日本「民泊」新時代の幕開け、でも儲かるのは中国企業だけ?

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    日本「民泊」新時代の幕開け、でも儲かるのは中国企業だけ?

    zorazhuang-iStock.

    先日話題になった「消えた外国人観光客」。訪日観光客は増加が続いているが、日本の観光産業発展に直結しているとはいいがたい。今国会で民泊新法が成立し、民泊業界がさらに拡大することが見込まれているが......

    訪日外国人観光客の増加が続いている。2016年は2400万人を突破。今年1~4月は911万6000人と前年同期比16.4%増を記録した(日本政府観光局、2017年5月19日発表)。

    しかし、昨年話題となったのは、中国人観光客の「爆買い」終了だった。「爆買い」はもともとは"1人当たり買い物額20万円台後半"という旺盛な消費欲を意味する言葉だ。2015年秋に新語・流行語大賞に選ばれたが、実際には1人当たり買い物額は同年冬がピークだった。

    そして今、話題となっているのが宿泊客数の伸び悩みだ。朝日新聞は5月24日に「ユー、夜はどこに? 訪日客は増加でも宿泊者は伸び悩み」を掲載し、訪日外国人客数は今年1~3月の累計で前年同期比約14%増(653万人)となった一方で、外国人延べ宿泊客数は約2%増(延べ1803万人)にとどまったことを報じている。

    民泊、クルーズ船、ネットカフェ、夜行バスなど宿泊形態の多様化が要因との分析だ。日本政府観光庁は来年1月にも宿泊旅行統計調査の手法を改訂し、民泊やラブホテルも統計対象に加えることを検討している。

    2016年3月、安倍政権は「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」において、「2020年に2000万人、2030年に3000万人」という目標を、「2020年に4000万人、30年に6000万人」と一気に倍増させた。きわめて野心的な目標だが、今の勢いが続けばあながち達成不可能ではないようにも見える。

    しかし上述のように、さまざまな「異変」が起きているのも事実。訪日外国人観光客の増加がそのまま観光産業規模の増加に直結しているとはいえず、関連省庁、関連業界は対応を迫られている。

    中国系民泊プラットフォームが続々と日本進出

    さて、外国人宿泊客はどこへ消えたのか? 例えば中国人は今年3月、前年同月比2.2%増の50万9000人、述べ宿泊日数は13.4%減の118万泊となった。訪日客数は増加しているのに宿泊客数は大きく減少。中国人宿泊客が一部「消失」したことを示している。彼らはどこに消えたのか。

    現在の統計調査手法に問題があり、統計が現状を反映していない中、具体的な要因を探ることは困難だが、民泊の影響は大きそうだ。

    6月8日、AirBnBと中国旅游研究院が中国で合同発表した「シェアハウス消費トレンド報告2017」によると、中国人の国外旅行で民泊利用は今や主流となっている。ツアー旅行から個人旅行へというトレンド転換が続いているが、個人旅行客の多くは予約が簡単で、コスト的にも安い民泊を選ぶ傾向が強い。中国人によるAirBnB利用で最多の国は日本。2位の台湾、3位の米国を上回った。

    中国人が購入した不動産を..

    さらに、AirBnB以外でも存在感を発揮するのが中国系民泊プラットフォームだ。5月27日に東京・新宿で開催された民泊関連サービスの展示会「バケーションレンタルEXPO」を取材したが、中国系サービスの存在感は圧倒的だった。

    自在客、途家網(東京民泊ページ)という大手民泊サイトに加え、新興の小猪網、海外(中国以外)を専門とする住百家(東京民泊ページ)というプラットフォームが参加していた。自在客、途家網は日本に事業所をオープンし、契約物件の拡大に力を入れている。

    他にも、中国人向けに日本の不動産を販売する有一居が参加。中国人が購入した不動産は賃貸、または民泊の形式で運用するのが主流だという。有一居の公式サイトには実際に運営されている民泊物件が公開されている。

    参加企業の1つ、自在客のアプリを試してみた。起動すると、トップページに日本の物件が真っ先に表示される。

    「バケーションレンタルEXPO」で話を聞いた中国民泊企業関係者によると、中国国内での成長が一段落する中、現在では海外市場へと主戦場が移りつつあるという。

    民泊新法で「二毛作民泊」が広がる?

    今後、日本の民泊業界はさらに拡大する可能性が高い。追い風となるのが住宅宿泊事業法案(民泊新法)の成立だ。

    6月1日に衆院本会議を通過、今国会中の成立が確実視されている。新法ではこれまで一部自治体に限定されていた旅館業法の適用除外が全国的に解禁される。これにより日本全土で「合法」的な民泊の運営が可能となる。

    今までも日本全土で民泊は運営されていたが、多くが違法状態だった。合法化のハードルが下がったことで、政府による実態把握と管理が進むことを期待したい。

    新法では営業日数を最大180日以内(自治体ごとに短縮が可能)とする規定も盛り込まれている。稼働日数が制限されることでビジネスとして成り立たなくなるとの危惧もあるが、民泊業界は合法的な対策を検討しているようだ。

    「バケーションレンタルEXPO」では、繁忙期の180日間は民泊として運用し、閑散期はマンスリーマンションとして一定の売り上げを確保する「二毛作民泊」などの対策が紹介されていた。

    日本ではこれまで、近隣住民とトラブル、治安に悪影響、ホテル・旅館業界に打撃などなど、民泊に対するネガティブな報道が目立っていた。一方で、選択肢を増やすことで訪日客数そのものの底上げにつながる、空き家を活用できるといったポジティブな面はさほど注目されていない。

    日本に喜ばしくない話なのか

    上述「シェアハウス消費トレンド報告2017」によると、ホテルを利用する観光客と比べて、民泊利用客は滞在日数が2.1倍、支出が1.8倍と多い。民泊を使って宿泊費を節約した分、長く滞在し、買い物や外食を増やす傾向があるというわけだ。

    中国人旅行客が日本に来ても、中国人オーナーの民泊に泊まり、中国企業経営の免税店で買い物し、中国人ガイドに案内され、中華レストランで食事をして帰っていく。もしこのように中国人の中だけでお金が回るようになれば、日本にとって喜ばしい話ではない。

    ただし、中国人が中国企業提供のサービスを選ぶのはなにも日本にお金を落としたくないからではない、という点には留意するべきだろう。消費者にとって利便性の高いサービスだから選んでいるだけなのだ。結果的にこうしたサービスが日本への旅行客数を増やしている側面も否定できない。

    また、いくら中国企業がさまざまな分野に進出しているとはいえ、すべてのサービスをカバーすることはできず日本経済に貢献していることも事実だ。

    こう考えてみれば、悪か善か、禁止か全面解禁かの二元論はナンセンスだ。現実的にはプラスとマイナスの側面を把握し、社会における便益を最大化する落としどころを見つけることにしか正解はない。

    そのためにはまず正確な実態把握が必要だ。宿泊統計の改正、民泊新法による合法化によって民泊の実態把握を進め、よりよい方向に誘導できるかどうか。観光立国を目指すためには避けては通れない道だ。

    ジャーナリスト/翻訳家
    高口康太