素材を極めたアウトサイダーの、革新的スピーカー

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    青野 豊・写真photographs by Yutaka Aono

    素材を極めたアウトサイダーの、革新的スピーカー

    全方位スピーカーでは難しかった、確かな音像再生を実現した。2本セット売り価格¥196,000(税込)

    この全方位スピーカーには驚いた。技術常識に反した、特別な音が聴けるではないか。前方にユニットが向いた一般のスピーカーでは音は前方のみに出るから音像は形成されるものの、後ろに音が出ないので、全方位的な音場は表現できない。一方、360度に音が拡がる全方位スピーカーは、全体に音が拡散するため、しっかりとした音像再生は難しい。ところがTS-A200は全方位に拡がるサウンドの中に、きちんと、主役が的確な位置で歌っている。
    開発は、液晶表示パネルの製造が本業の広島はオオアサ電子。数年前から全方位スピーカーを商品化し数機種を販売しているが、TS-A200は、従来製品の域を超え、音場と音像を高次元でバランスさせることに成功した。その秘密は構造、素材、そして音づくりにありそうだ。
    ひとつめに「アクティブホーン」構造。一般的な全方位スピーカーはユニットから出た音を拡散器により反射させ、水平方向に強制的に拡げていた。TS-A200はドーム状ウーファーからの音を、360度水平方向に開放口をもつホーンで放つので、全方位に確実に音が拡がる。
    ユニット構造へのこだわりは、トゥイター(高域用ユニット)でも発揮された。いま世界のスピーカーメーカーで採用が相次いでいるハイルドライバーがそれ。プリーツ状に折りたたんだフィルムを伸縮させ発音する技術だ。振動板面積が大きく、その分、高域のエネルギーが強い。しかも、自社製造だ。
    また、振動板の素材を革新した。国の森林総合研究所が開発した「スギ由来の新素材・改質リグニン」をウーファー材として採用。ユニットの3大条件──強度が高い、振動が速い、信号を切ると直ぐに音が消える──を見事に備えた振動板だ。スギ材に約3割含まれるリグニンから製造される。トゥイターのハイルドライバー用の素材には、ハイレゾ帯域までクリアに伸びる粘土原料の「ポリマー・クレイ・コンポジット」を採用。これも国の産業技術総合研究所が開発した新素材だ。
    冒頭の「音場と音像をきちんと表現した」は、これらの新構造、新素材を使いこなした成果だ。技術が新しければいい音が出るわけではない。革新技術、革新素材に、熱いこだわりが加わって、初めて傑作スピーカーが誕生したのである。
    日本のオーディオメーカーはかつて世界に冠たるスピーカーをたくさんつくっていたが、最近はさっぱりだ。アウトサイダーのオオアサ電子が、ここまでの革新を成したことに、新しい時代のものづくりの到来を見た。TS-A200は、パソコンを音源とするデスクトップ「ハイレゾ」オーディオに最適だ。革新のスピーカーで、緻密な音場、正確な音像描写を楽しみたい。


    専用リモコンが付属。音量や音質調整などの基本操作のほか、音源機器とのBluetooth接続などに使用する。

    麻倉怜士
    デジタルメディア評論家。1950年生まれ。デジタルシーン全般の動向を常に見据えている。巧みな感性評価にファンも多い。近著に『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)、『パナソニックの3D大戦略』(日経BP社)がある。
    ※Pen本誌より転載