トゥールビヨンの斬新さと、クロノメーターの古典的な佇まい。
両天秤の腕時計
文:並木浩一 写真:宇田川 淳

トゥールビヨンの斬新さと、クロノメーターの古典的な佇まい。

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ULYSSE NARDIN
ユリス・ナルダン

ユリス・ナルダンには2つの大きな魅力がある。ひとつは船舶に備え付けられるマリン・クロノメーターのつくり手としての、長い伝統だ。いまも横須賀で展示されている日露戦争時の旗艦・戦艦三笠でも、ユリス・ナルダン製のデッキ・クロノメーターを見ることができる。腕時計の「マリーン」コレクションはその系譜に連なるもので、古典的なスタイルと、船舶時計の絶対的な要素である、精度の高さを併せもつ。

「マリーントルピユール」はまさにそうした魅力あふれるモデルだ。黒々としたローマ数字インデックスに、ふたこぶのポワール・スチュワート針。レイルウェイ・インデックスに添えるのは大ぶりな秒針のサブシダリー・ダイヤルと、控えめに対を成すパワーリザーブ・インジケーター。輪郭のはっきりとしたディテールが、操舵室の計器にも通じるような正調で外連のないスタイルを浮かび上がらせる。本当の意味で海の腕時計である。

その同じブランドのまったく異なる性格が、先進と斬新だ。「ブラスト」のスケルトン・トゥールビヨンは、その指向を極めたユリス・ナルダン会心の作。X字の意匠をムーブメントの構造に組み込んだ大胆なレイアウトに、シリシウム製のフライング・トゥールビヨンを搭載。スケルトンは本来、ムーブメントを肉抜きしていくスイス時計の古典的な技法だが、「ブラスト」では元からあるものを切り抜いていくのではない。空間にゼロから可視的で幾何学的な構造を立て、ムーブメントを組み上げ、フライング・トゥールビヨンの複雑な機構を融合。それもまた、腕時計の未来を切り拓く話題作を次々に生んできたユリス・ナルダンらしさだ。

静と動。伝統と革新の両義的な魅力をもつ、2つの時計。本来は相容れない真反対の嗜好を、見事に丸ごと懐に収めてみせる。

  • ブラスト

    ●自動巻き、ブラックDLCチタン×セラミック、フライング・トゥールビヨン、ケース径45㎜、ケース厚13㎜、パワーリザーブ72時間、プラチナ製マイクロローター、ラバー製ストラップ、最長5年間保証、50m防水。¥5,863,000(税込)

  • マリーン トルピユール

    ●自動巻き、ステンレス・スチール、自社製キャリバーUN-118、ケース径42㎜、パワーリザーブ約60時間(12時位置にインジケーター)、反射防止サファイアクリスタル風防、アリゲーター革ストラップ、最長5年間保証、50m防水。¥880,000(税込)

ソーウインドジャパン TEL:03-5211-1791

トゥールビヨンの斬新さと、クロノメーターの古典的な佇まい。