選ぶならバック・トゥ・ベーシック!? 未来を達観しない、新型マカンの“ソウルⅡソウル”

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    東京車日記いっそこのままクルマれたい!

    第99回 PORSCHE MACAN S / ポルシェ マカン S

    選ぶならバック・トゥ・ベーシック!? 未来を達観しない、新型マカンの“ソウルⅡソウル”

    構成・文:青木雄介

    編集者。長距離で大型トレーラーを運転していたハードコア・ドライバー。フットボールとヒップホップとラリーが好きで、愛車は峠仕様の1992年製シボレー カマロ改。手に入れて11年、買い替え願望が片時も頭を離れたことはない。

    前車追従機能など、新型マカンはオプションで最新の運転支援機能を搭載できる。

    次期モデルはEV化が予定されている、ポルシェの新型マカン Sのステアリングを握った。オプションのレザーシートパッケージでエアサス仕様、そして逆にスポーツエグゾーストシステムが付いてない車両だったのね。それが図らずも、マカンがEV化するイメージを鮮明に印象づけたんだ。単純にそのエグゼクティブな乗り心地のよさと、3ℓV6エンジンとは思えない静かな空間が、これまでマカンに抱いていたイメージをだいぶ変えてしまった。それ故「マカン、お前もか」という思いが募り、試乗した初日はよく寝れなかったんだよね(笑)。
    じゃあレザーシートやエアサスが気に入らなかったのかと言えば、それは大きな間違いで、むしろ出来すぎですよ。やっぱり前車追従機能のアダプティブクルーズコントロールや、渋滞時のストップ&ゴーを繰り返すトラフィックジャムアシスト、車体を360度俯瞰するアラウンドビューモニターといった新型から搭載可能になった運転支援機能とともに、上位グレードを選ぶなら必携のオプションと言えるはず。「ポルシェだから(運転支援は)いらない」って時代は終わったのね。
    肉厚でサイドをしっかりホールドし、質感と疲れにくさにこだわったレザーシートは最高。エアサスは一定の路面入力を許容しながらしなやかさを両立し、高級感のあるスポーツSUVの足まわりにふさわしい仕様。アクセルレスポンスを抑制することで燃費も抑えるインテリジェントモードや、ノーマルモードとの相性が抜群にいい。街乗りなんか伸びやかに、かつジェントルに抑制されていて隣のパートナーもうっとり、「ポルシェって、もっと乗りにくいのかと思っちゃった!」ってな感じだと思う(笑)。
    むろん走りが軟弱になったわけでもなく、超の付く高剛性ボディと4輪をマネジメントする、ポルシェのトルクベクトリングシステム(PTVプラス)はいっそう進化していて、安定したオン・ザ・レール感はもちろん、カーブを先読みするようにトラクションを確保する。ステアリングを切り始めると車体がカーブに反応し、身をきりりと引き締める。それがアンチロールシステムのような電子デバイスによる反作用の安定感ではなくて、SUVらしい腰高の車体を高い剛性と太いタイヤで接地させて踏ん張らせる。ここがポルシェらしい走りの職人技なんだな。つながれてきた魂のバトンを感じるよね。

    ポルシェらしさが宿る、大人仕様の新型SUV

    アンチロールシステムだとどこまで踏ん張れるのか不安になるけど、マカンの場合はあくまで車体と接地面という自然由来の成分なので(笑)、スポーツカーに乗り慣れてれば限界はつかみやすい。その頃には、やっぱり新型マカンの卓越した運動性能に歓喜の声が上がっているはず。「SUVだから、もっとどんくさいのかと思ったよ!」ってね(笑)。
    エアサスのマナーも間違いなくて、カーブでは足元を固めつつも、姿勢が正面を向くとふっとエアサスらしい入力に戻る。このマナーやカーブにおけるトルク配分の妙もとても自然で、やっぱり同じフォルクスワーゲングループであるアウディを感じるよね。ランボルギーニのウルスに乗った時もそうだったけど、アウディの膨大な4WDの知見の中に「マカンもある」と感じられるんだ。その中での徹底したポルシェらしさであり、ざっくりたとえると、その方向性はアウディが洗練だとすると、ポルシェはより本質を目指したものなのだと言えるかも。
    今回、搭載された3ℓのV型6気筒エンジンもアウディ製なんだけど、そのポルシェらしさの前にはまったく気にならなかった。ただ窓を開けてベタ踏みでもしないかぎりV6エンジンらしい咆哮が聞こえてこないのが、昨今のアウディのRシリーズみたいで残念だったんだ(笑)。アウディは静かなるスポーツカーでよくても、「ポルシェはね……」って話ですよ。前述の「EV化されたマカンを想像した」っていうのは、そういうことなんだな。熱い心臓がモーターに変わる。この静かなマカンはそう想像させるのに十分だったし、もうスポーツカー全般が「そっちの方向に進んでいる」と確信できたわけ。
    だからこそ自分が新型マカンを買うなら、ベースグレードの直列4気筒にバネサス、唯一のオプションでスポーツエグゾーストシステムを選ぶ。ちょっと贅沢をさせてもらえるならレザーシートも加えたいね(笑)。よりダイレクトな刺激を求め、エアサスや運転支援機能、快適装備はカイエンやパナメーラに任せたい。それで十分マカンを新型にする意味があるし、「最後の内燃機関を積んだマカン」っていう特別感もあるよね。内燃機関を積んだ最新のポルシェを楽しむ時間は、「まだまだあるぞ」ってことですよ。

    • より大型化したフロントグリル。

    • 黒革材の質感とホールド性が素晴らしいレザーシートパッケージ。

    • 走行モードの調整や、インテリア機能が集約されたシフト部分。

    • フロントサスペンションの一部をアルミにして軽量化を実現。

    • 水平にレイアウトされたリアのシグナルランプ。

    • ボディは特色のクレヨン、ドアレバーやサイドブレードは黒という配色。

    ポルシェ マカン S
    ●サイズ(全長×全幅×全高):4695×1925×1625㎜
    ●エンジン形式:V型6気筒DOHCターボ
    ●排気量:2994㏄
    ●最高出力:354PS
    ●駆動方式:4WD(フロントエンジン4輪駆動)
    ●車両価格:¥8,749,074(税込)

    問い合わせ先/ポルシェ カスタマーケアセンター
    TEL:0120-846-911
    www.porsche.com