Vol.21 PP19
Vol.21

PP19

ハンス・ J・ウェグナー

文:佐藤早苗 編集:山田泰巨

両手を広げた熊のような愛らしいフォルムから“ベアチェア”の愛称で親しまれる「PP19」。ハンス・J・ウェグナーが生涯にわたりデザインした500種類以上の椅子のなかでも、最高傑作との呼び声が高い一脚です。ウェグナー自身もお気に入りで、晩年を過ごしたケアホームにもベアチェアを持っていったという逸話が残っています。

低めの重心に身体を包み込むウイング付きの大きな背もたれ、そしてがっしりと安定感のあるアームレストがさまざまな座り方を可能にします。サイズはW900×D950×H1010×SH420mm

1951年に生まれた「ベアチェア」は深く腰掛けアームレストに手を置くと、まるでチェアの膝の上に乗り、手を繋いでいるような気持ちにさせるイージーチェアです。また、広い背もたれに横向きに寄りかかってウイング部分に頭をもたせかけたり、アームの上に脚を引っ掛けたり、下に脚を潜らせたり。頑丈なつくりで、どんな座り方もしっかり受け止めてくれるのがこの椅子の特長です。そして、座るほどに虜になる最上の座り心地。シートバックの内部は、メタルスプリングにコットンで、その外側に椰子や亜麻の繊維、内側に馬毛を組み合わせてつくられています。製造はデンマークのPPモブラー。伝統的な製法を守りながら熟練の職人たちが一脚一脚に2週間以上をかけ、手作業で仕上げられています。

このチェアは誕生当時、いまはなき家具メーカー、APストーレンが製造していました。実は当時、PPモブラーは同社の下請けとしてベアチェアのフレーム生産を託されていた工房でした。ウェグナーはそのていねいな仕事ぶりに感銘を受け、その後PPモブラーのために多くの家具をデザインしています。APストーレンでは1969年にベアチェアの生産が途絶えましたが、2003年にPPモブラーが創業50周年を記念して復刻。設立当初から大量生産を拒み、すべて職人の手仕事で製作を行っているPPモブラーの中でも、このベアチェアをつくれる職人はほんの数人しかいないといいます。

最高の素材で手間暇かけてつくられるベアチェアはお値段もクルマ並みですが、ヴィンテージも高値で取引されています。時を経ても変わらない価値をもち、世代を超えて受け継げるチェアは、豊かな人生への投資と考えれば決して高いものではないのかもしれません。

正面から見ると、まるで両手を広げて迎えてくれるような姿。使い込むほどに風合いを増す革張りも魅力的です。

ウェグナーがベアチェアに合わせてデザインしたのが、オットマン「PP120」。チェアに身体を預けて深く沈み込み、足を投げ出すのにぴったりの高さです。単体でスツールとしても使え、チェアと同様に内部には馬毛とコットンを使用。サイズはW650×D400×H430mm

Vol.21 PP19