機械式時計の名門「オーデマ ピゲ」が、複雑機構“トゥールビヨン”にこだ...

機械式時計の名門「オーデマ ピゲ」が、複雑機構“トゥールビヨン”にこだわり続ける理由とは。

写真:齋藤経暁 文:笠木恵司

オーデマ ピゲのグローバル ブランド アンバサダー、クローディオ・カヴァリエールさん。トゥールビヨンのプロモーションで来日した。

スイスのジュウ渓谷に本社をもつ「オーデマ ピゲ」は、創業当初からパーペチュアルカレンダーなどの超複雑時計を手がけてきた名門です。伝統的な機械式時計では最高峰の機構とされるトゥールビヨンにも強いこだわりをもち、1986年に初めて腕時計に搭載。当時世界最小・最薄のトゥールビヨンとして大きな話題となりました。そのトゥールビヨン機構の直径はわずか7.2㎜。1㎝にも満たないサイズです。残念ながら「世界最薄」は数年前に更新されましたが、「世界最小」の記録は現在でも破られていません。

オーデマ ピゲのトゥールビヨンは、その後も目覚ましく進化。このたび来日したグローバル ブランド アンバサダーのクローディオ・カヴァリエールさんは「現在のモデルは第4世代にあたります」といいます。しかしながら、そもそもトゥールビヨンは上着のポケットの中で直立した姿勢となる時間が長かった懐中時計のために、19世紀初頭に発明された仕組み。懐中時計に比べて、腕時計は常に姿勢が変わります。それでもトゥールビヨンは時計の精度維持に効果があるのでしょうか。

「トゥールビヨンは、時計の精度に直結する調速脱進機をキャリッジ(ケージ)にまとめ、これを回転させることで、重力の影響を平均化あるいは相殺する仕組みです。潤滑油のかたよりを是正するという効果もあります。腕時計でも、懐中時計のように直立した姿勢になることはしばしばあり、垂直方向に力がかかるので、その基本的な働きに変わりはないと思います。それに加えて、現代では精緻な動くアートオブジェとしての価値も高くなってきたといえます」

トゥールビヨンの動きを視認できるように拡大した模型。ゼンマイを巻くと動き出し、テンプが往復振動しながら回転していく仕組みがよく分かる

「ロイヤル オーク・トゥールビヨン・エクストラ シン」。ケース厚9㎜の超薄型トゥールビヨン。ケースはステンレススチール、直径41㎜、手巻き。価格は要問い合わせ。

「ロイヤル オーク・コンセプト フライング トゥールビヨンGMT」。未来的なデザインの中に、ダイヤル側にブリッジのないトゥールビヨンを搭載。ケースはチタン、手巻き。価格は要問い合わせ。

テンプが往復振動しながら1分間に1回転するダイナミックな動きは、カヴァリエールさんが指摘したように、他の複雑機構では決して見られないトゥールビヨン特有のアーティスティックな魅力といえます。そのせいか、21世紀に入ってから各ブランドが競うように腕時計に採用。中には2軸、3軸で立体的に回転するトゥールビヨンや、ダブルで搭載したモデルもあるほか、近年は超高価な複雑機構というイメージを覆す安価なトゥールビヨンも登場しています。

「トゥールビヨンという機構そのものは、合理化などによってコストダウンすることが可能でしょう。2軸、3軸についても、そこまで必要かどうかはブランドの考え方によります。オーデマ ピゲでは熟練した職人による丁寧なハンドクラフトにこだわっており、数は少ないけれども、芸術的ともいえる複雑時計を生み出すことがDNAになっています。それを踏まえた上で、古い時代のテクノロジーを現代の腕時計に置き換え、さらに様々なシチュエーションで使えるトゥールビヨンを展開してきました」

伝統を忠実に継承したクラシックなモデルはもちろん、10日間のパワーリザーブのクロノグラフと組み合わせたモダンなモデルや、腕に貼りつくような超薄型モデルも製作するオーデマ ピゲ。最新の「ロイヤル オーク コンセプト・フライング トゥールビヨン GMT」は、ダイヤル側にブリッジのないフライングタイプ。遮るものがないため、その全貌と動きがよく見えます。約10日間巻きを継承したロングパワーのスポーツタイプであることも異色です。「このモデルは、超複雑機構のトゥールビヨンを金庫の中にしまい込むのでなく、日常的に使うことを前提に開発されました。スポーツももちろんOKですよ」とカヴァリエールさんは説明します。

1986年に発表されたオーデマ ピゲで初のトゥールビヨン搭載腕時計。当時世界最小(トゥールビヨンの直径は7.2㎜)で最薄だった。プラチナ・イリジウム合金製ローターを搭載した自動巻き。

1986年から製作してきた主要なトゥールビヨン。ミニッツリピーター、永久カレンダーも搭載したグランドコンプリケーションまで、オーデマ ピゲの技術を感じさせるモデルが揃っている。

トラディショナルなモデルから近未来的なスポーツモデルまで、オーデマ ピゲのトゥールビヨンは実にバラエティに富んでいます。それぞれのモデルが明確な目的と用途をもっていることも共通していますが、何よりもトゥールビヨンのパーツが限界ギリギリまで肉抜きされており、透け感に優れていることも際立った特長ではないでしょうか。しかもパーツのすべてが手作業で丁寧に仕上げられています。つまり、見られることを強く意識して製作されていることがオーデマ ピゲのトゥールビヨンの傑出した特長であり、だからこそ動くアートオブジェとしての価値も抜きんでているわけです。

「トゥールビヨンは単なる複雑機構ではなく、時計ブランドに求められるおよそすべてが凝縮されています。機構の開発・設計力から、組み上げや調整まで含めた技術力はもちろん、時計のデザインや装飾性、磨きなどの仕上げを含めた、あらゆるものを代表しているといえるでしょう。いわばピラミッドの頂点にあって、全体を象徴するキャップストーン(冠石)のような存在。だからこそ、オーデマ ピゲはトゥールビヨンにこだわってきたのです」

イタリア出身のクローディオ・カヴァリエールさんは。大学では機械工学と経営学を専攻。2007年にオーデマ ピゲに入社。プロダクト製造のトップを経て、商品マーケティングのトップに就任した。

●問い合わせ先/オーデマ ピゲ ジャパン
TEL:03-6830-0000 
www.audemarspiguet.com/jp/

機械式時計の名門「オーデマ ピゲ」が、複雑機構“トゥールビヨン”にこだ...
Feature Product いまを生きる男たちに似合う、「ハミルトン」というスタイル ③カーキ編
Feature Product いまを生きる男たちに似合う、「ハミルトン」というスタイル ③カーキ編