革新の“ミニッツリピーター”から、「オーデマ ピゲ」の技術と伝統を読み解きます。

  • 写真:齋藤暁経
  • 文:並木浩一

Share:

世界が注目する「スーパーソヌリ」の新作とともに来日した、オーデマ ピゲ・ルノー エ パピ ディレクターのジュリオ・パピ(右)と、オーデマ ピゲ(AP)の一員であると同時にグローバル ブランド アンバサダーを務めるクローディオ・カヴァリエール(左)。腕時計ファンにはよく知られた存在です。

スイス高級腕時計ブランドの雄、「オーデマ ピゲ」の驚くべき最新技術が、“スーパーソヌリ”です。音で時刻を知らせるミニッツリピーターの機構を画期的に革新したこの機構は昨年、2016年にヴェールを脱ぎました。そして、その最新作が「ジュール オーデマ・ミニッツリピーター・スーパーソヌリ」です。去る7月、至高の一品を携えてオーデマ ピゲのキーパーソンふたり、ジュリオ・パピ(オーデマ ピゲ・ルノー エ パピ ディレクター)とクローディオ・カヴァリエール(グローバル ブランド アンバサダー)が来日。世界が讃えるその機構の真髄と、「オーデマ ピゲ」の伝統を語ってもらいました。


──今回、日本にお持ちになった最新作『ジュール オーデマ・ミニッツリピーター・スーパーソヌリ』の特徴、技術的アドバンテージをご説明頂けますか。

ジュリオ・パピ(以下パピ) 「昨年発表した『ロイヤル オーク コンセプト・スーパーソヌリ』とは、少し趣が異なります。文字盤はグランフー・エナメルで、中心と外縁で色が異なるフュメ・ダイヤル。そしてケース素材はプラチナです。実は、プラチナというのは音を響かせるには相応しくない素材なのです。重くてやわらかく、音の伝導には決して望ましいものではない。伝導がよい素材は、たとえば教会の鐘に使われるブロンズのような金属です。しかし私たちの技術は、ケースを通じて音を伝えているわけではない、だからプラチナでも構わないのです。しかも、防水性をもたせながら、いかに音を(時計の)外へ響かせていくかという難問を解決しています」 

「実際、『ジュール オーデマ・ミニッツリピーター・スーパーソヌリ』に採用された“スーパーソヌリ”は、ケースそのものではなく“音響板”で音を響かせるという独創的なシステムです。音を鳴らすためのゴングも従来のミニッツリピーターのように(ムーブメントの)地板に固定するのではなく、この音響板に取りつけられています。ゴングの振動は地板を通じてケースに至るのではなく、直接この音響板に伝達されるのです。裏蓋には開口部があり、音響板との間の空間で音が増幅されて、より広がっていきます。ケースに依存せず、独立した機構の中で豊かな音色と音量を確保できるのです。このシステムのもと、従来は可能性が狭められていたケース素材の選択にも、“フリーハンド”が提供できました。時計そのもののあり方が機構によって束縛されてしまうという本末転倒の状態から、ミニッツリピーターを解放したのです」

複数のブランドで製造部門のマネージャーを経験、APでも開発のトップなどを経て現職にあるカヴァリエール。「ブランド内部の人が務めるアンバサダー」という異例のポジションも時計に精通した男ならでは。APの魅力を的確に情報発信します。

AP在籍を経て、一度独立したパピ氏。現在は「オーデマ ピゲ・ルノー エ パピ」で凄腕をふるう、腕時計界の生きる伝説。起業家としても一流ながら、2008年にジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリの最優秀時計師賞を受賞したこともある天才時計師。

オーデマ ピゲがつくり上げてきた歴代のミニッツリピーターが、今回の来日に帯同。ポケットウォッチ時代から始まる複雑機構の系譜は、そのまま腕時計の発展史に重なります。

独創的な「スーパーソヌリ」は、オーデマ ピゲだからこその“発明”です。

往年の逸品のひとつは、こんなに華奢なサイズのミニッツリピーター。そもそもポケットウォッチの機構を、腕時計で再現するのは至難の技でした。

──数々の複雑機構の中で、ミニッツリピーターという存在の意義についてお考えを教えてください。たとえば、暗闇の中でも時間がわかるというのはロマンティックな気がするのですが。

