「ウブロ」はどこへ向かうのか? 疾走する人気腕時計ブランドの現在をCEOが語りました。

  • 写真:宇田川淳
  • 文:Pen編集部

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ウブロCEOリカルド・グアダルーペ。1965年スイス・ヌーシャテル生まれ。米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)を卒業。2012年より現職。

ここ数年、腕時計業界で「いま勢いがあるブランドは?」 と聞くと、「ウブロ」という答えが返ってくる確率が、かなりの高さといって間違いではないでしょう。

1980年に設立され、現在ジュネーブ近郊のニヨンに本社と自社工場を構える「ウブロ(HUBLOT)」は、老舗が居並ぶ腕時計業界では、まだ新興といえる存在です。しかし設立当初から他ブランドとは一線を画す腕時計づくりを得意とし、特に2005年の「ビッグ・バン」の誕生以降、常識をくつがえす新商品や画期的な新素材の採用などで常に話題を集めながら急成長を遂げ、業界のトレンドを牽引するポジションをあっという間に獲得していきました。

この注目ブランドを、カリスマ的存在のジャン-クロード・ビバー会長とともに率いる人物が、リカルド・グアダルーペCEOです。グアダルーペは今夏、京都・祇園に誕生した「ウブロ ブティック京都」の開店イベントのために来日を果たしました。ウサイン・ボルトの電撃的訪問によって、世界中にその様子が配信されたイベントから一夜明け、グアダルーペは東京で我々のインタビューに応えてくれました。さっそく、その様子を紹介していきましょう。


──「ウブロブティック京都」は、どのような経緯を得て、オープンに至ったのでしょうか?

グアダルーペCEO(以下、グアダルーペ) 「町家プロジェクト」のことを知って、非常に面白いと思ったのがきっかけです。ウブロは「アート・オブ・フュージョン」、つまりフュージョンによる芸術性というものを最重要視しているのですが、伝統に敬意を表しながら新しいものをつくるこのプロジェクトが、ウブロにぴったりではないかと感じたのです。

──このブティックでは、ウブロらしさをどのように「フュージョン」させたのですか?

グアダルーペ たとえばブティックの内装に使われてる素材ですね。竹であったり和紙であったり。2階には茶室を設えているのですが、ほかにもソファに織物を使うなど、日本や京都といって思い浮かぶ和の素材を使い、そこにウブロのインタラクティブなディスプレイを融合させています。町家という伝統的な場所にインスパイアされながら、しっかりとウブロらしさを融合した店がつくれたのではないでしょうか。

──このお店は、どのような客層をターゲットとしているのでしょうか?

グアダルーペ 京都という土地柄、いわゆる観光目的でいらっしゃってる方が来てくれることもあるでしょうし、地元の時計好きな方も来店してくれるでしょう。メインターゲットとしては、やはり若い実業家の方々が来てくれれば良いなと思います。若いというのは単に年齢が若いということではなくて、マインドセットが若いという意味であることをご理解ください。ほんとうに年齢が若い方もいらっしゃいますが、考え方が若い方々が、メインの顧客層ではあります。

──この京都ブティックの記念モデルは、リリースされるのでしょうか。

グアダルーペ まだ構想中ですが、おそらく来年にお披露目できると思っています。やはりフュージョンというのを感じさせられるモデルで考えていますよ。


2017年8月、京都・祇園にオープンした「ウブロブティック京都」。世界で88店舗目、日本では3店舗目となる直営ブティックです。

ウブロは今回、大丸松坂屋百貨店をパートナーとして、歴史的な建築様式と町並みを保存活用する祇園の「町家プロジェクト」に参加する形で出店を果たしました。

ポップアートで彩られた、ブティックの内装。特注の和紙や網代、竹といった日本の伝統素材がそこかしこに用いられています。

「革新性において、ウブロは常にリーダーでありたい」

「ウブロブティック京都」のグランドオープニングイベントの様子。ウブロのアンバサダーであるアスリートのウサイン・ボルトが駆けつけた。

──ウブロブティック京都のオープニングイベントの様子をお聞かせください。

グアダルーペ 今回はチャリティイベントを行ったのですが、ウブロのアンバサダーであるウサイン・ボルトが来てくれました。引退を表明してから初のイベントにウブロを選んでくれて、非常に光栄でした。そして、子どもたちと何かしたいという希望があったので、ボルトが走りのアドバイスをした後、子どもたちがボルトの記録に挑むというチャリティランを行ったのです。陸上競技での彼の実績に対する尊敬も、表せたかなと思っています。

