貴方のもとへプレイバック パート2!? ポルシェのマスターピース、新型911の進化とは。

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    東京車日記いっそこのままクルマれたい!

    第101回 PORSCHE 911 CARRERA 4S / ポルシェ 911 カレラ 4S

    貴方のもとへプレイバック パート2!? ポルシェのマスターピース、新型911の進化とは。

    構成・文:青木雄介

    編集者。長距離で大型トレーラーを運転していたハードコア・ドライバー。フットボールとヒップホップとラリーが好きで、愛車は峠仕様の1992年製シボレー カマロ改。手に入れて11年、買い替え願望が片時も頭を離れたことはない。

    より軽量化し、最先端の運転支援装備を充実させた新型911。

    ポルシェの911シリーズがモデルチェンジすることは、スマートフォンを最新機種に買い替えることだったり、コンシューマーゲーム機が次世代モデルに移行するのに似ている。使い勝手はそのままにソフトウェアはより高速化し、機能はハイエンドになり、それまで実現不可能だったことがいろいろできるようになる。先代の991型から992型へのモデルチェンジによって、確かにできることは増えたけど、いちばん大きな変化は体験の質が変わったということなんだ。

    外観はリアのシグナルランプが直線になった以外、大きな変化はない。でも乗り込んでドアを閉めると、部品や部位がドッキングして密着する、より精緻な音に変わっていることがわかる。もともと911シリーズのドアは閉めると密閉感があるけど、より緻密に組み合わさる音に変化している。これが走りにおいても通底しているのね。新型911はすべてにおいて緻密になっている。その体験の変化は、オーディオで言うところのハイレゾ化という言葉がふさわしいと思う。

    このカレラ 4Sは安定感がある大人なグレード故に、そのハイレゾ化をよりいっそう感じやすいとも言える。エンジンをかけると、背後から聞こえてくる水平対向6気筒のエンジン音は低く、クルマ全体にサウンドと振動をみなぎらせている。アクセルを踏み込めば、戦闘機が離陸するように鋭く加速。一点に向けて身体を絞り込み、一直線に突き進んでいくようなダイナミズムは、圧倒的かつ安定していて、4輪駆動故にフロントのトラクションを失いかけるようなこともない。静音しながらも、引き締められた足まわりがリズミカルに路面入力をいなし、シャシー全体でしなやかに受け止める。軽量化したシャシーの情報量を整理することで、伝えたい情報の解像度が高くなっているのがわかるんだ。

    たとえスピードを上げなくてもスポーツカーとしての繊細な挙動を保ちつつ、PDK(8速デュアルクラッチトランスミッション)のシフトワークとブレーキングの切れ味が、ドライバーの意識を覚醒させ続ける。最近では多段化されたオートマチックに押される一方のデュアルクラッチも、新型911はデュアルクラッチのシャープな反応なくしては911自体が語れないって域に達している。もう新型911が必然の選択として、なくてはならないバイプレイヤーに選んでいるんだな。録音スタジオのハイエンドヘッドフォン、または北野映画の寺島進みたいなね(笑)。

    新ベンチマークとなった、ポルシェのマスターピース

    キレッキレのシフトアップ時の弾けるようなエネルギーの解放感と、シフトダウン時のアフターファイヤー音を伴った収束感は、その緻密さによって鮮明にドライバーそれぞれのリズムをつくり、グルーブを生み出す。これがいちいち上質で、走り慣れたワインディングを繰り返し走ったとしても、その楽しみは速さの追求だけでは飽き足らなくなるんだ。誰でも季節や天候によって走りを変えるように、音の鳴り方だって試したくなる。クルマに乗れている時の音は、それが指標になって普段のドライビングをより洗練させてくれるでしょ。「あの鐘を鳴らすのはあなた」じゃないけど(笑)、高解像度な空間で水平対向エンジンの低音から高回転の「美しい音域を引き出すのは貴方」っていう世界が待っている。

    特にスポーツプラスモードで攻めていると、リアアクスル ステアリング(後輪操舵)の効果はてきめんで、つづら折りのヘアピンカーブなんかは大得意。常時高めの回転数で抑制する、自動変速のシフトマナーが非常にポルシェ的でよかったんだけど、やっぱり自分のシフトワークで伸び伸び走るのが無条件に楽しい。この新型は遊び心もあって、20秒だけ全性能を開放できるスポーツレスポンススイッチと呼ばれるスイッチが装着されたのね。ニトロブーストかF1のオーバーテイクボタンみたいな気分で、ちょっとした追い越しでも全開感を味わえる。ノーマルモードも街を走るなら十分スポーティだし、いちばん使ったスポーツモードは「新型911の普段着」って感じで、クルマのキャラクターに馴染んでいたね。その正統派のスポーティさに、誰もが気に入るスポーツカーの絶対条件は、クルマがドライバー自身を映し出す鏡になるってことも再認識させられたんだ。

    今回ステアリングを握って、911シリーズのたぐいまれなるバランス感覚が、数値で示せる二次元のサークルから、体感を表す三次元の球体に変わったようにも感じられたのね。安定性が増してあらゆる音や路面入力、エンジンとシフトフィールがより緻密になったことで、いよいよ911というボディスーツがバーチャル化してきたっていう印象がある。世界のマーケットにおいても、改めてベンチマークとして定義し直されるわけだけど、当の本人は脇目も振らず、とことん「己の道を行く」って感じですよ(笑)。

    911シリーズは発売から50年以上も経っているわけだけど、フェルディナント・ポルシェ博士による、水平対向エンジンをリアに搭載したスポーツクーペという基本設計をずっと守ってきている。コックピットに収まれば戦闘機の感覚があるし、車外に出れば後方の排熱口から聞こえてくる水平対向エンジンの存在が愛おしくもある。これ40年前の空冷ポルシェを運転するとわかるけど、本当に昔から変わらないのね。思想の実践を頑なに続け、唯一無二のマスターピースとして、現代に生き続けていることの凄みを実感させられたよね。

    • 走りを予感させるフロントマスク。0-100km/hの加速は3.6秒。

    • 往年のモデルにオマージュを捧げた水平基調の内装。

    • シフトはノブからシンプルなスイッチへ変更。

    • 空力面でも向上。ホイールベースは変わらず、全長が20mm伸びたサイドビュー。

    • フライラインと呼ばれる独特なルーフ形状。エンジンは先代比30馬力アップした。

    • 新型における、ポルシェブランドの共通アイコンになっている直線のスプリットライト。

    ポルシェ 911 カレラ 4S
    ●サイズ(全長×全幅×全高):4520×1850×1300mm
    ●エンジン形式:水平対向6気筒DOHCツインターボ
    ●排気量:2981cc
    ●最高出力:450PS
    ●駆動方式:4WD(リアエンジン4輪駆動)
    ●車両価格:¥18,048,148(税込)

    問い合わせ先/ポルシェ カスタマーケアセンター
    TEL:0120-846-911
    www.porsche.co.jp