アルコールとがんの関係が明らかに DNAを損傷、二度と戻らない状態に

  • 文:松丸さとみ

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アルコールとがんの関係が明らかに DNAを損傷、二度と戻らない状態に

アルコールとがんの関係が明らかに KatarzynaBialasiewicz-iStock

英ケンブリッジ大学の研究チームが、アルコールの摂取がDNAを損傷して、がんのリスクを高めると発表した。

アルコールがDNAを損傷

1年で最もお酒を飲む機会が多くなると思われる年末年始のこの時期、お酒を愛する人たちにとって気になるニュースが報じられた。アルコールが、DNAを損傷してがんのリスクを高めるというのだ。英ケンブリッジ大学のケタン・パテル教授率いるチームが、英MRC分子生物学研究所で行なった研究について、科学誌「ネイチャー」に発表した。

これまでも、アルコールの摂取ががんのリスクを高めることは指摘されてきた。アルコールを摂取すると、分解する過程でアセトアルデヒドが生成される。このアセトアルデヒドがDNAを損傷することは、培養細胞を使った研究で確認されていたのだ。しかしそのメカニズムははっきり分かっていなかった。今回初めて、パテル教授のチームがマウスを使い、生きている臓器の反応を確認。納得いく説明ができるようになったという。

パテル教授は、「がんの中には、幹細胞のDNAの損傷が原因でできるものもある。DNAの損傷はたまたま起こる場合もあるが、今回の研究は、アルコールが損傷リスクを高める可能性があると示唆している」と、MRC分子生物学研究所に話している。研究チームがマウスにエタノールを投与したところ、エタノールが造血幹細胞のDNA二重鎖を切断。細胞内のDNA配列は、元に戻らない状態に壊されてしまったという。

アジア人はアルコール分解がうまく機能せず

MRC分子生物学研究所の発表文によると、人間は通常、アルコールからのダメージに対して2つの自己防衛機能を備えている。1つは、アルコールを分解する過程で生成されるアセトアルデヒドに対するもの。アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)が、有害なアセトアルデヒドを酢酸に分解し、細胞のエネルギー源に変える。今回の研究では、ALDHの一種、ALDH2が欠如したマウスにアルコール(エタノール)を投与したところ、ALDH2が機能しているマウスと比べ、DNAの損傷は4倍に達した。

研究チームは、この酵素が十分でなかったり欠陥があったりする人は、東南アジア人に特に多いと指摘。科学系ニュースサイトのサイエンス・アラートはこれを受けて、ALDH2が変異している人(つまりうまく機能しない人)の数は、アジアに5億4000万人いると具体的な数字を挙げている。

2つめの防衛機能は、DNAの修復だ。しかしこれが常に機能するわけでもなく、中にはうまく機能しない人もいると研究チームは説明している。


「安全な飲酒量などない」

パテル教授は、アルコールを効果的に処理できないことが、DNA損傷のリスクを高め、特定のがんにつながる可能性があるということが今回の研究で強調された、と発表文の中で述べている。ただし、「アルコール処理やDNA修復のシステムは完璧ではなく、こうした自己防衛機能がきちんと作用している人であっても、アルコールが原因でがんができる可能性はあることを忘れてはならない」と注意を促している。

英国のがん研究所は、アルコールとの関係が特に指摘されているがんの種類として、口腔がん、咽頭がん、食道がん、乳がん、肝臓がん、大腸がんを挙げている。そのリスクは、ワインやビール、蒸留酒などアルコールの種類とは無関係で、飲む量についても「がんに関しては安全な飲酒量などない」と断言している。ただし、英国には政府が定めた飲酒のガイドラインがあり、ここで規定している量以下であればリスクは低くなる、とがん研究所は述べている。

英国政府のガイドラインが推奨する飲酒量は、1週間で14ユニット以内(1ユニットは純アルコール8グラムなので14ユニットで112グラム)。英紙インディペンデントによるとこれは、4%程度のビールなら7パイント(約3.3リットル)、12%程度のワインなら通常のワイングラス(125ml)で9杯と1/3杯に相当する。

なお、厚生労働省は「節度ある適度な飲酒」を「1日平均純アルコールで20グラム程度」としており、1週間分(7日)に換算すると英国ガイドラインより多くなっている。がんのリスクを考えて飲酒するなら、少なめに設定している英国のガイドラインも考慮に入れた方が良さそうだ。

文:松丸さとみ