高級腕時計の世界をリードする「オーデマ ピゲ」、来日したCEOにその秘密を聞きました。

  • 写真:江森康之
  • 文:笠木恵司

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オーデマ ピゲCEO、フランソワ−アンリ・ベナミアス 。1964年フランス・パリ生まれ。ジョルジオ・アルマーニなどラグジュアリー・ファッション界を経て94年にフランスでオーデマ ピゲに入社。99年に北米支社の社長兼CEO。2013年1月から現職。

1993年に発表され、ダイナミックなラグジュアリースポーツウオッチの先駆けとなったオーデマ ピゲ「ロイヤル オーク オフショア」。誕生25周年を迎えた今年はこれを記念して、各種のリミテッド・エディションが発表されました。すでに限定本数を上回る予約注文が入っているそうですが、これ以外のコレクションも高く評価されている「オーデマ ピゲ」は、現在の高級時計の世界をリードする存在と言って間違いありません。オーデマ ピゲがなぜこれほど人気なのか、2月に来日したフランソワ−アンリ・ベナミアスCEOに聞きました。

「昨年の時計業界は厳しい環境でしたが、オーデマ ピゲは絶好調でした。今年も『ロイヤル オーク オフショア』誕生25周年記念モデルでは、メンズはもちろんレディスでもダイヤモンド・セッティングの特別モデルが限定本数を超えるオーダーを頂いてます。こうした人気は特定の理由ではなく、複数の要因がうまく融合した結果だと思います」とフランソワ−アンリ・ベナミアスCEO。

「私が考える要因はまず、流通チャネルを有力な販売店に絞り込んだこと。コレクションを整理してラインアップの個性を分かりやすくしたこと。そして、デザインだけのリニューアルでなく完全な新作を発表してきたこと。ブランドイメージがしっかりと定着してきたこと。この4点ではないでしょうか」

ブレスレットまで含めた完全なフルセラミックの「ロイヤル オーク」や、大胆な発想を高度な技術力で具現化した各種の「コンセプトモデル」など、確かにベナミアスCEOが指摘したような「完全な新作」が少なくありません。さらに、仕上げでもケースに宝石のような煌めきを加える「フロステッドゴールド」を独自開発。こうした快進撃ともいえる勢いや強みは、どのように生まれてきたのでしょうか。

「オーデマ ピゲで働く1人ひとりの従業者が、自分たちは世界のどこにいて、何をしなければならないかという目標を共有しているからです。仕事に対して疑問をもったり悩むことがないというだけでなく、共通認識をもつための長い会議も不要になり、迅速に意思決定ができます。これは3年前に私がつくったプログラムも効果を発揮していると思います」

そのプログラムとは、本社の全従業員がCEOと直接対面し、2分間で2つの質問に答えるというものです。第1の質問は、会社に出勤してドアを開けた時の喜びを1から最高を10として表わすといくつになるか。第2の質問は、会社で改善して欲しい5つのこと。これは業務に直接関連するものだけでなく、会社のコーヒーがマズいから何とかしてくれといった小さなことでも構いません。そこで出された改善要望は直ちに関連部署に伝達。彼らの諒承が得られればすぐに実行します。

「本社の従業員は約1000人ですが、その全員が1対1でCEOと話すことで、彼らの満足感につながるだけでなく、みんなが同じ意識を共有できるようになることが最大のメリットです。それによって面倒な会議抜きですべてをスピードアップできます。それに基づいて、私はいつもみんなに『立ち止まらず動け。Move, Don't wait!』と声をかけています」

毎年ジュネーヴで行われるSIHH(国際高級時計展示会)で多数の新作が発表されてきたのも、そうした意欲的な社風が浸透した成果に違いありません。ちなみに、このSIHHは近年になって参加ブランドが急増。3月に開催されるバーゼルワールドから移行したブランドも目立ちます。オーデマ ピゲは以前からSIHHの常連ですが、こうした動きの背景にあるものは何でしょうか。

「あくまで個人的な意見ですが、SIHHの会場は高級時計にふさわしい落ち着いた雰囲気。プロフェッショナルなムードとも言えるでしょう。出展パビリオンもクオリティが統一されています。会場内外のホスピタリティもかなり違いますよね。新しい年の1月に開催されることもアドバンテージ。それに比べると3月のバーゼルワールドはその年の新作発表としては遅く感じざるを得ません。時計業界は決して大規模な産業ではないので、こうした展示会は年に1回でいいのではないかと私は思います」

「オーデマ ピゲにとって、日本は大変に重要なマーケットです」とベナミアスCEO。「高度な時計づくりが理解できる国としては、ドイツと並んで世界のトップ。熟練した職人技のこだわりや優れた魅力が正しく伝わる、ゴマカシがきかない市場ともいえます。だから私もこうして来日するのをいつも楽しみにしているのです」

前述したCEOとの「2分間インタビュー」に、共感を覚える人も少なくないでしょう。1875年の創業時から本社が所在するスイス・ジュウ渓谷は標高1000mの閑静な山間部ですが、オーデマ ピゲ社内は熱気に満ちているといえそうです。

「ロイヤル オーク オフショア・クロノグラフ」。 クロノグラフのプッシュボタンはセラミック。大柄な格子模様「メガ・タペストリー」のブルーダイヤルとインナーベゼル以外はすべて18Kイエローゴールド。自動巻き、18Kイエローゴールドケース及びブレスレット、ケース径42mm。¥8,532,000(税込み)

「ロイヤル オーク トゥールビヨン・エクストラシン」。ケース厚8.95㎜の極薄モデル。小柄な格子模様「プチ・タペストリー」のスモークブルーダイヤルに、時を刻みながら回転するトゥールビヨンが精緻なアートオブジェとして映えます。手巻き、チタンケースおよびブレスレット、プラチナベゼルとリンク、ケース径41mm。価格は要問合せ。

●問い合わせ先/オーデマ ピゲ ジャパン TEL:03-6830-0000 www.audemarspiguet.com/jp/