文鳥のごとく愛らしい、小型ドローン

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    青野 豊・写真photographs by Yutaka Aono

    文鳥のごとく愛らしい、小型ドローン

    300ℊという小型軽量のタイプの登場で、ドローンがぐっと身近なものになる。¥65,800

    私はムービー撮影に関し、ある夢をずっと抱いていた。撮影者自身が映像に入ったらどんなに楽しいか。家族旅行では、いつもムービー撮影係だった。当の自分は当たり前だが撮影しているので、画面の中に入れないし、家族とも離れてしまう。

    そこで、私はムービーメーカーのトップに直訴し、歩いている横を空中で追尾する「空飛ぶムービー」の開発を提案した。いまから7〜8年前のことだ。当のメーカーは、まずは飛ぶ昆虫(カブトムシ)にカメラを装着することから考えたが、なかなか現実性はなかった。

    ……そんな経験をしているので、このドローン「スパーク」の登場には目を見張った。対象物をロックオンしたら、上空を飛びながら追尾して撮り続ける。マラソンしている自分の走り姿を空中から追いながら撮影してくれるのである。これは凄い。個人用のドローンは、つまり「空飛ぶカメラ」である。静止画、動画撮影用のカメラが初めから内蔵されているから、鳥の目になって景色や建物を空中から撮るためのものだ。なかでもスパークは「自撮り」に強い。

    その小ささ、軽さは、手乗り文鳥のよう。ボタンを2回押して電源を入れ、カメラにユーザーの顔を認識させる。するとプロペラが勢いよく回転し始め、下向きに強力な気流を押し出す。風の勢いを手に感じると、離陸だ。手のひらから、しずしずと文鳥が飛び立つイメージ。

    飛行制御はスマホアプリや専用の送信機(プロポ)で行うが、驚くのが、これらを使わずとも手を動かして意図を伝えられるジェスチャーコントロールだ。東京・潮見の「ドローンスクールジャパン東京潮見校」の屋内飛行場で体験した。自分の1・5ⅿほど前にホバリングさせ、手のひらを向けて、右に手を動かすとスパーク君も素直に右に移動、左に動かすと左に移動する。近寄ると遠ざかる……。犬や猫でも言うことを聞き入れてくれると嬉しいが、空中を飛ぶペットなら、なおさら。

    ここからが凄い。手を左右に振ると、後方上空3ⅿの位置に斜め上昇して待機、主人の指示を待つ。両手の親指、人差し指で写真の四角のフレームのような形をつくると、それが「シャッターを切れ」の合図になる。最初はなかなか認識してくれなかったが、しっかり四角をつくったら、セルフィー撮影、見事成功。両手でバンザイポーズしたら、目の前にかわいく帰ってきた。胴体の下に手を入れると、手の上にゆっくりと着陸。なんだか愛おしい。

    冒頭で述べた追尾型自撮り用のアクティブトラック機能は、自分の周囲を旋回しながら追尾撮影する「トレース」、並走して撮影する「プロフィール」がある。「空飛ぶカメラ」ドローンは個人の趣味になる。そう確信した。

    スマホアプリだけでなく、ジェスチャーでも操作可能。写真のように手を構えると、シャッターが切られる

    麻倉怜士
    デジタルメディア評論家。1950年生まれ。デジタルシーン全般の動向を常に見据えている。巧みな感性評価にファンも多い。近著に『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)、『パナソニックの3D大戦略』(日経BP社)がある。
    ※Pen本誌より転載