Vol.19 スパニッシュチェア
Vol.19

スパニッシュチェア

ボーエ・モーエンセン

文:佐藤早苗 編集:山田泰巨

1958年にデザインされた「スパニッシュチェア」は、ボーエ・モーエンセンのシグニチャーピースのひとつ。デンマークのモダン家具デザインを牽引した彼は、大衆のためのシンプルで実用的、リーズナブルな家具を多くデザインしましたが、この「スパニッシュチェア」だけは例外でした。オーク材とサドルレザーを使った贅沢なイージーチェアは、彼のデザインの中でも特別な存在なのです。

広めのアームレストと真鍮のバックルで留めたシート&バックレストがトレードマーク。一枚革は使うほどに身体に馴染み、自分のものになっていきます。背もたれ裏とシート裏のベルトを締め直すことで、革が伸びた場合にも座り心地を保つことができます。サイズはW825×D600×H670×SH330mm

デンマーク近代家具デザインの父と呼ばれるコーア・クリントに学び、ハンス・J・ウェグナーとは学生時代からの友人でもあるボーエ・モーエンセン。彼のデザインする家具は、強くシンプルな存在感、美しいライン、高い快適性が特徴です。

「スパニッシュチェア」は、モーエンセンが家族と休暇でスペインのアンダルシア地方を訪れたときに、その地域の伝統的な椅子からインスパイアされたもの。木目の美しいオーク材に、背もたれとシートの2枚のサドルレザーを留める真鍮のバックル。厚みのあるコニャック色のレザーは、年月を重ねて使い込むことでさらに美しくなります。シンプルな構造のラウンジチェアは、平均的な椅子のシートハイが45cm程度にであるのに比べ、33cmと低めの設定。そして一番の特徴は、とても幅が広いアームレスト。コーヒーやビール、新聞、現代であればスマートフォンなど、ちょっとしたものを置いてくつろげるようになっているのです。ウィスキー好きだったモーエンセンは、このアームレストにウィスキーのグラスを置いて楽しんでいました。1958年に発表されると、フレデリシアファニチャーがすぐに生産を開始。そこから途切れることなく現在まで製作され続けるロングセラーです。

不必要なものを削ぎ落とし、大衆のための機能的でリーズナブルな家具をつくることをモットーとしていたモーエンセンですが、このチェアに限っては機能を最優先していないと言われています。暖炉の前でウィスキーを傾けるのにぴったりの「スパニッシュチェア」。デモクラティックデザインを追求した彼がスペインを旅して、この地の豊かな時間の過ごし方にその先のデザインのあり方を見たのかもしれません。

オーク材は5種類の仕上げから、レザーは定番のコニャックカラーのほかナチュラルやブラックも選べます。ブラックラッカー仕上げのオークに、ブラックレザーを合わせれば、こんなにも端正な印象に。

オークとサドルレザーを用いたスパニッシュチェアの特徴はそのままに、スリムになったダイニングチェアが「スパニッシュ ダイニングチェア」。アームレスト付きのモデルもあります。サイズはW560×D480×H845×SH460mm

Vol.19 スパニッシュチェア