ポストiPhoneの次世代デバイスとは?──「アップルショック」後の未来を占う

  • 文:竹内一正(経営コンサルタント)

Share:

ポストiPhoneの次世代デバイスとは?──「アップルショック」後の未来を占う

アップルウオッチ シリーズ4には米FDA承認の心電計が搭載 Edgar Su-REUTERS

<今年初めに「アップルショック」が世界を襲った。中国市場でiPhoneの販売が失速する一方、ファーウェイなど中国ブランドのスマホの躍進が際立っている。今後アップルはどうなるのか、そしてポストiPhoneの次世代デバイスは登場するのか? 『アップル さらなる成長と死角』の著者で、アップルでの勤務経験もある経営コンサルタントの竹内一正氏が2回にわたって解説する>

iPhoneは再び躍進できるか

2018年10~12月でiPhoneの販売高は約15%(前年同期比)減少した。それを捉えて「iPhoneは頭打ちになった!」という見出しのニュースがネットにあふれた。しかし、iPhone失速の兆候はそれ以前から表れていた。

iPhoneの販売台数ベースで見ると、2015年度(2014年10月~15年9月)からすでに頭打ちになっていることがわかる。2015年度で2億3122万台だったが、2016年度は2億1188万台、2018年度は2億1772万台で、過去4年では2015年度が販売台数のピークだった。

それをカバーするためにティム・クックCEOは高価格路線を打ち出し、売上額での成長を維持してきた。だが、iPhoneはブルーオーシャン(競争相手のいない未開拓市場)からレッドオーシャン(競争が激しい市場)に突入していたことは紛れもない事実だ。しかもスマホ市場全体が頭打ち感を漂わせている。iPhoneにこれまでと同じ成長を期待することはできない。

安価なiPhoneへの待望論

そこで、「アップルはiPhoneの廉価版を出すべきだ」との主張が散見される。しかし、筆者はそれには反対する。

なぜなら、アップルはコストダウンや他社のマネが上手い会社ではないからだ。

そもそも、企業には2種類ある。他社に先駆けて驚くようなイノベーションを起こす企業と、それをまねて安価な製品で儲ける企業だ。

アップルはイノベーションを生み出すのは得意だが、コストダウンは苦手で下手だ。なにより、アップル社員たちはイノベーションにはあらん限りの情熱を傾けるものの、コストダウンや他社のまねには軽蔑の眼差しさえ平気で送る。それはアップルの歴史が物語っていた。

ポストiPhoneは何か

クックが今やるべきことは、iPhoneの神通力が通用しなくなる前に、ポストiPhoneとなる主力商品を生み出し、さっさと新たな市場を作ることだ。

では、そのポストiPhoneとはいったい何か?

それはアップルウオッチだ。アップルウオッチは、高齢化社会のヘルスケア分野にアップルが参入するうえで大きな可能性を秘めている。

世間には、ジョブズが生んだiPhoneを握り締めて「これが無くては生きていけない!」と言い張るユーザーが少なくない。しかし2015年に登場したアップルウオッチは当初「無くても生きていける製品」に甘んじていた。ウエラブル端末としては力不足で、腕時計にしては高価すぎた。

しかし、「アップルウオッチに命を救われた」という人が2017年にニューヨークに現れ、状況はガラッと変わった。アップルウオッチの心拍センサーが異常を見つけ、利用していた男性が病院に駆け込み、九死に一生を得たのだった。アップルウオッチでは、そのように健康器具として人命を救助した事例が次々と報告されている。

ユーザー層を広げる戦い

さらに、最新のアップルウオッチ シリーズ4にはFDA(米食品医薬品局)が承認した心電計機能が搭載された(残念ながら日本の厚労省はまだ承認していない)。心電計と心拍センサーがあれば、約8割の確率で心臓病の症状を見つけ出すことができるという。

さらに、着用者が急に転倒し、動かなくなった時にアップルウオッチがそれを感知して、家族などの緊急連絡先にメッセージを送ってくれる「転倒検出機能」があり、注目を集めている。

これは不整脈などの心臓疾患の高齢者を持つ家族にとってありがたく、安心を担保するアイテムとなる。しかも、ウエラブルという持続的なモニタリングは医療コストの低減にも役立つはずだ。その上、これまでアップル製品は若者が中心だったが、アップルウオッチなら高齢者も取り込んでいく可能性を持っている。

従来のアップル製品の「ユーザー体験」はユーザー自身の自己完結型だったのに対し、アップルウオッチによるユーザー体験は着用者の家族たちも巻き込む波及型で、これは新たなユーザー体験と言えるだろう。

ヘルスケア、医療の分野はジョブズ時代のアップルが進出できなかった新たな市場だ。

だからこそ、保守的な規制や商習慣でがんじがらめの医療業界が、暴れん坊アップルの参入を簡単に許す寛容性があるかどうかは疑問だ。それでも、高齢化社会という緊急の課題がアップル待望論を後押しすることは期待できる。

アップルの未来は、アップルウオッチの成否にかかっていると言っても過言ではないだろう。

第2回「ジョブズとクック、まったく異なる仕事の流儀」はこちら


文:竹内一正(経営コンサルタント)

ビジネスコンサルティング事務所「オフィス・ケイ」代表。著書に『スティーブ・ジョブズ 神の交渉力』(経済界)、『イーロン・マスク 世界をつくり変える男』(ダイヤモンド社)ほか多数。最新刊『アップル さらなる成長と死角』(ダイヤモンド社)が2019年3月に発売。