いま明かす、僕らがライカに恋した理由。

  • 文:佐野慎吾、ガンダーラ井上
  • 写真:森山将人(TRIVAL)、工藤悠平(S-14)

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いつの時代も、本物を知る者は必ずライカを選ぶ、と言われています。それは一体なぜなのでしょう。また、いつもは撮影される側の俳優やモデルをはじめ、写真にかかわる機会の多いクリエイターにも、ライカ愛好家は少なくありません。彼らに愛機とのなれそめを訊き、その魅力について考えました。

竹中直人/俳優 1956年、神奈川県生まれ。多摩美術大学卒業。俳優、声優、映画監督、歌手とマルチな才能で活躍中。多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科客員教授。公開中の映画『サムライマラソン』『翔んで埼玉』、4/5公開の映画『麻雀放浪記2020』に出演。

ライカを手にしたのは、アラーキーがきっかけです。

「荒木さんを演じるには、カメラに馴染んでいないといけないし、映画を撮った記念にもなるのでライカを買おうと思いました」

竹中直人さんが監督・主演を務めた映画『東京日和』は、写真家・荒木経惟さんと妻の陽子さんによる同名の私小説を原作にした、センチメンタルなラブストーリー。竹中さんは劇中でプロの写真家に扮しました。

「東京の下町をロケハンしながら、『ライカM7』でたくさん撮りました。楽しかったですよ。シャッターを押す時はドキドキしました。フィルムを巻く感じもいいですよね。最近はデジタルの『ライカQ』で撮ることが多いですが、いま改めてファインダーをのぞいたら、画角に集中する感じが甦ってきて、呼吸が荒くなりました(笑)」

映画公開からほどなくして、竹中さんは香港で運命のライカと出合います。

「ライカにドラゴンが彫ってあるなんて、これはもう、ブルース・リーじゃないか! うわぁ、これ絶対買わないとダメだっ! と運命を感じました(笑)」

竹中さんにとって憧れのブルース・リーを思わせる「ライカM6」の限定モデルは、手に取り街へ出るだけで、高揚感をかき立てるものでした。ですが一方で、ライカはシリアスな写真撮影の道具でもあります。

「フィルムのライカで撮るとある種の重さを感じます。腰つきも変わりますし、そう簡単にはシャッターが押せないです」

Leica M6 Gold Dragon Edition 1995年に香港のシュミットグループとのコラボで300台だけ販売された、ライカM6の特別モデル。カメラ本体のトッププレートと揃いのズミクロン50mmの引き出し式フードに、ドラゴンの彫刻が施され、金色で仕上げてある。ボディとレンズフードにそれぞれシリアルナンバーが入り、革も通常モデルとは異なるレアな一品。

Leica M7 / Q 手前:M7はフィルム機で唯一、絞り優先オートが使える高機能モデル。奥:最近のお気に入りであるQは、フルサイズで28mmの大口径レンズを固定装着したデジタル機。

竹中さんがハワイで撮影した写真。やわらかい夕日に照らされた白いレースの質感が際立つ。モチーフを引き立てながら、硬くならないのがライカの味。(撮影:竹中直人)

レンズから考えて、合うボディを選ぶ派です。――村上淳(俳優)

Leica M2 / M3 / M6 TTL / M8 上段右のM8ホワイトエディションを除き、すべてがアナログのマシン。使い込むならデジタルよりは極力、機械式がいいとのこと。レンズ交換はせず、ボディ1台に装着するレンズは1本と決めているそう。上段の中と左はM3。むき出しになった真鍮と、鮮やかなブルーとのコントラストが目を惹く。中段中と右のM6 TTLは、旧タイプの巻き上げレバーに換装し操作性と見た目をチューンアップ。残り3台のM2はどれも初期型のボタンリワインドタイプにこだわっています。

