今採用すべきは「24時間戦う気持ちで7時間働く」人

  • 文:横山信弘

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今採用すべきは「24時間戦う気持ちで7時間働く」人

これから欲しいのは、時間内にハードワークして「脳に汗をかける」人材だ。AndreyPopov/iStock.

<4月から残業時間の上限が導入されるが、仕事がラクになると思ったら大間違い。時間という経営資源を削る代わりに、ますますハードワークが必要になる>

2018年に働き方改革関連法が成立し、今年4月から新たな残業の上限規制ルールが適用されます(建設業、自動車運転業務、医業に従事する医師を除く。中小企業は2020年から)。

労使合意による「特別条項」がなければ、年360時間が新しい上限です。月間30時間の残業が基本路線になるわけですが、にもかかわらず、現場では「そんなことできるはずがない」と鼻で笑う経営者・中間管理職も少なくありません。

懐かしい『24時間戦えますか』

『24時間戦えますか』のキャッチフレーズで一斉風靡したドリンク剤「リゲイン」。この時代にリゲインを飲んでいた経営者、幹部たちは、口には出さないものの「定時で帰るヤツの気がしれん」という意識を今も持っています。

驚くかもしれませんが、これは現実です。

もともと「残業ありき」でビジネスモデルが構築されてしまっている企業も少なくありません。

大企業の下請け的な中小企業の中には、「残業を減らしたら、お客様から取引停止と言われる」と開き直った態度をとる経営者も多いのです。

とはいえ超採用難の時代です。いつまでも経営トップが「忙しいときは夜11時12時は当たり前」的な発想をしていれば、若者たちはすぐ別の職場を探すことでしょう。

まず残業削減のためにハードワークせよ

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。時短よりも、まず達成を優先すべき、というスタンスは変えていません。

どれぐらいの労働を投入したら目標が達成するのか。その道程を確認せずに、労働資源を減らしてしまったら、成果が減っていくのは明らかです。存続できなくなる企業も増えていくことでしょう。

ですから、まずは恒常的に目標を達成できる文化、仕組みを組織に根付かせることです。無駄を徹底して省いたうえで、どれぐらいの時間外労働を社員に求めなければならないかを正確に算出します。

「昔からやっていたので」という理由の、無駄な会議や資料作りはすべて削減。組織内に抵抗勢力がいても、社会のルールが変わり、「時間」という経営資源を減らさるを得ないのだと説得します。ハードワークでやり切ります。

ますますハードワークが必要な時代

企業を持続的に発展させるためには汗をかくしかありません。ですから「時間」ではなく「汗」という経営資源に頼るのです。

ハードワークして脳に汗をかき、過去にとらわれないアイデアを出しているうちに、組織にイノベーションが起きます。ハードワークなくして、短い時間で成果を最大化できるようなアイデアは生まれません。

したがって働き方改革時代に、企業にとって本当に必要なのは「汗をかける人材」です。

「7時間、仕事します。だから7時間分の仕事をください」

という人は採用の対象からはずします。「時間単位」ではなく「成果単位」の時代となったのだから。

「24時間戦えますか」と聞かれて「24時間戦います」と答えるのではなく、「24時間戦う気持ちで7時間働きます」と答えるのが、現代流のハードワーカー。

毎日深夜まで働くつもりで腕まくりするハードワーカーではなく、成果にコミットし、脳に汗をかくハードワーカーを見極め、会社の将来を託しましょう。


文:横山信弘

「世界が変わったことを認めなくてはならない」

名門企業も昔はベンチャーだった

実は、新興企業と既存企業のDNAには共通点が多いという。なぜなら、P&Gをはじめとする歴史ある名門企業も、かつてはグーグルのようなベンチャー企業だったからだ。

だが、会社が成長し拡大していくにつれて、創業当時の興奮や目的意識、あるいは熱意は失われていく。市場シェアや現在の地位を守ることに血道を上げるようになり、強烈や個性やスピード感は過去のものとなり、やがて「化石」のようになってしまう。

「長い歴史をもつ企業は、世界が変わったことを認めなくてはならない」と著者は言う。いま多くの既存企業が苦境に立たされているのは、消費者がそのブランドに魅力を感じなくなったからだ。新鮮な空気を取り入れることで、スピードと小回りのきく行動を取り戻す必要がある。

また、新興企業の旺盛なエネルギーは、既存企業を若返らせる力となる。新たな創造に向けて邁進する新興企業はやる気に満ちた人材を次々と採用しているが、かたや輝きを失った既存企業は、そうした若く優秀な人材の選択肢からは外されてしまっているからだ。

もちろん新興企業にとっても、既存企業と手を取ることはメリットが大きい。著者に言わせれば、ほとんどの新興企業には「いわば大人による監督」が必要だ。

歴史の浅い企業の多くが破綻するのは、適切な組織運営に不可欠な規律や仕組みが欠けているために、会社の文化や使命感を守りながら拡大していけないことが大きな要因。時代の荒波を生き抜いてきた既存企業から得られる学びは、若い起業家にとって大きな財産になる。

ビジネス界に「パニック状態」が広がる時代に

グローバル競争が激化し、テクノロジーが急速に進化する今、ビジネス界には「パニック状態」と言っていいほどの不安が広がっている、と著者は言う。この複雑性とダイナミズムを強める世界で生き延びるカギが、既存企業と新興企業のパートナーシップだ。

自社の力だけで難局を乗り切ろうとして悪い行動パターンを繰り返す企業は、自社の未来をギャンブルの対象にしているに等しい。新興企業がその賭けに失敗すれば、あっと言う間に死を迎える。資源をふんだんにもっている既存企業も、古いやり方を続ければ、痛みをともなう緩慢な死を迎えかねない。(17ページ)

未来指向の企業はすでに実践を始めている。IBMやトヨタ、GE(ゼネラル・エレクトリック)、大手銀行ウェルズ・ファーゴ、ジーンズを生んだリーバイ・ストラウス、通信機器大手のモトローラ・ソリューションズ、小売り大手のターゲットなどの取り組みの実例を、本書で知ることができる。

「最後は泥沼の離婚裁判で終わった」という例も紹介

しかしながら、当然全てのパートナーシップが実を結ぶとは限らない。本書には「最初は相思相愛で始まり、最後は泥沼の離婚裁判で終わった」というGEの例も紹介されている。

では、成功と失敗を分けるものは何なのか。新興企業と手を組みたい既存企業にとって最も重要な点は何か。会社の若返りに成功した企業は、具体的に何を行い、何を行わなかったのか。新しい成長の道筋を見出し、社内のイノベーション能力を解き放ちたいと願う経営者は、ぜひ一読を。


文:ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

『会社は何度でも甦る――ビジネス・エコシステムを循環させた大企業たち』ジム・ステンゲル&トム・ポスト 著 池村千秋 訳 CCCメディアハウス