捨てられないアナログ音源が、鮮やかに蘇る。

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    青野 豊・写真photographs by Yutaka Aono

    捨てられないアナログ音源が、鮮やかに蘇る。

    レコードやテープなどのアナログ音源を、高音質でデジタル音源化してくれる。実勢価格¥60,000

    ハイレゾ再生機のUSB DACが普及しているが、これまではすべて「再生専用」だった。パソコンと接続し、デジタル音声信号をUSBケーブル経由で引き込み、アナログ信号に変換するのが、USB DACの役割。ところが、コルグの新DAC、DS-DAC-10Rは何と「録音」ができるのである。それも、アナログからの録音だ。つまり、入力したアナログ信号を内部でデジタル信号に変換するAD変換機能をもつということ。LINE入力はもちろん、レコードプレーヤーからのフォノ入力も搭載したから、レコードもデジタル信号に取り込むことができる。 

    問題は音質だ。デジタルにすれば音がよくなるわけではない。どんな音質でアナログからデジタルへ変換するのか、その質が問われる。 
    その点、本製品の音質は保証付きだ。コルグのUSB DACの高音質ぶりは業界で定評がある。特にDSD技術への精通は間違いなく世界一。DSDとはデジタルの音声方式の中でも、特に高音質なフォーマットで、最近、配信シーンでも人気だ。 

    用途は大きくふたつある。まずレコードからのリッピングだ。レコードはアナログでヒューマンな音を聴かせてくれるが、CDやファイル再生に慣れた身としては、ジャケットから取り出し、ターンテーブルに載せ、しずしずと針を落とすのは、やはり面倒。そこで、本機の登場だ。レコードプレーヤーからの出力信号をそのまま背面の端子に接続すればよい。録音作業は、専用のソフトウェアを使ってパソコン上で行う。LINE IN端子ももつから、カセットデッキからも録れる。

    私は大学時代から、FMエアチェックに夢中だった。カラヤン&ベルリン・フィルなどの世界の名演奏家の日本ライブはレコード化されないものがほとんどで、エアチェックしたテープは大変貴重な価値をもつ。でも、いまではカセットやオープンデッキが壊れて、デッドストックになっていた。今回、デッキメーカーに保存してあったデッキを使わせてもらい、本DSCでDSD5.6MHz録音した。まことに素晴らしいではないか。30~40年前のエアチェックだが、まるでつい昨日録音したような新鮮さ。テープはへたっていないのだ。カラヤン&ベルリン・フィルの大阪ライブ、杏里の「悲しみがとまらない」のライブ、竹内まりやのデビューインタビューなど、70年代後半の時代の空気がスピーカーからあふれ出るようだった。これらはもはやデジタルファイルになったから、PCオーディオやハイレゾ携帯端末で、いつでも好きに再生できる。
    DAC-10Rは世界遺産的なアナログをデジタルで蘇生させてくれる、魔法の音楽タイムマシンだ。

    レコードプレーヤーを直接接続できる端子を装備。カセットデッキなどのLINEレベル入力にも対応している。

    麻倉怜士
    デジタルメディア評論家。1950年生まれ。デジタルシーン全般の動向を常に見据え、巧みな感性評価にファンも多い。近著に『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)『パナソニックの3D大戦略』(日経BP)がある。
    ※Pen本誌より転載