モダンで小さな 筐体から発する、稠密なサウンド

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    青野 豊・写真photographs by Yutaka Aono

    モダンで小さな 筐体から発する、稠密なサウンド

    358×210×306㎜というコンパクトなサイズながら、重厚感のある音が発せられる。¥68,000

    イギリスのメーカーKEFは、これまでも傑作を多数生み出してきたが、最新のQX50シリーズを聴き、素晴らしく音楽的な音調と明瞭な解像感、音進行の速さ、レンジ感の広さに感動した。前世代のQシリーズもC/PTが高く、お薦めのスピーカーを尋ねられたら、Qを挙げるのが常だった。クラシック、ジャズ、ポップと種類を選ばず、その音楽的な感興を澄み切ったクリアで端正な音で再生するので喜ばれたものだ。早速、最新のQ350(25㎜ドーム型トゥイーター+165㎜コーン型ウーファー)を試聴したが、音楽的な表現力が前作と比べても格段に増したことがわかった。

    KEFの宝は同軸型ユニット「ユニQ」だ。スピーカーでは、音は一点から発せられるのが理想だ。なので全帯域をひとつのユニットで賄うことができればよいのだが、現実には物理的に無理。なので2ウェイで、低域専用と高域専用のふたつのユニットをボックスに取り付ける。すると発音位置の違いにより音場再現に歪みが生じ、また位相特性(波形の同一性)もずれる。でも低域、高域を専用ユニットに分けないと、低音から高音まで再現はできない……と、大いなる矛盾にスピーカーメーカーはいつも悩まされていた。

    そんな問題を解決したのが、同軸型のユニQだ。低音用のコーンの中央にトゥイーターを配し、高音と低音が同一位置から発せられる。点音源だから理想の発音形態であり、拡散性がよく、直進性の高い高域も豊かに広がる。当然、本スピーカーにも、ユニQユニットが装備されている。モデルチェンジに当たっては、ユニQユニットを全面改良した。

    同軸トゥイーター部にローディングチューブという空気抜きの三角形の管を与え、低域とのつながりを改善。低音増強用のバスレフポートは、前面から後面に位置変更した。ポートからの音漏れやノイズを実質的に減らし、中音域の明瞭度を向上させることに成功。それに伴い、ユニQユニットをフロントバッフルの中央へ配置し、キャビネット内部で発生するノイズも音響的に低減する……などなど、各種の改良を経て、得られた音は素晴らしい。

    非常に緻密で綿密。細かな音の流れがとても心地いい。音楽のエッセンスが、この小さなスピーカーから濃密に聴こえてくる。特に音のグラデーションが稠密。価格が遥かに高いハイエンドなスピーカーを、ある意味、彷彿させるところがある。

    鳴らしやすいスピーカーなので、低価格のAVアンプなどでも十分いい音が得られるだろう。コンパクトタイプのQ350以外にも、広い部屋にはQ550、Q750、Q950のフロア型が適する。質感が高くスケール感が雄大な低音と、ビビッドな中高音が楽しめる。

    ブラックの他に、サテンホワイトもラインアップ。落ち着いた質感なので、インテリアにも合わせやすい。

    麻倉怜士
    デジタルメディア評論家。1950年生まれ。デジタルシーン全般の動向を常に見据えている。巧みな感性評価にファンも多い。近著に『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)、『パナソニックの3D大戦略』(日経BP社)がある。
    ※Pen本誌より転載