まるで呂布が駆る“赤兎馬(せきとば)”ベルリネッタ!? フェラーリ 812 スーパーファストと、主従の契りを結ぶ。

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    東京車日記いっそこのままクルマれたい!

    第113回 FERRARI 812 SUPERFAST / フェラーリ 812 スーパーファスト

    まるで呂布が駆る“赤兎馬(せきとば)”ベルリネッタ!? フェラーリ 812 スーパーファストと、主従の契りを結ぶ。

    構成・文:青木雄介

    編集者。長距離で大型トレーラーを運転していたハードコア・ドライバー。フットボールとヒップホップとラリーが好きで、愛車は峠仕様の1992年製シボレー カマロ改。手に入れて11年、買い替え願望が片時も頭を離れたことはない。

    フェラーリ創立70周年を記念した赤色、ロッソセッタンタンニを纏った812 スーパーファスト。

    フェラーリ 812 スーパーファストの“812”とは、最大出力800馬力と12気筒エンジンを搭載しているという意味。エンジンはフェラーリのV型12気筒自然吸気シリーズであるF140の最新型で、排気量は6.5リットル。フェラーリ史上最もパワフルな自然吸気エンジンで、高性能ターボに匹敵する噴射圧350バールを誇る高圧なトリプルインジェクションシステムを備えているのが特徴だ。

    F12ベルリネッタの後継とはいえ、デザインはピニンファリーナではなく自社のデザインセンターによるもの。ロー&ワイドな構えに、スーパーロングノーズのショートキャビン。リアはファストバックスタイルで、丸目4灯は365 GTB4からのインスパイア。スーパーファストとは1964年に発売されたグランドツアラー、500 スーパーファストに由来する。

    おわかりだろうか? 自家謹製にして、レガシーに包まれたこのクライマックス感。V12のフロントエンジン、リア駆動のベルリネッタ(2座のスポーツカー)は、最後にして最強のフェラーリと呼ぶにふさわしい。そう、引退ライブに奥さんのビヨンセ他、錚々たるメンツを揃えて、自らの花道を飾ったジェイZのドキュメンタリー映画『フェイド・トゥ・ブラック』感があるね(笑)。自ら敷いた花道こそが孤高の生きざまを語る、なんてね。まぁ、ジェイZはその後、普通に復活しちゃったけどね(笑)。あははは!

    さて、この最強のV12エンジンの使いどころは、3500回転から上のゾーン。ここからパドルシフトを上げていけば、V12の乾いた咆哮とともに、時速300kmはすぐにやって来る。リアがブレイクしやすくなるのもこのゾーンであり、明確に排気音が変わることで走りのオン・オフがはっきりとわかるのが特徴的なんだ。

    そして最大トルク718ニュートンメートルの約80%を、この3500回転で引き出せる。自然吸気なのに出力特性として、ミドルレンジの回転数からでも大きなトルクを引き出すターボ車のメリットももち合わせている。だから本来、ロングノーズの大排気量車が苦手なワインディング走行のポテンシャルだってめちゃくちゃ高い。切れ味の鋭いゲトラグ製の7速デュアルクラッチをパドルシフトで操りつつ、至高のV12サウンドを奏でられる。これはドライバーが体験しうるあらゆる体験の中でも、最高ランクの官能性と言えるはず。

    このワインディングで効くのが“使える”トルク域と、バーチャル・ホイールベース2.0システムだ。この名の通り、後輪操舵を協調させることで車体をよりコンパクトに扱えるようにし、フェラーリ初の電動パワーステアリングとともに車体の動作を制御する。これにより実際にリアがブレイクすると、誤ったステアリング操作をさせないようにハンドルの挙動に制限がかかるらしい。

