水平垂直を基調とした、シンプルな造形。
Vol.46
水平垂直を基調とした、シンプルな造形。
ヒルハウス ラダーバックチェア

チャールズ・レニー・マッキントッシュ

文:竹内優介(Laboratoryy) 編集:山田泰巨

歴史主義から離れ、自由な造形を求めて建築家やデザイナーが台頭した20世紀初頭、「ヒルハウス.1ラダーバックチェア」もまたセンセーショナルな登場でした。チャールズ・レニー・マッキントッシュの水平垂直を基調とした無駄のない洗練された造形は、人々に新たなモダンムーブメントを予感させたのです。

ヒルハウスを設計した際、壁や床を全て白で統一した寝室のためにデザインされました。W410✕D350✕H1400✕SH450mm

マッキントッシュはグラスゴー美術学校在学時に建築家・デザイナーによるグループ「ザ・フォー」を結成し、グラフィックを中心とした活動がヨーロッパ各地の展覧会で大きな評価を受けます。さらに27歳の若さで、母校の新校舎設計コンペに優勝。絵画にも建築にも一貫した理念をもち、造形にまつわるすべてに携わったクリエイターでした。

「ヒルハウス.1 ラダーバックチェア」は、出版業者のウォルター・ブラッキーに依頼された別荘「ヒルハウス」の設計と同じく1902年にデザインされた椅子です。スコットランド地方の伝統的な民家様式であるスコティッシュ・バロニアルスタイルをもとに、マッキントッシュ独自の幾何学的抽象を取り合わせたこの椅子は、彼の代表作となりました。寝室のふたつの白いワードローブの間にオブジェのように置かれた「ヒルハウス.1 ラダーバックチェア」は、座ることができるものの機能としてはモノを置く台のようなもの。彼にとって家具は室内造形のエレメントとしての役割を担っていたのです。100年以上も前にデザインされたとは思えない建築的なコンポジションは、アール・デコに通じるモダニズムを感じさせます。機能性はもちろん、より抽象的な方向にあるインターナショナル・スタイルを見据えたデザインでした。従来の様式にとらわれない新しい造形は、20世紀初頭のヨーロッパのデザインの発達にさまざまな影響を与えていくこととなります。

直線と曲線の微妙なコントラストを使ったマッキントッシュのデザインはアール・デコにも通じるもの。直立した背柱は先に行くほど細くなり、上部と下部では太さが異なります。本来、椅子がもつ「座る」という機能以上に空間を構成する要素として大きな役割を果たします。

水平垂直を基調とした、シンプルな造形。