限りなく生に近い音を奏でる、MQA-CDが凄い。

  • 文:麻倉怜士

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青野 豊・写真photographs by Yutaka Aono

限りなく生に近い音を奏でる、MQA-CDが凄い。

ジャズやクラシック、ロック&ポップスなどジャンルごとに、超高音質のサンプルCDも発売。各¥1,000(税込)

ユニバーサルミュージックが発売したMQA-CDがいま、注目されている。私は数回、オーディオ店で試聴会を開いたが、いずれも定員を遙かに上回る来場者で、なかには「もう50枚買いました。残りも買います!」という猛者もいた。MQA-CDは、史上最高音質のCDである。わかりやすくいうと、音がCDより圧倒的にいいとされる「ハイレゾ」が収録されたCDなのだ。 
MQAとはMaster Quality Authenticated、つまり「スタジオ品質の音と認定する」の略語。英国のオーディオメーカー、メリディアン社が開発した新ハイレゾ方式だ。「ハイレゾが聴ける配信、ストリーミング」としてハード、ソフト、コンテンツシーンで広く普及が始まっている。コンテンツもワーナー、ソニー、ユニバーサルの世界三大メジャーをはじめ、多くの独立系レーベルが参入している。 
MQAがなぜ、これほどの勢いで普及しているかというと、「高音質と低容量」という、相反する要素を両立させたから。時間進行上でどれくらい細かい単位で音の変化を認識できるかを示す「時間軸解像度」が、MQA技術の本質だ。 
原始時代、闇夜で、狼がどの方向から近づいているのかを音の変化だけで判断できたから、人は狼に襲われなかった。それは人が10マイクロ秒というきわめて短い単位で、自然界の音の変化を認知できるからだ。その「10マイクロ秒の時間軸解像度」を実現したのが、MQAだ。だから、CD(4000マイクロ秒)や従来のハイレゾ(数百マイクロ秒)よりも遙かに生々しい音が聴ける。 
もうひとつのメリットが、伝送容量が小さいことだ。高域の音楽信号を低域のノイズ領域に移動させ、効率的に情報伝送する「オーディオ折り紙」が採用され、伝送情報量は、CDと同等まで削減できる。再生する時にはデコーダーで、折り紙を元の大きな情報量に戻す。その折りたたんだCDと同じ容量を、物理的にCDに収めたのだ。 
その音は、まずはデコードしない普通のCDプレーヤーで聴いても素晴らしい。時間軸解像度が通常CDより遙かに高いからだ。カーペンターズ「シングルス1969〜1973」では、音に潤いとしなやかさがあり、カレンの歌が深く、耳に気持ちいい。コーラス部のハーモニーもきれい。MQAでデコードすると、圧倒的な音の快感だ。華麗で伸びやか。カレンの声がなめらかで美麗になった。ボーカルの粒子がより細かく美しく、その分、表情が細やか。楽器の質感も数段階上がる。 
いまMQA-CDを聴くには、MQA対応のデジタル・アナログ変換器が必要。今後、CDプレーヤーやDACでMQA-CD対応が増えるのは、確実だ。

カーペンターズやバド・パウエルといった往年の名作を中心に、全100タイトルが同時発売された。

麻倉怜士
デジタルメディア評論家。1950年生まれ。デジタルシーン全般の動向を常に見据えている。巧みな感性評価にファンも多い。近著に『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)、『パナソニックの3D大戦略』(日経BP社)がある。
※Pen本誌より転載