パピ 「いまや(機構が開発された時代の)2世紀前とは違って、ミニッツリピーターは象徴的な存在です。ロマンティックな存在である、というのはその通りですね。夜、明かりがなくても音で時間を知ることができるものですが、現代でも毎日使う時計に採用されている。古い技術が、楽器のように感動を与えてくれる機能、時計芸術を象徴するような存在になったというわけです」

オーデマ ピゲは創業地ヴァレー・ド・ジュウ(ジュウ渓谷)のル・ブラッシュを一度も離れたことがありません。しかも創業以来の独立経営を貫く硬骨さは、資本の論理に左右されない独創的な腕時計造りを可能にしてきました。極めて独創的な『スーパーソヌリ』も、そうしたブランドだからこその発明と言えるかもしれません。

これが、世界の注目する「スーパーソヌリ」の最新作。ノーブルな佇まいの中に、世界最先端の技術を秘めた傑作です。

──オーデマ ピゲが成し遂げてきたことについて、いまどのように自己評価されますか。

クローディオ・カヴァリエール(以下カヴァリエール )「オーデマ ピゲは1970年代のクォーツショックを超えて、伝統的な複雑時計に回帰した最初のブランドだと思います。それも、本来は繊細な複雑機構を、現代的に信頼性を高めた時計とすることで回帰したのです」

パピ 「スーパーソヌリはその究極の形と言えるでしょう。私たちが成し遂げたことを評価するとすれば、“アンティーク”な複雑機構を進化させていることだと思います」

ジュリオ・パピさんは、腕時計ファンなら一度はその名前を聞いたことがある伝説的な「ルノー エ パピ」、つまりスイス腕時計のシンクタンクであり、誰も実現できない機構と腕時計を形にする、奇跡の工房の共同ファウンダーです。その後ルノー エ パピは、出身母体との協力関係を強め“オーデマ ピゲ・ルノー エ パピ”となり、複雑時計の頭脳集団としてスイス時計界に君臨しています。

実物を拡大した模型を使って、“音響板”を使う「スーパーソヌリ」の画期的なシステムを説明していただきました。

──日本のコノシュアにはどのような特徴があるかについてお聞かせください。

カヴァリエール 「日本人は、非常に要求度の高い方々です。シンプルなことについてこだわりながら、クオリティの高いものを求める。それは、つくり手である私たちにも共通するものです。レオナルド・ダ・ヴィンチも、究極の洗練さはシンプルの中にある、と言っていますよね」

ハンマーがゴングを叩く速度を調整(調速)するガバナーには色々な方式がありますが、APは伝統的にこの模型のようなアンクル式。「スーパーソヌリ」では更にアンクルにバネのような弾性を持たせ、静音を果たすサイレント・ガバナーを開発・搭載しています。

──スーパーソヌリは、まず『ロイヤル オーク コンセプト』で発表し、次にクラシカルな『ジュール オーデマ』が出たわけですが、その戦略は?

パピ 「実は発表前に、両方とも構想が存在していて、どちらを先に発表するか迷ったのです。なぜ『ロイヤル オーク コンセプト』が先になったかというと、『伝統的な複雑機構を現代的に解釈して表現した』コンセプトのわかりやすさからです。いっぽう『ジュール オーデマ・ミニッツリピーター・スーパーソヌリ』は、誤解を呼びかねないほど常識破りなのです。プラチナ製の新しいミニッツリピーターは、どんなケース素材・形状、どんな条件でも豊かな音が生み出せる、ということを証明するものです。私たちが目指したのは、昔のオーデマ ピゲのポケットウォッチがそうであるように、どこまでも『聴いていて心地よい音』なのです」


オーデマ ピゲの叡智を結集した「ジュール オーデマ・ミニッツリピーター・スーパーソヌリ」。ブティック限定。

●問い合わせ先/オーデマ ピゲ ジャパン TEL:03-6830-0000 www.audemarspiguet.com/jp/