【李小牧/元・中国人、現・日本人】 大人気の台湾旅行、日本人が知らない残念な話

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    【李小牧/元・中国人、現・日本人】 大人気の台湾旅行、日本人が知らない残念な話

    RichieChan-iStock.

    年始に台湾旅行に行った。アジアの情緒があるからと日本人は受け入れているようだが、環境意識は低く、有名レストランですら清潔とは言いがたく、サービスも日本と比べて......(観光地の九份は上のアングルの写真で有名。確かに美しい街並みだったが、一体どこに行けばこのような写真を撮れるのか、私にはわからなかった)

    こんにちは、新宿案内人の李小牧です。今回は台湾について取り上げたい。

    今年の年始に妻と息子と3人で台湾旅行に行った。私にとっては2回目の訪問だが、前回は2008年の総統選取材だったため、観光はまったくしていない。今回は家族とともにたっぷり観光を楽しんだ。

    しかも今回は、若者のようなケチケチ旅行にチャレンジしてみた。飛行機はLCC、ホテルも格安だ。2泊4日の旅行(帰りは機中泊)で総費用は10万円程度。この金額で家族3人が正月休みを堪能できるのだからともかく安い。

    桃園国際空港に到着後、まず向かったのは九份。映画『千と千尋の神隠し』のモデルになったのではとも噂される、美しい街並みの観光地だ。その後は台北市に行き、故宮博物院やら中正記念堂、鼎泰豊(小籠包で有名なレストラン)など、台湾初心者なら必ず行くコースを回ってみた。

    ビジネスや視察、取材で各地を飛び回っている私にとって、普通の観光旅行は逆に新鮮だった(笑)。

    とはいうものの、ついついジャーナリスト魂がもたげてしまい、あれこれ観察してしまう。まず気になったのが中国人観光客の少なさだ。昨年5月の蔡英文総統就任以来、中国からの旅行ツアーは減少傾向にある。おかげでどの観光地も人が少なく快適に観光できた。

    2014年に東京・上野の東京国立博物館で特別展「台北 國立故宮博物院-神品至宝-」が開催されたが、私はあの時、国宝と呼ばれる翠玉白菜(虫がとまった白菜の形に彫刻されたヒスイの芸術品)を見るために半日も行列に並んだ。それが今回、故宮博物院ではたった5分の待ち時間で見られたのだ。

    費用が安くて、すいている。しかもインフラの充実ぶりやマナーでも先進国とさほど変わらず気軽に旅行できる。なるほど、日本で台湾旅行人気が高まるのも納得だ。

    実際、台湾が大好きなのは日本人だけではない。中国のネットを見ると「台湾はすばらしい。民主主義を実現しているではないか。中国人だって民主主義の担い手になれるのだ」「台湾のマナーは先進国に負けていない。民度を決めるのは民族性ではない。教育なのだ」などなど、台湾を絶賛する言葉が少なくない。

    勘のいい人ならばお気づきだろうが、これらの褒め言葉は中国共産党に対する痛烈な批判となっている。中国流のあてこすりだ。


    中国人に差別的

    中国人に対する差別的な態度は残念

    確かに、台湾が素晴らしい発展を遂げてきたことは事実だ。しかし、約30年間にわたり日本で暮らしてきた私の目には不十分な点も少なくなかった。

    いきなりあぜんとさせられたのは九份の近隣、金瓜石黄金博物園区で見た光景だ。この地は日本植民地時代に大々的な開発が進められ、東北アジア一の金山と呼ばれていた。1987年に閉山となった後、観光地として活用されている。坑道や日本人宿舎、精錬施設などをまとめて世界遺産として登録する準備も進められているという。

    観光地として活用するのはいいのだが、閉山から20年が過ぎた今も、山から黄色い水が海へと流れ込んでいるのには辟易した。水が流れ込む先は、海の一部が金色に染まっている陰陽海だ。過去の汚染が作り上げた奇景とされている。現在は汚染はないというが、とても自慢するような光景とは思えない。世界遺産登録などもってのほかだろう。

    金瓜石黄金博物園区は世界遺産登録に値するのか(撮影:筆者)

    また、台北の有名な牛肉麺レストランを訪れた時のことだ。大鍋の中にお椀を突っ込んで豪快にスープをすくっている。お椀の外側は店員が指で触っているというのに、だ。店員が汚いサンダルで調理場を歩き回っている姿も目についた。

    この店はB級グルメの屋台ではない。東京でレストランを経営する私から見ると許しがたい光景だ。旅行だから、アジアの情緒があるからと日本人客は受け入れているようだが、もし日本国内の店でこんなことをしたらあっという間に潰れるだろう。

    そして何よりも残念だったのが、台湾人がときおり見せる差別意識だ。息子の一龍はいま中国語を猛勉強している。私の前で格好いいところを見せようと一生懸命に中国語を話すのだが、そうするとタクシーの運転手もお店の店員も冷たい態度を示す。ところが、一龍が中国語でうまく表現できない時に日本語を話しだすと、態度が一変。とたんに親切になるのだ。

    これを親日と言っていいのだろうか。「現・日本人」として台湾の人々が日本を愛してくれるのはうれしい話だが、中国人に対する差別的な態度は残念に思う。

    中台関係は複雑なだけに、さまざまな思いがあるのはわかる。だが、すべての客に公平かつ誠実にサービスするのが商人道というものだろう。親日や反中ではなく民度の問題なのだ。少なくとも日本のレストランやホテルで、中国語を話したからといってこうした差別を感じたことはない。

    中国本土は台湾本土よりも50年遅れていると言われているが、私の目から見ると台湾も日本から50年は遅れていることがはっきり分かった。そうなると中国本土と日本の格差はどれだけ広いのやら。まあこの先は言わぬが花だろう。


    李小牧(り・こまき)

    新宿案内人
    1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。