    800馬力を実現した、史上最強のFRスポーツ

    812 スーパーファストは、ほぼオーバーステアリング傾向なのでカウンターを当てる準備は整えられているとも言えるんだけど(笑)、それに加えて路面入力の角を取ったような、独自の磁性流体ダンパーによる乗り心地はハイエンドにして円熟の極みだし、時速60kmで7速1500回転の安定したクルーズ感もグランツーリスモとして最高。そしてやっぱりその魅力の本質は、後輪を空回りさせ爆発的な加速を見せながら超高速域にいつでも入っていけるファンタジーと、800馬力のV12エンジンをアクセルワークで操る喜びにある。

    そもそもスポーツカーやGTカーがロングノーズになるのは、大排気量の大型エンジンをフロントに積んでいるからなんだけど、運転するに当たってはドライバーに求められるスキルがある。ロングノーズに乗る際のマナーと言うべきスキルで、それは常にアクセルワークでクルマを制御できるってことなんだ。このようなアクセルワークで駿馬を御する感覚は、フェラーリのベルリネッタではもちろん、FRの大排気量エンジンにも共通するものなんだけど、812 スーパーファストではとりわけ重要な感覚なんだ。

    フェラーリの運転制御装置であるマネッティーノは安全第一で、ウェットやスポーツモードではガチガチに介入してくるけど、走り自体がガラリと変わるわけではないのね。試乗中はほぼレースモードで走っていたんだけど、一定のセーフティゾーンを残しながら、アクセルワークとシフトワークで800馬力を楽しむのには最適だったと思う。でもそれは、「オーナーの乗り方ではない」とわからされるんだ。マネッティーノはダイヤル式だから、始動した時からすべての電子制御を切った状態で走り出すことが可能。オーナーならESC(横滑り防止装置)オフが定位置で、完全に解放されたエンジンと走りをともにできることに意味があると思わされたんだ。

    別の見方をすると、このクルマがオーナーを選んでいるとも言えるのね。「士は己を知る者のために死す」じゃないけれど(笑)、テールスライドの感覚や、9000回転を目指して駆け上がっていく車内を圧倒するエグゾーストノートは、フェラーリらしいタナトスの薫りが充満しているわけですよ。アクセルを踏み込むと「待ってました」とばかりに全身を震わせ、いななき、駆け出す812 スーパーファスト。そんな己を知り、扱えるオーナーを待ちわびる812 スーパーファストは、『三国志』に登場する希代の名馬、赤兎馬の現代版と言いたいね。

    赤兎馬は主人だった豪傑で知られる呂布奉先を失ってから、当代随一の義傑となる関羽雲長に出会うまで誰にも懐かなかったという、三国志に出てくる名馬なんだけどね。このフェラーリが取りもつオーナーとクルマとの関係性を、さらに三国志でたとえるなら「契りを結ぶ」ってことじゃないかな(笑)。

    どんなスーパースポーツでも本当の実力を解放できる場所はサーキットしかないし、その技量をもつオーナーはひと握りだと思う。でもそんな厳密な話ではなくても、ファンタジーでいいんですよ。オーナーのために生まれた世界にたった1台しかない特別なクルマと、それを理解し操れるオーナーを結ぶブランドがフェラーリ。だからこそ選ばれるんだなと、納得させられたんだよね。

    • 0-100km/h加速は2.9秒を達成。

    • 無駄を排した水平基調のインテリア。

    • 助手席のモニターには車速や使用ギアなどが表示される。

    • 荷物を固定するベルトが装備された座席後ろのスペース。

    • 左右対称に配置された4灯のリアランプと4本出しのエグゾーストパイプ。

    • 800馬力が弾き出す異次元の高速度域を予感させるリアビュー。

    フェラーリ 812 スーパーファスト
    ●サイズ(全長×全幅×全高):4657×1971×1276mm
    ●エンジン形式:V型12気筒DOHC自然吸気
    ●排気量:6496cc
    ●最高出力:800PS/8500rpm
    ●駆動方式:FR(フロントエンジン後輪駆動)
    ●車両価格:¥41,280,000~(税込)

    ●問い合わせ先/オフィシャル・フェラーリ・ウェブサイト
    www.ferrari.com/jp