Vol.32 S33

  • 文:竹内優介(Laboratoryy)
  • 編集:山田泰巨

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Vol.32
Vol.32 S33
S33

マルト・スタム

文:竹内優介(Laboratoryy) 編集:山田泰巨

1920年代、バウハウス周辺のデザイナーたちはこぞって鋼管を使った椅子の制作を試みます。なかでもいち早く鋼管でキャンティレバー構造を表現したマルト・スタムの「S33」によって、椅子のデザインは大きな転換を迎えることになりました。

素材と機能を求めたバウハウスの理念が見事に体現されています。サイズはW500×D640×H840×SH460mm

デ・ステイルやバウハウスなどの登場によって、1920年代には工業生産に適した合理的な造形と新しい素材の研究開発が進むようになります。25年にバウハウスの教官であったマルセル・ブロイヤーが鋼管を用いた椅子「ワシリーチェア」を発表し、デザイン界に衝撃を与えました。つづく26年、同じくバウハウスの客員講師であったマルト・スタムが鋼管を使ってキャンティレバー構造を実現した椅子「S33」を発表し、椅子の構造に革命を起こします。

キャンティレバー=片持ち構造という表現の通り、後ろ脚をもたずに座面にクッション性を与える画期的な構造はその後、同世代のライバルたちによって快適性が高められていきます。27年にはミース・ファン・デル・ローエが「MRチェア」をデザインし、翌年にブロイヤーも「チェスカチェア」を発表しています。軽快な構造は、より洗練されたデザインとキャンティレバーの弾性を活かした弾むような座り心地へと進化しました。

こうして発展を遂げたものの、ブロイヤーとはキャンティレバーの功績をめぐって裁判で争われる事態にもなりました。その決着がついたのは60年代のこと。ドイツ連邦裁判所がスタムの勝訴を認めています。モダニズムの概念を共有し、競い合った彼らの実験が現在の椅子のスタンダードを形作っていったのです。

キャンティレバーの構造とレザーの張り地によるしなやかな座り心地が快適性を高めています。

スタムは1926年、後ろ脚をもたないキャンンティレバー椅子の原型を発案します。これによって前脚を支点にしてスティールパイプの弾力性を利用した椅子が実現されました。この発明は以降、椅子の基本構造としてさまざまな発展を見せていくことになります。