Vol.22 メッツァドロ

  • 文:竹内優介(Laboratoryy)
  • 編集:山田泰巨

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Vol.22
Vol.22 メッツァドロ
Vol.22 メッツァドロ

アキッレ・カスティリオーニ & ピエル・ジャコモ・カスティリオーニ

文:竹内優介(Laboratoryy) 編集:山田泰巨

1950年代後半、イタリアは奇跡的な経済成長を成し遂げると同時に世界におけるイタリアンデザインの存在を確立します。アキッレ&ピエール・ジャコモ・カスティリオーニがイタリアンデザイン界に放った一脚は、ユーモアを含む挑戦的なものでした。トラクターの座席を転用したメッツァドロは、「レディメイド」の手法を通して、彼らの思想を端的に象徴しています。

トラクターの座席、列車の荷物棚を支える金属フレーム、帆船の帆を張るためのウッドパーツを組み合わせてデザインされました。脚部には厚さ11ミリのスチール材を用い、カンティレバー構造による独特な弾みによって座り心地はまるでトラクターを操縦するかのよう。サイズはW490×D510×H510mm

カスティリオーニ兄弟の既成概念にとらわれない自由なアプローチのデザインは、類い稀な観察眼から生まれました。身の回りにある日用品や、それらと人間の関係性を常にインスピレーションの源とし、彼らの手にかかると見慣れた既成品が別の用途を持ったプロダクトとして生まれ変わります。既成のものに新たな役割を与えるという意味において、マルセル・デュシャンが日用品を芸術作品に転用した「レディメイド」の概念と通じます。

カスティリオーニ兄弟が1957年に発表した「メッツァドロ」は、労働者の象徴であったトラクターの座席をモダンファニチャーに生まれ変わらせたアイロニックな作品で、まさにウィットに富んだジョークのように軽妙です。カンティレバー構造の1本脚は一見頼りなさそうに見えますが、腰をかけると独特の浮遊感を味わえ、遊び心ある座り心地を得られます。実用性も備えたコンセプチュアルアートのようなスツールは飾り椅子としてもオススメしたい一脚。置いてあるだけでイマジネーションを刺激してくれそう。優れたデザインは家具としての実用性以上の価値を内包し、私たちの暮らしに豊かさをもたらしてくれます。

1957年に発表しましたが、前衛的すぎるデザインで83年まで製品化されませんでした。この年、イタリアのメーカー「ザノッタ」から販売されて現在に至ります。現在は座面5色を展開します。