演奏家を華麗にアシストする、デジタル楽譜。

    Share:

    青野 豊・写真photographs by Yutaka Aono

    演奏家を華麗にアシストする、デジタル楽譜。

    これまでの楽譜と同じような二面構造など、ハードの部分でも使いやすさにこだわった。¥194,400(税込)

    演奏会でiPadを「電子楽譜」として使う場面をよく目にするが、数年後には寺田倉庫が開発した世界初の電子楽譜専用端末「GVIDO(グイド)」に置き換えられるに違いない。「見ながら演奏する」ためだけに専心し、徹底的にこだわった仕様と機能が仕込まれているからだ。
    iPadは周りの照明が映り込み、角度によっては譜面が見にくい。対してグイドは大変見やすい、というより自然だ。画面が紙のようにしっとりとした質感をもつ。iPadは液晶なので、バックライトが煌々と光り、黒の音符を強く画面の奥から押し出す。情報をくっきりと見せるにはよいが、長時間演奏のために見る楽譜としては刺激が強い。
    グイドの目の快適性は、電子ペーパーだからだ。電子ペーパーは自分では光らず、周りからの光を反射させ、音符の形を奏者の目に認識させる。原理は、紙と同じだ。むしろ紙に印刷した楽譜より、エッジの切れ味がシャープなので、より明確な視認が得られる。サイズも二面見開き。紙の楽譜とまったく同じだ。
    紙楽譜のもうひとつ重要なタスクが、メモ書きだ。紙の楽譜に先生の指導内容や気付きを書き込むのと同じ感覚で、スタイラスペンにて、楽譜に書き込める。ページめくりも、左右のフレーム部のタッチセンサーを軽く触るだけ。紙の楽譜を手を伸ばしてめくるのと同じ感覚だ。
    でもそれだけなら、紙からデジタルへの単なる「置き換え」に過ぎない。大事なのは、新たになにができるかだ。実はグイド誕生のエピソードも、その設問と深く関わる。
    寺田倉庫CEOの中野善壽氏が説明する。「会長の寺田(保信)が、70歳を越えてピアノを始めたんです。そこで、ピアノの先生がいつも重い楽譜をいくつも抱えて来るのが気の毒になって、iPadを電子楽譜にしようと頑張ったのですが、でも画面反射や楽譜表示の小ささなど、不便な部分がありました。そんな時、たまたまソニーの電子ペーパーを紹介されたのが、開発に取り組むきっかけとなりました」
    紙ならかさばる楽譜が、デジタルなら大量に記憶できるから、グイド一台でOK。それにしても、それを寺田倉庫として手がけるのは、同社が単なる倉庫業を脱皮し、芸術全般をサポートする役割に業態を急速にシフトさせているからだろう。
    紙の雰囲気の踏襲はもちろん、紙楽譜では不可能なことも、仕込んだ。たとえば、演奏しながら自分でできる「譜めくり」。コンサートでは左側に譜めくり係が座るが、グイドにはフットスイッチ(別売)があり、弾きながら自分でページがめくれる。
    グイドの名は、11世紀に五線譜を発案したグイード・ダレッツォから取った。彼も「いい仕事をした」と高く評価するだろう。

    楽譜にはペンで直接書き込むことができ、譜面の修正なども可能。紙の譜面と同じ感覚で使用できる。

    麻倉怜士
    デジタルメディア評論家。1950年生まれ。デジタルシーン全般の動向を常に見据えている。巧みな感性評価にファンも多い。近著に『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)、『パナソニックの3D大戦略』(日経BP社)がある。
    ※Pen本誌より転載