──さて、いよいよ時計についてうかがいますが、3月のバーゼルフェアで発表されたフェラーリの70周年記念モデルや、ブルーのサファイアクリスタルケースのモデルなど、近年のウブロは内外装の開発力を高めていると思います。こうした成果はどんな要因で生まれてきてるんでしょうか。

グアダルーペ ウブロは革新性において常にリーダーでありたいというのが念頭にありますから、いままでも研究開発にはかなり力を注いできたといえます。ひとつが素材からの面、もうひとつがムーブメントからの面。先ほどおっしゃったブルーサファイアは素材からの面になるんですが、ウブロは高級ブランドとして初めて、サファイアを工業的なアプローチで数多くつくれるようになりました。いままでは10本、20本という単位だったたものが、一気に数百本という単位でつくれるようになったというのは、非常に大きなことです。

──その数は年間での生産数ということですか?

グアダルーペ ええ、年産ですね。昨年は500本でした。ムーブメントに関しても、先ほどおっしゃったフェラーリの記念モデル「テクフレーム」はムーブメント開発の面からも革新的ですが、いわゆるエクステリアも初めてフェラーリのデザインチームが開発したかたちになるので、まったく違なる業界から影響を受けてつくることができた、非常に稀有で優れたモデルだと思います。

──今後は、内外装どちらにより注力していくんでしょうか?

グアダルーペ 今後も両方に注力していければと思っています。特に、内装にあたるムーブメントは1日で新しいものをつくれるわけではありませんし、いかんせん開発に時間がかかります。けれどもやはり、ムーブメントは非常に大事だと思っています。一方の外装に関しては、たとえばサファイアであったり、傷がつかない18Kマジックゴールドであったり、常に新しい素材を考えています。セラミックについては新たなアイデアがありますし、それ以外にプラチナでも構想が生まれているようです。

──プラチナとセラミックに関して、なにか教えていただけませんか。

グアダルーペ たとえばですが、セラミックは色を着けることが非常に難しく、色素が素材をもろくしてしまうので強度を保つことも難しい。ですがその解決方法が見つかったようなので、来年はすべてレッドセラミックでつくられたモデルをお披露目できるのではないかなと思います。

──すごく格好よさそうですね。開発には4年かかっていると聞きました。やはりファーストロットですし、それなりに値段は上がってしまうのでしょうか?

グアダルーペ 正確な値段はまだ分かりませんが(苦笑 おっしゃる通りレッドセラミックに関しては、4年ほどかかっています。小さなディスクのようなものをつくるのはそんなに難しいことではないんですが、量産するとなると話が全然違ってきますので。マジックゴールド用に色々な施設に投資しましたが、レッドセラミックの時計となると、そういった投資の必要があるので、そこでもまた努力をしています。

──まずは少ないロットから始め、好評であればマジックゴールドのように量産化に向けて進んでいくというプロセスでしょうか?

グアダルーペ 最初は確かに数を限るのですけれども、数十本という単位ではなく、数百本くらいのレベルになるのでは。もともと真っ赤な時計の需要というのが、全体から見るとそこまで多くないと思いますし。また、もともとウブロは黒というイメージが非常に強いので、生産する数はとてもエクスクルーシブなものになるとは思うんですね。

──最後に、新しいアンバサダーの起用や、新しいイベントをスポンサードするとか、そういった情報があったら教えていただけますか。

グアダルーペ 固有名詞は出せないのですが、スポーツ以外にも新しいジャンルを切り開きたいなというのがあります。例えば音楽でしたら現在デペッシュ・モードがアンバサダーになってますし、アートのほうにもいくつかプロジェクトが進行中なので、そちらのほうに力を発揮していければと。それ以外にも、同じグループ内の「ベルルッティ」や「イタリアインディペンデント」とのコラボレーションがあります。お客さま自身がさまざまなジャンルに興味をもっていらっしゃる方が多いので、そうしたお客さまに合ったイベントやプロジェクト、アンバサダーというのが立てられればいいなとは思っています。

──今日はどうもありがとうございました。

写真は新作の「スピリット オブ ビッグ・バン オールブラック」シリーズ。ほかにもウブロブティック限定モデルや、世界各国の限定モデルを集めた「ウブロ ワールド リミテッド コレクション」を日本では唯一この店で展開しています。

ウブロブティック京都
住所:京都府京都市東山区祇園町南側570番地8
TEL:075-533-2711
営業時間:11時~19時
不定休

●問い合わせ先/LVMH ウォッチ・ジュエリージャパン/ウブロT03-3263-9566 www.hublot.com