斬新なオープンコクピットのスーパーカー、マクラーレン エルバを彩る‟ガルフカラー”とは?

  • 文:小川フミオ

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ガルフカラーを纏ったマクラーレン エルバ。カーボンファイバー製の軽量・高剛性シャシーに、599kW(815ps)のパワーと800Nmのトルクをもつ4リッターV8ツインターボエンジンを搭載す。

マクラーレン史上もっとも軽量なボディと、斬新なオープンコクピットを採用するスーパーカー、マクラーレン エルバに「ガルフ・テーマ」なるビスポークモデルが登場。2020年12月3日、マクラーレン・ジャパンの手によって東京・六本木でお披露目が行われた。

波や水滴など自然界の造型からインスピレーションを受けるマクラーレン。独自のセンスはなににも似ていない美を生みだしている。しかも、美しいだけではない。エルバは815馬力という信じられないほどの高性能で、公道でもサーキットでも楽しめるよう設計されているのだ。

今回発表された「ガルフ・テーマ」は、エルバの楽しみかたの一例としてつくられた。ガルフとは、1901年に米ペンシルバニア州ピッツバーグで創業されたガルフ・オイルのこと。世界中のモータースポーツシーンで戦闘力のあるレーシングマシンを彩ってきたのが、レッドとブルーをメインに使ういわゆるガルフカラーである。このイメージカラーをまとった車体は、世界中のクルマ好きの憧れでもあった。今回発表されたエルバの「ガルフ・テーマ」は、往年のガルフカラーを現代ふうにアレンジしたところに特徴をもつ。

リアビューはガルフ・テーマのカラーリングのせいかどことなくレトロスペクティブな雰囲気もあり心惹かれる。

マクラーレンとガルフの関係は、ニュージーランド出身のレースドライバーであり、このブランドの創業者であるブルース・マクラーレン(1937−70年)がみずからレースで走っていた時代から続くもの。ガルフオイルは当時からマクラーレンのスポンサーを務めてきたのだ。マクラーレンが手がけた往年のマシンの写真をみると、ガルフオイルのロゴが車体を飾っている。戦闘力のあるマクラーレンのマシンと、ともに引き立て合う関係だった。

今回「ガルフ・テーマ」でエルバを仕上げたのは「MSO」。マクラーレンにあってレースカーからスペシャルオーダーの車両まで担当する「マクラーレン・スペシャル・オペレーションズ」だ。同部署のデザイナーが、ガルフ・オイルとマクラーレンの関係をヘリティッジとして、エルバの美を損なうことなく、伝統を連想させるカラーリングで塗り上げた。

六本木のグランドハイアットでお披露目されたガルフ・テーマのエルバ(手前)と、やはりガルフ・テーマのカラーリングを施されたマクラーレン・セナ(奥)。

マクラーレンとガルフ・オイルの新たなる第一章。

レース後に誇らしげにポディアムに上がった、往年のブルース・マクラーレン。

マクラーレンをいま愛する人たちは、創業者ブルース・マクラーレンの偉業も愛している。スコットランドに家系をもつオークランド出身のブルース・マクラーレンは若き時代に、自分でチューンナップしたレースマシンで頭角をあらわした。奨学金を得て英国に渡り、ドライバーとして優秀な成績を収めるいっぽう、66年からはレースで確実に優勝するために、自分でレースカーを製造するようになったのだ。

写真のマクラーレンM8Dは1970年のカンナムシリーズで10レースのうち9勝を獲得。しかしテスト中の事故でブルース・マクラーレンは命を落とした。

1965年にエルバとマクラーレンが開発したM1Aというレーシングマシン(左)と、現代のマクラーレン・エルバ(右)。

F1マシン、ルマン24時間レース用の耐久マシン、米のインディ500レース用マシン、それに当時隆盛をきわめていた北米でのレース「カンナム(カナディアン−アメリカン・チャレンジカップ)」マシン……。マクラーレンはさまざまなマシンをつくり、どれも優秀な成績をおさめた。そのうちの1台が、エルバという英国チームと組んだ、自社ではつくれなかったV型8気筒エンジンを搭載するレーシングマシンであった。つまり、今回のエルバのオリジンだ。

ガルフ・テーマのエルバのお披露目をするマクラーレン・オートオーティブ アジア 日本支社 代表の正本嘉宏。

後ろに投影されているのは、69年のカンナムシリーズでマクラーレンに6つの勝利をもたらした戦闘力の高いマシン、マクラーレンM8B。

「ガルフ・テーマは、マクラーレンのヘリティッジを一般に知っていただくのに格好の道具。同時に、MSO(マクラーレン・スペシャル・オペレーションズ)がどんな仕事を出来るかのショーケース(見本)でもあります。公開したカラーリングは一例。MSOのデザイナー/コーディネーターと話しながら、自分にとってのヘリティッジでエルバを仕上げるのは、自動車好きにとって大きな楽しみになるでしょう」と語るのは、マクラーレン・オートオーティブ アジア 日本支社 代表の正本嘉宏だ。これだけスペシャルなクルマなのだから、お仕着せの仕様では物足りない。そう考えるクルマ好きが世界中にいる。そこで、マクラーレンはMSOをつくって、顧客の要望に応える体制を敷いた。そのMSOが仕上げてくれるのだ。

マクラーレン・オートモーティブのM・フルーウィットCEO(左)、ガルフ・オイル・インターナショナルのM・ジョーンズCEO(中央)、マクラーレン・レーシングのZ・ブラウンCEO。

かつてマクラーレンチームで三度の総合優勝を手にした天才F1ドライバー、故アイルトン・セナの名を車名にもつ800馬力のレースカー「セナ」。今回こちらもガルフ・テーマで彩られた。

MSOのモットーは「Art of the Possible」。可能性を現実化する技術とも読めるし、高い性能(のマシン)という芸術とも解釈できそうだ。これから数年にわたりパートナーシップ契約を結んだマクラーレンとガルフ・オイル(レース用にオイルなどを提供するそうだ)。両社の歴史が再び始まる、その第一章に立ち会えるなんて、エルバのオーナーはなんと幸福なひとであることか。

ベースになるエルバの価格は137万5000ポンド(約1億9000万円)から。ガルフ・テーマはオプションとなる。それこそ、富裕層に許された楽しみなのだ

マクラーレン・オートモーティブ https://cars.mclaren.com