AI時代に「超高収入」ファイナンスの専門職は生き残れるか

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    AI時代に「超高収入」ファイナンスの専門職は生き残れるか

    Rawpixel-iStock.

    AI(人工知能)時代になると、どんな仕事の成果が求められるようになるのか。M&Aや投資など、ファイナンスの技術を用いて意思決定を行う専門職にも影響は及ぶのだろうか。

    昨今、「AI(人工知能)に奪われる仕事」が話題となり、メディアでもよく取り上げられる。ウエーターや工場労働者、事務員、販売員、トラック運転手だけでなく、ほとんどあらゆる業種・職種に影響が及びそうだと予測されている。

    M&Aや投資など、ファイナンスに携わる専門職はどうだろう。それを考えるヒントは、AI時代になると、どんな成果が求められるようになるかという点にありそうだ。

    ファイナンスに関わる業種は「超高収入」だ。それは、お金を右から左に流すだけの、いわゆる「マネーゲーム」ではなく、ファイナンスという技術を用いて大きなお金に関わる意思決定を行い、他の企業より大きな影響力をビジネスの世界に及ぼしているからだと、正田圭氏は説明する。

    1986年に生まれ、15歳で起業。M&Aの最前線で活躍する若き実務家である正田氏は、このたび『ファイナンスこそが最強の意思決定術である』(CCCメディアハウス)を上梓。ファイナンスの専門職や、企業の財務部、経理部、経営企画室に属する人に限らず、あらゆるビジネスパーソンに向けて、ファイナンスを習得し質の高い意思決定を行うための術を伝授している。

    正田氏の持論は、「意思決定を伴わないファイナンスに価値はない。ファイナンスを伴わない意思決定も同じである」というもの。ここでは本書から一部を抜粋し、3回に分けて掲載する。第1回は「1章 ビジネスキャリアを加速させる秘訣はファイナンスにあり」より。

    AI時代に求められるたったひとつのこと

    ファイナンスを扱う業種が「超高収入」になった背景には、科学技術やコンピュータなどの目まぐるしい進歩に合わせて、人々の働き方が劇的に変化したことがあるのは間違いありません。

    数年前、英オックスフォード大学でAI(人工知能)の研究を行うチームが「雇用の未来」という論文を発表しました。

    この論文は、手先の器用さ、芸術的な能力、交渉力、説得力など、コンピュータ化の障壁となり得る仕事特性を抽出して702の職種を評価し、「今後、10年から20 年程度の期間で、約47%の仕事が機械によって自動化される」と予言したのです。

    この予言が産業界を驚かせたのは、これまで人間にしかできないと思われた仕事さえもが「消える仕事」として指摘されていたからです。

    目につくところで挙げていくと、会計士、銀行の融資担当者、不動産ブローカー、保険の審査担当者、苦情の処理・調査担当者など。

    こうした仕事が機械にとって代わられるということは、技術の進歩がそれだけ速くなっていることの証しなのでしょう。

    ビジネスパーソンに求められるビジネスの成果にも、大きな変化が訪れています。

    モノが売れない時代の成果は

    「いい商品」「いいサービス」を作れば勝手に売れていた時代は過ぎ去り、膨大なビッグデータを効率的に解析し、高度な広告技術を多用することでどんな買い手がいるのかを探り、しっかりとターゲティングしなければ、モノやサービスが売れなくなってきました。

    世の中はどんどん成熟して、なかなかモノが売れない時代になりつつあります。

    そんな世界で求められる仕事の成果は、「どれだけ長く働いたか」とか、「どれだけたくさん汗をかいたか」といった努力の量や質が問われるようなものではなくなりました。

    その結果として、今まであった仕事が機械にとって代わられるという事象が起こり、意思決定するという仕事の付加価値が向上していっているのです。

    今ではAIが活用され始めたり、シンギュラリティ(技術的特異点)などという言葉が流行ったりしていて、コンピュータが人間の知能を超えるなんて言われていますが、人間が最終意思決定をするという図式が変わることはあり得ないでしょう。

    なぜなら、最終的な意思決定者というものは、最終的に責任を取る人のことであり、どれだけAIが発達しようとも、コンピュータが責任を負うことはできないからです。

    では、このような世界になっていくなかで、ビジネスパーソンに求められることは何になるのでしょうか?

    すでにお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、それは「インパクトのある意思決定をすること」です。もっと言えば、「インパクトのある意思決定をし、それに対してきちんと責任を取ること」なのです。

    あと数十年もたてば、ビジネスの世界では、この1点しかビジネスパーソンには求められなくなると私は予想しています。

    そもそも、会社の社長が「できる」ビジネスパーソンに最も期待することは、自社のビジネスにいかに良質かつ巨大なインパクトを与えてくれるかです。

    私も現在、TIGALA株式会社というところで会社経営を行っていますが、「できる人」に期待する点はそこになります。

    特に幹部候補・役員候補としてジョインしていただくような人には、ビジネスの肝となるような命題に対する明確な指針を、入社初日から求めています。

    あまり大きな声では言えませんが、私が知っているとあるベンチャー企業では、経営幹部候補として入社して、初日にインパクトのある提案をひとつも出してこない場合は入社取り消しを行っています。

    逆に、自分が雇われる際も同様です。

    私の会社がクライアントから依頼を受けた場合、期待される第一の仕事は企業価値を大きく向上させることです。

    私の会社では、M&Aの支援や事業再生などのコンサルティング業務を請け負いますが、どうしたらこの企業を買収できるかとか、この会社が倒産するのを防ぐためには、まずどこを改善しなければならないのかといった緊急性かつ重要性の高い命題に対して、インパクトのある回答を打ち出さなければなりません。

    人を動かす力も必要になる

    依頼を受けているということは、私の会社はいわゆるプロの「傭兵」であり、実際の現場では自国の兵士よりも役に立たなかったなんてことは許されません。クライアントも、それ相応の、あるいはフィー以上の成果を求めているので、クライアントの既存の従業員や経営幹部たちが束になっても出すことのできない策や手法を、私たちは頭がちぎれそうになるまで真剣に考えます。

    それだけでなく、私は仕事の依頼を受ける際、その企業の様々なデータを集めながら、独自の分析を行っていくのですが、クライアントの社内の有力者たちがどのような考えや見解を持っていて、どのような意思決定プロセスでその企業の意思決定が行われるのかも見落とさないように観察していきます。なぜそのようなところを観察するのかというと、私たちの会社がファイナンスの技法を使ってどのような良策を生み出したとしても、結局、その策について最終意思決定をするのはその会社になるからです。

    インパクトのある意思決定案を出すだけではまだ足りない、というのがビジネスの世界の現実なのです。ビジネスは1人だけでできるものではありません。

    インパクトのある意思決定を行うためには、人を動かす力も必要なのです。

    AI時代を迎えるなかで、プロフェッショナルと呼ばれる人の条件は、いかに多くの責任を伴った意思決定活動をしているか、また、それを実現するためにいかに人を動かし、ビジネスの核となる部分にインパクトを与えているかという点になってくるでしょう。

    文:ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


    ※第2回:仕事も投資も「アセットアロケーション」でほとんど決まる!


    https://www.amazon.co.jp/gp/product/4484172143/

    『ファイナンスこそが最強の意思決定術である』
    正田 圭 著 
    CCCメディアハウス