Vol.38 バタフライスツール
Vol.38
Vol.38 バタフライスツール
バタフライスツール

柳宗理

文:竹内優介(Laboratoryy) 編集:山田泰巨

日本の工業デザインの礎を築いた柳宗理が1956年に発表した「バタフライスツール」は、日本的な情緒をモダンに昇華したエポックメイキングな一脚です。57年のミラノ・トリエンナーレでは金賞を受賞し、戦後日本のデザインと技術力を世界に示した一脚でもあります。現在でも世界各地の美術館にコレクションされ、高い評価を受けています。

蝶が羽を広げ飛んでいるかのようなフォルムが名の由来に。厚さわずか7mmの合板を3次元に成形することで、薄くても強度を保ちながら、無垢材では出せないフォルムを可能にしています。サイズはW425✕D310✕H387✕SH340mm

戦後、イームズのデザインしたレッグ・スプリントやLCWを通じて、成形合板の存在を知った柳は成形合板の技術を応用した新しい物づくりを日本で模索しました。「バタフライスツール」のアイデアを産業工芸試験所で成形合板の研究をしていた乾三郎に持ち込みますが、図面では表現しきれない複雑な曲面のため、研究にかなりの時間を要しました。その後、国内でいち早く成形合板技術を取り入れていた天童木工とともに開発を進め、2枚の成形合板をあわせた優美な曲面とシンプルな構造を併せ持つ一脚を完成させたのです。

日々使われる生活用具の中に素朴な美を見出し、民藝運動を提唱した柳宗悦。息子である宗理もまた、装飾を求めないアノニマスなデザインを理想としていました。父が提唱した民藝と、産業化した社会の間をつなぐ柳のデザインには純粋な形の中に人の心を打つ温かさがあります。ただ美しいだけではなく持ち主の日常に寄り添う「使われるための美しい形」という彼の理念を体現した家具と言えるでしょう。

同じ形の成形合板2枚を1本の真鍮のステーで連結したシンプルな構造だが、柳が考えたデザインを実現させるために3年以上の歳月を要したという。

当初はカバザクラで発表されましたが、時代ごとに使われている樹種も変遷しています。現在はローズウッドとメープルの2種。流行に合わせてアクリルでつくられたこともありました。

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