレスチェア」は、籐を編んだ美しい椅子です。日本の伝統を伝えるとともに世界に日本の近代化を示しました。

身体の大きい欧米人でもゆったり座れるよう幅広なプロポーション。柔らかな曲線と風合いは優しく包み込まれるような座り心地です。サイズはW900×D855×H725×SH380mm。

インテリアデザイン、そして家具のデザインで、戦後日本におけるデザインの基盤をつくり上げた人物が剣持勇です。その40年あまりの活動は日本におけるデザインの近代化への軌跡と深く結びついています。

1932年に東京高等工芸学校木材工芸科を卒業した剣持は、国立の工芸指導機関である商工省工芸指導所へ進み、そこでドイツ人建築家のブルーノ・タウトからさまざまな技術や知識を得ました。戦後は国からの依頼でアメリカ視察を行い、そこでデザインの役割や独自性に向き合うこととなります。帰国後、日本デザイン界の改革を目指した剣持は、柳宗理、渡辺力らとともに日本インダストリアルデザイナー協会や日本デザインコミッティーを設立。剣持は、伝統的な意匠や工芸を取り入れた日本的な感性と素材の特性や加工技術を多用したモダンデザインを融和させ、「ジャパニーズ・モダン」と呼ばれる様式を打ち出しました。

日本の伝統的な素材である籐を巧みに操り、美しいプロポーションに仕上げた「アームレスチェア」は、日本で初めてMoMA(ニューヨーク近代美術館)に永久収蔵された剣持の代表作です。1960年、近代的なホテルの先駆けとなった「ホテルニュージャパン」のためにインテリアデザインを行った剣持がラウンジチェアとしてデザインし、日本的なるモダニズムの幕開けとして注目を浴びました。

モダンでありながら手工芸のあたたかみのある「アームレスチェア」は、夏向けと考えられていた籐家具のイメージを一新。当時、職人の脇に座って相談しながら製作したという逸話。ベテラン職人が丸二日掛けて編み込みます。