音楽的な音を聴かせてくれる、 「ワイヤード」のイヤホン
青野 豊・写真
photograph by Yutaka Aono

音楽的な音を聴かせてくれる、 「ワイヤード」のイヤホン

ステージ用のインイヤーモニターから着想を得た、柔軟性に富む装着感を誇る。実勢価格¥41,250(税込)

いまやイヤホンといったら、完全ワイヤレスが当たり前になった。もうワイヤードのイヤホンは出てこないのかと気を落としていたら、ゼンハイザーがやってくれた。前モデルから9年ぶりのワイヤードの新製品、「IE 300」が登場したのだ。

完全ワイヤレスばかりが目立つ昨今だから、このデビューは販売店にも好評だという。早速、試聴してみると、とても心地よい音だ。音楽が人工的に強調されることがまったくなく、素直でジェントルな音だ。

それはいま流行の完全ワイヤレスの特徴的な音とは、まったく違うものだ。完全ワイヤレスの音は、「ユーザーがどんな音を望んでいるか」という観点からつくられる。流行っているのは硬い音なのか、明瞭な音なのかを調査し、その結果に合わせ音づくりをする。まさしく近代的マーケティングによるモノづくりだ。

調査で出てくる結果は「解像度」だ。細かな音がどれほど聞こえるかが完全ワイヤレス商品化のカギとされ、くっきりとした人工的な音を出すイヤホンばかりが増えてきた。しかし、音のディテールは出ているが、それは単に音が細かいだけとも言える。心底から感動する、音楽的な音とは無縁の製品も多いのである。

しかし、IE 300の音は違う。ほとんどの完全ワイヤレスにはない、低域感から伸びのよい高域までのバランスのよさと、気持ちのよい音楽進行、優しい音調に懐かしさを覚えるほどだった。これはマーケティングでつくられた音ではない。自らの信念に基づいた音だ。

本機は、ゼンハイザーが培ってきた技術も惜しみなく受け継いでいる。高価格帯モデルに搭載していた7mm径の発音体や、不要な高音域の共振を吸収する共鳴箱をリファインして採用。さらにゼンハイザー伝統の音のチューニングが施された。

オーディオは、メーカーが本拠地を置く地域の音楽文化に大きく影響される。ゼンハイザーはドイツ、ハノーバーのヘッドホンとマイクなどプロオーディオのメーカーだ。低域が雄大で、周波数特性がピラミッド型の音は、クラシックの名門レーベル「グラモフォン」の音の性格に似る。それはクラシック伝統の地であるドイツ的な音だ。ちなみにヨーロッパの三大レーベルのひとつ、イギリス「デッカ」の音はブリリアント、オランダ「フィリップス」の特徴は素直なウェルバランスにある。その点からすると、ゼンハイザーはグラモフォンとフィリップスの特性も受け継ぐと、私の耳は聴いた。

前述した低域感から高域までのウェルバランス、心地よい音進行、素直な音調という設計に加え、西洋音楽の歴史が育んだ伝統が込められている。ワイヤードならではの性能の高さと、チューニングによる豊潤な音楽性が聴きものだ。

音楽的な音を聴かせてくれる、 「ワイヤード」のイヤホン

イヤホンの内部構造には、2012年に発売された高価格帯モデルである「IE 800」からの部品や技術が採り入れられた。

麻倉怜士
●デジタルメディア評論家。1950年生まれ。デジタルシーン全般の動向を常に見据えている。巧みな感性評価にファンも多い。近著に『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)、『パナソニックの3D大戦略』(日経BP社)がある。

ゼンハイザージャパン  https://ja-jp.sennheiser.com

※Pen本誌より転載
音楽的な音を聴かせてくれる、 「ワイヤード」のイヤホン