クルマにも編集力を!? 生まれながらの名車、ボルボ S60 ポールスターエンジニアードとは。

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    東京車日記いっそこのままクルマれたい!

    第107回 VOLVO S60 POLESTAR ENGINEERED / ボルボ S60 ポールスターエンジニアード

    クルマにも編集力を!? 生まれながらの名車、ボルボ S60 ポールスターエンジニアードとは。

    構成・文:青木雄介

    編集者。長距離で大型トレーラーを運転していたハードコア・ドライバー。フットボールとヒップホップとラリーが好きで、愛車は峠仕様の1992年製シボレー カマロ改。手に入れて11年、買い替え願望が片時も頭を離れたことはない。

    グリルまでグロスブラックに仕上げた漆黒のスポーツセダン。

    ボルボの4ドアセダン、S60にハイパフォーマンスモデルのポールスターエンジニアードが登場した。日本での販売は限定30台で、すぐに完売。この夏にはワゴンタイプのV60とSUVのXC60バージョンが販売されるらしいけど、こんなにユニークで素敵なクルマが台数限定なのは、ボルボファンにとってだけでなく世界のクルマ好きにとって、あまりに酷と言わざるを得ない(笑)。その魅力は、よく吟味されたコンテンツを揃えるウェルメイドな雑誌のような編集力にある。

    そもそもポールスターはボルボのハイパフォーマンスブランドだったんだけど、2017年から電気自動車(EV)に特化した独立ブランドになった。このS60 ポールスターエンジニアードに乗ってみると、なるほどプラグインハイブリッド(PHEV)とはいえ、EV特有の静かで上質な走りを追求する方向に向かおうとしているのがよくわかるクルマだったんだ。搭載されたT8動力ユニットは2Lの直列4気筒エンジンにツインチャージャーと、電気モーターを組み合わせて420馬力を弾き出す。

    PHEVなのでEV走行も可能なんだけど、まず普通にいちばん使うだろうハイブリッド走行が素晴らしい。エンジンとモーターの境目がほとんどわからないし、低速ではリアにトルクを供給するモーターがきっちり仕事をする。走りのモードともいえるポールスターエンジニアード・モードでは、トルクのリニア感が増し、エンジン音も存在感を発揮する。

    これがよく静音された直6エンジンのようなニュアンスで、出しゃばることなく、スタイリッシュな走りを演出している。たとえるなら、シンガーソングライターのビリー・アイリッシュとマスクの共犯関係って感じかな(笑)。とにかくこのご時世、必需品のマスクがよりミステリアスかつセクシーに本人を演出している。一家言ありそうな、某都知事のマスクの柄も悪くないけどね(笑)。あははは。

    そんなエンジンとモーターの隙のないコンビネーションに、S60 ポールスターエンジニアード最大の奇跡が組み込まれているのね。ポールスターはシャシーを強化してタワーバーを追加、22段階で調整可能なオーリンズ製DFV(デュアル・フロー・バルブ)サスペンションを搭載した。この足まわりが都会的なT8動力ユニットの走りとあいまって、このプロダクトを唯一無二にする絶妙なアクセントになっているんだ。

    上質な走りを追求した、PHEVのスポーツセダン

    オーリンズのDFVは登場から15年は経つと思われる看板サスペンションで、調節可能な点はもちろんホイールやブレーキキャリパーとの組み合わせ次第ではあるけれど、バネ下重量の軽量化に非常に有効なサスペンション。ここが重要で、バネ下重量が重くなりがちなモーター駆動の車両に、軽快で洗練された足まわりをもたらしているんだな。

    その乗り味は、ハイエンドにしてウェルメイド。とにかく軽快で路面への追従性がよく、さらに路面からのインフォメーションは明瞭で解像度も高い。コーナリングでは固めるというより粘りの効いた、ストローク感のある走りで最近のセダンにはないセンスのよさ。走行中にダイヤルひとつで足まわりの固さを変えるエアサスや流体式に比べるとアナログに見えるんだけど、そこがいい! 設定を自分で決めて手探りで楽しめる喜びは、いまどき代えがたい喜びと言えるはず。

    22段階で減衰力が調整できるダイヤルへのアクセスも、フロントはボンネットを開ければすぐだし、リアも手が入ればアクセス可能で、ほんの少しジャッキアップすれば誰でも調節可能ってところにドライバーへの愛を感じる。メーカーが「楽しんでね」って言っているわけですよ。実際、自分でもフロントだけいじってみたんだけど、足まわりの調節次第でクルマの印象、乗り味が繊細に変化していくのには驚かされたよね。

    ちなみに真っ黒なボディにブレーキキャリパーはゴールドに塗装されていて、目を惹くのもポイント。たとえるなら細身のスーツに金無垢の機械式時計を合わせた、ハズし技って感じかな。もちろんこのセンスはポールスターのなせる業なんだろうけど、スウェーデンの三賢人が顔を突き合わせて、同じ言語でわいわいやった感じがあってすごく気分がいい。首都高で黒のボルボに白い小さなポールスターのバッジが付いていたら、道を譲ろうとも思ったよね(笑)。「走りを楽しんでね」って感じでね。

    完全なEV化への道のりも見えつつ、さらに独自の上質さを追求しているボルボ。従来から確固たるイメージがある安全性という信頼に、アーバンかつハイエンドな高級性能が加わり、他の欧州クルマ文化圏の中でも独自のカラーを発揮しているよね。その知的な上質さは文脈の編集力にあるし、強いローカリズムはグローバリズムに通ずるってことなのかも。S60 ポールスターエンジニアードはその象徴的な一台だし、既に「名車認定、間違いなし」って感じじゃないかな。

    • ゴールドに塗装されたブレンボ製ブレーキキャリパー。

    • フロントサスペンションの減衰力調整ダイヤルは22段階に調節可能。

    • チャコールグレーにメタルメッシュが映える内装。

    • シートはオープングリッドテキスタイルと本革の組み合わせ。

    • 控えめに存在を主張するポールスターのバッジ。

    • T8動力ユニットは4WDでこそ洗練された走りを実現する。

    ボルボ S60 ポールスターエンジニアード
    ●サイズ(全長×全幅×全高):4760×1850×1435mm
    ●動力ユニット:直列4気筒DOHCターボ+モーター
    ●排気量:1968cc
    ●最高出力(合計値):420PS
    ●駆動方式:4WD(フロントエンジン4輪駆動)
    ●車両価格:¥9,190,000(税込)

    ●問い合わせ先/ボルボ・カスタマーセンター
    TEL:0120-922-662
    www.volvocars.com