メルセデスの最新EVは音楽ラヴァーズのために!? EQC 400が叶える、二拠点ウィークエンドの楽しみ。

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    東京車日記いっそこのままクルマれたい!

    第111回 MERCEDES-BENZ EQC 400 4MATIC / メルセデス・ベンツ EQC 400 4マティック

    メルセデスの最新EVは音楽ラヴァーズのために!? EQC 400が叶える、二拠点ウィークエンドの楽しみ。

    構成・文:青木雄介

    編集者。長距離で大型トレーラーを運転していたハードコア・ドライバー。フットボールとヒップホップとラリーが好きで、愛車は峠仕様の1992年製シボレー カマロ改。手に入れて11年、買い替え願望が片時も頭を離れたことはない。

    メルセデスの既存車種にはない、独自のデザイン言語をもつEQC 400。

    現在も進行中のコロナ禍は、僕らのライフスタイルに大きな影響を与えた。移動は制限され、仕事もリモートワークで、自宅で行うのが当たり前になった。会議や買い物はもちろん、音楽のライブやアート鑑賞もネットでという生活に不自由さを強いられたものの、もう引き返せない変革も引き起こした。出張はウェブ会議ツールのズームで間に合うし、そもそも満員電車にはもう乗りたくない(笑)、とかね。「いずれそうなるんだろうな」と緩く考えていたものが、コロナ禍で一気に加速したよね。では、クルマはどうだろうか? 当然、「もう電気自動車(EV)でいいんじゃないの」って意見もあるだろう。多少の不自由さは我慢できる耐性もついたし(笑)、「いまこそ次の時代に向けて舵を切るべきじゃないか!?」ってね。

    そんなコロナ禍にあって、北米の音楽チャートを賑わせていた象徴的な曲はザ・ウィークエンドの「ブラインディング・ライツ」だった。1980年代テイストのシンセサイザーに乗せた疾走感のあるラブソングで、自粛生活の鬱屈に光を探し求めるリスナーの心を捉えていた。この曲に本人を登場させ、CMソングに起用したのがメルセデス・ベンツで、車種はEQC 400。そう、メルセデスのEVであり、日本で発売する初のEVとなる。

    CMはこれまでの自動車メーカーとしての歴史を重ね合わせながら、新たな時代を予感させる内容で、曲同様にコロナ禍を意識してつくられたわけではないけれど、その意図はかなりタイムリーに感じられたんだ。なるほどそこに未来が予感されているなら、ザ・ウィークエンドことエイベル・マッコネン・テスファイよろしく(笑)、EVで東京の街に出かけてみようと思ったわけ。

    乗ってみるとEQC 400は走り出しからして、メルセデスらしさが満載なのね。モーター特有の突然背中を衝かれるようなピーキーなトルクではなく、自然とあふれ出るようなトルクが車体を無音で前へ押し出す。貫録がありながらどこまでもスムーズなその走り出しはソウルフルで、V8のSクラスに乗っているオーナーでさえ、即座に合格点をつけるに違いない(笑)。回生ブレーキを感じさせない、ニュートラルな惰性走行を随所に入れてくるのも、伸び伸びとしていて好感がもてる。

    そしてまず気づかされるのは、室内の静音設計の緻密さだ。メルセデスのセダンやサルーンに共通する、静音することで繭に包まれているような感覚があり、路面とタイヤの摩擦音さえ消そうとしている印象がある。アクセルを踏み増すと、かすかにモーターのキュイーンという駆動音が聞こえてくるけれど、これもまた静音設計があっての演出。

    独自の快適性を追求した、次世代を指し示すEV

    室内をよく見ると、インテリアの空調の送風口にはカッパー色の金管楽器のようなデザインが施されているのね。さらにそれを取り巻くサイドウォールには、音響用と思われるフィンが付いていて、ミニマリズム志向のハイエンドオーディオみたいなんだ。