「基本の『ライカM3』や、無駄を削ぎ落とした『ライカM2』が好きですね。できる限り人の手で直せる機械式がいい。フィルムはすべてモノクロです。いろいろなカメラを使うけど、『ここぞ』の場面では必ずライカですね。10年かけて少しずつ増やしていきました」

村上淳さんがライカに注ぐ熱量は半端ではありません。M型を買っては、コレクションに加えるのではなく徹底的に使います。レンズもライカ用のみならず、映画撮影用の「クック・スピード・パンクロ」など古今東西の名玉も試すことで、キャラクターを深く理解してきました。

「ライカのよさは、つまりはレンズのよさです。被写体の気配を残す“ボケ”が特徴ですよね。ライカを買う時はレンズから考えて、それに合うボディを選びます」

カメラとレンズに施したカスタムペイントについて訊いてみると、「ライカが投機の対象になって高騰しているじゃないですか。それに対するアンチの気持ちです」との返事が。リセールバリューなんて関係ない。ライカで撮る、という強い意志表示がそこにあるのです。

「女性を撮るならライカがいい」。村上さんの言葉通り、まろやかなボケと流れる髪の毛一本まで捉えた描写力はさすが。(撮影:村上淳)

デュアルレンジズミクロンを用いて近接撮影した、村上さんお気に入りの一枚。犬の小さな瞳にキャッチライトが入った“ズバピン”のショット。(撮影:村上淳)

村上 淳/俳優 1973年、大阪府生まれ。現在出演の映画『盆唄』が公開中。公開待機作に『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』『空母いぶき』など。2/24放送のTVドラマ『遺留捜査』、3/9よりBunkamuraシアターコクーンで上演の舞台『空ばかり見ていた』に出演予定。

“運命”を感じた、気品高きエルメスエディション――KIKI(モデル、女優)

Leica MP Edition Hermès ボディに最高級のカーフレザーを巻きつけた2003年発売のライカMP エディション・エルメス。レンズはズミクロン35㎜を使用しており、この組み合わせを変えることはないそうだ。「それは使うよりも飾っておいたほうがいいよ」と言われたこともあるそうだが、KIKIさんのライカMPは、使い続けたことによる経年変化もまた美しい。

モデルとして臨んだ、とある撮影で、カメラマンが使っていたライカに目を留めたKIKIさん。シルバーのボディにブラウンのスムースレザーが巻かれた、優美な佇まいの「ライカMP エディション・エルメス」でした。「ちょっと撮ってみる?」と誘われるままシャッターを押し、すぐに運命的ななにかを感じたそうです。

「シャッター音がまるで絹のように、硬すぎず、なめらかで、とても気品のある音のように聞こえました。ライカのことをろくに知りもしないくせに、ただただモノの魅力に惹かれて、『これはフィーリングで買っても絶対に後悔しないものだ』と確信してすぐに購入しました。それから15年ほど経ちますが、フィルムカメラはこの1台だけをずっと愛用しています」

趣味で山登りを続けているKIKIさんは、このライカMPで山の景色を撮影することが多いそうです。

「遠出をしなくても、地元鎌倉の山を撮影することがライフワークになっていて、最近はトレイルランをする時でも、このカメラをぶら下げて走っています」

「普通は目に見えない光が、フレアとなって写り込む感じが好きなんです」とキキさん。それを予想しながら撮影する時と仕上がりを見る時両方の、ワクワクの大きさはフィルムならでは。(撮影:KIKI)

KIKI/モデル、女優 1978年、東京都生まれ。武蔵野美術大学の建築学科在学中からモデルとして活動を開始。並行して、女優業やラジオパーソナリティ、書籍の執筆など幅広く活躍している。建築写真を撮ることでカメラに親しむ中で、登山好きが高じて山での撮影もライフワークに。


…以上、「いま明かす、僕らがライカに恋した理由。」でした。こちらの記事は、2019年Pen3/1号「完全保存版 ライカで撮る理由。」特集からの抜粋です。気になった方、ぜひチェックしてみてください。アマゾンで購入はこちらから