    非常にオーディオ製品的なデザインなので「あれ!?」と思い、さっそくザ・ウィークエンドを流してみたところ(笑)、これがなかなか驚くべき音響設備だったんだ。スピーカーが9個もあるとはいえ標準装備のシステムで、「なぜこんないい音が出せるんだろう?」と度肝を抜かれたわけ。音響機器メーカー、ボーズのウェーブシステムを彷彿とさせる、コンパクトなサイズからは想像できないスケールの大きな音と解像度の高さ。そしてボーカルやプレイヤーの息づかいを近くに感じられるようなリアリティ。この流れる景色と音楽との濃密な連動感が、めちゃくちゃヤバい。EQC 400が、ジャガーのEVであるIペイスほどスポーツ性能を前面に押し出していない理由も、なるほどこのへんにあると理解できたんだ。

    つまりメルセデスのこれから迎えるEV社会や、自動運転へのスタンスが垣間見えたと感じられたのね。運転以外の快適性や、移動空間としての優位点をどんどん追求したい。いまのところ、それが「EVなんだから、とことん音響を追求しよう」ってことなのかな。あらかじめ音響を検証して、構造的に組み込まれたハイエンドな音響空間があり、フルボリュームにしてアクセルを踏み込んでみると、風景と音楽が圧倒的な純度で溶け合うようなダイナミズムが体感できる。この音楽と一体になれるような空間が、EQC 400の気持ちいい抜け感のある走りとあいまって、ご機嫌なドライブを演出してくれるんだ。

    このご機嫌なドライブをさらにご機嫌なものにしてくれるのは(笑)、パドルシフトで回生ブレーキの効きを調整できる点にある。このギミックを知ってしまうと、使わずにはいられないし、運転に自分だけのリズムが生まれるのね。加速しながらパドルシフトを+に入れて、アクセルオフで完全な惰性走行に、ちょっとエンジンブレーキが欲しい時は、トラックの排気ブレーキのように-に入れて回生ブレーキをかける。それでも猛烈な回生ブレーキではないから、スムーズという印象はどんな運転をしても損なわれない。これだけ回生ブレーキを使用しなくても、メーターの残りの走行可能距離は、音楽を大音量でかけてクーラーを使っているわりに減りが早くなるわけでもない。走行可能距離は、実際の走行距離と変わらないわけ。このへんは「メルセデスの手堅いEV」って感じがしたね。

    3日間にわたって東京での仕事や買い物を中心に使ってみると、まず帰ってきて普通充電できる設備はマストと感じられた。マンションでも自分用の給電システムが構築できれば問題ないけれど、一戸建てならもうEVライフをためらう理由はないですよ。都市部のマンションより郊外の一戸建てを買うという、昨今の不動産トレンドも追い風になるはず(笑)。フル充電で350kmを手堅く走れるので、普段使いするなら拠点の普通充電でフルチャージして、途中給電なしにバッテリーを使い切って帰宅するのが望ましい。

    350kmは確実に走れるから、関東近郊の日帰り旅行はだいたい無給電で帰って来られるはず。さらに軽井沢や伊豆あたりに別荘をもっているなら、そこにも給電設備を整えて、複数拠点を往復しつつ暮らす生活も夢じゃない。これはEQC 400が叶えてくれる生活というより、そもそも自宅給電が当たり前のEVライフと、複数拠点のライフスタイルの相性がいいと言えるから。そしてそんな別荘ニーズが、メルセデスをはじめとした高級車メーカーのEVが普及していく流れにも重なって見えるんだ。これから来る自動運転の社会を見据えて、そのブランドが選ばれる意味をもう考えているのがメルセデス。EQC 400は、それがよくわかるEVだったね。

    • 空力特性を活かしたフロント。バッテリー容量は80kWhで、航続可能距離は公称400km。

    • 優れた音響空間を構成するインテリア。

    • 青のラインが印象的な専用ホイール。

    • オーディオを思わせる、カッパー色の送風口とフィン状のサイドウォール。

    • 普通充電用のソケットはリアバンパーの右側に配置。

    • 電動ドライブモジュール「eATS」を搭載し、前後の協調でフルタイム4輪駆動を実現した。

    ●サイズ(全長×全幅×全高):4770×1925×1625mm
    ●動力:非同期モーター2基
    ●蓄電池:リチウムイオン
    ●最高出力:408PS
    ●駆動方式:4WD(ツインモーター4輪駆動)
    ●車両価格:¥10,800,000(税込)

    ●問い合わせ先/メルセデスコール
    TEL:0120-190-610
    www.mercedes-benz.co.jp