新年にゆっくり楽しみたい、‟長熟”を堪能できるシングルモルトのスコッチ厳選5本。

  • 写真:宇田川 淳
  • 文:西田嘉孝 

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ここ数年の世界的なブームで常に品薄状態にある日本のシングルモルト。その品質には驚くべきものがありますが、本家であるスコッチのシングルモルトを忘れてはいけません。ここでは、その伝統であるシェリー樽とバーボン樽での熟成にこだわった“長熟”の5アイテムをご紹介。年始にひとりでゆったりと楽しむのはもちろん、気の合う仲間との新年会にもふさわしいラインアップです。熟成という魔法が、贅沢なひと時を演出してくれるはずです。


1.「グレンファークラス21年」――シェリー樽にこだわるクラシックスタイル
2.「グレン グラント18年」――アメリカンオークに由来する美しいフレーバー
3.「ザ・グレンリベット18年」――響き合うふたつの樽の個性。
4.「タリスカー18年」――熟成感の裏側に隠された爆発的なパワフルさ。
5.「ボウモア18年」――華やかに放たれる海のスモーキーフレーバー

「グレンファークラス21年」――シェリー樽にこだわるクラシックスタイル

「グレンファークラス21年」700ml アルコール度数43% ¥16,200(税込、参考価格)/ミリオン商事 TEL:03-3615-0411

シェリー樽での熟成にこだわるいくつかの蒸溜所の中でも、最も有名な蒸溜所のひとつであるグレンファークラス。スペイサイドエリアに位置するグレンファークラス蒸溜所は、希少な家族経営の蒸溜所としても知られ、原酒の熟成にはほぼ100%ヨーロピアンオークやアメリカンホワイトオークのシェリー樽を使用しています。

特にヨーロピアンオークのシェリー樽に見られる特徴といえば、ベリー系のフルーツやジンジャーなどのスパイス、ナッティなフレーバーなどが挙げられますが、「グレンファークラス21年」ではそれらがギュッと凝縮されたかのような香味を楽しめます。

熟した果実やレーズンなどのドライフルーツを思わせる穏やかで優しい香り、飲めばスイートさの中にナッツやクローブなどのスパイス、さらにはココナッツの風味も感じさせ、フィニッシュにはほのかにスパイシーで温かな余韻が長く続きます。

アメリカからバーボン樽が入ってくる以前、スコッチウイスキーでは長くヨーロッパから輸入されるシェリー酒の空き樽のみを熟成に使用してきました。グレンファークラスが現在も頑なに守るのは、いわばスコッチウイスキーの“クラシックスタイル”。「グレンファークラス21年」は、それが最もよく体現された一本です。

ラベルに描かれるのは、1836年創業の蒸溜所とその背後にそびえ立つスコットランド最高峰のベンリネス山。グレンファークラスは、スコットランドの先住民の言葉であるゲール語で「緑の草が生い茂る谷間」を意味します。

「グレン グラント18年」――アメリカンオークに由来する美しいフレーバー

「グレングラント18年」700ml アルコール度数43% ¥16,200(税込、参考価格)/アサヒビールお客様相談室 TEL:0120-011-121

伝統的に使用されてきたシェリー樽に対して、現在、スコットランドでも主流となっているのがアメリカンホワイトオークのバーボン樽です。バーボン樽(アメリカンホワイトオーク)で熟成されたウイスキーの特徴は、シトラスなどの柑橘系フルーツやバニラのようなフレーバー。こうしたバーボン樽を上手く熟成に使ったスコッチのシングルモルトは数多くありますが、なかでも秀逸な一本が「グレングラント18年」です。

グレングラントもスコットランドのスペイサイドにある蒸溜所で、同蒸溜所産の「グレングラント5年」は、美食の国イタリアで長く人気ナンバーワンのシングルモルトとして親しまれています。

ノンピート麦芽を使い、精溜器の付いた細長いポットスチルで蒸留することで得られる“軽やかで華やか”な酒質がグレングラントの特徴。そうした特徴はもちろんこの「グレングラント18年」にも受け継がれていますが、長期熟成のバーボン樽原酒のみを厳選して使用することで、驚くほどリッチな仕上がりになっています。

「18年熟成にしては随分と色が薄くない?」と思われるかもしれませんが、これは一度ウイスキーの熟成に使った後のセカンドフィルのバーボン樽なども使われているから。スムースな飲み口の中に、砂糖をたっぷりかけたグレープフルーツや蜂蜜、バニラ、アーモンド……。フィニッシュに至るまで、心地よい陶酔感が存分に楽しめる一本です。

1840年にジェームズとジョンのグラント兄弟がスペイサイドのローゼス村で蒸溜所を創業。「グレン グラント18年」は一昨年にリリースされた、同蒸溜所の新たなフラッグシップとなるシングルモルトです。

「ザ・グレンリベット18年」――響き合うふたつの樽の個性。

「ザ・グレンリベット18年」700ml アルコール度数43% ¥12,283(税込、参考価格)/ペルノ・リカール・ジャパン TEL:03-5802-2671

スコットランドで稼働する120以上のモルトウイスキー蒸溜所のうち、半数近くが集中するスペイサイドエリア。スペイサイドとは、ハイランド地方の東部を流れる全長約160kmのスペイ川流域一帯を意味します。政府が課したウイスキーに対する重課税への反発を原因とする18世紀の密造酒時代、多くのスマグラー(密造者)が集ったのがこのスペイサイド。中でもウイスキーづくりの名人として知られていたのが、後にグレンリベット蒸溜所を創業するジョージ・スミスでした。

彼は、他の密造者たちから命を狙われるほどの反発を受けながらも、1824年に初めて英国政府公認第一号蒸溜所としてグレンリベットを設立。密造酒からスコッチウイスキーの時代へと、先鞭をつけたジョーズ・スミスの功績は、いまもこの名門蒸溜所に語り継がれています。

そうした歴史が物語るように、スペイサイドモルトの美点である華やさと秀逸なバランスがザ・グレンリベットの特徴です。数あるラインアップの中でもお薦めの「ザ・グレンリベット18年」は、アメリカンホワイトオーク樽とヨーロピアンオークのシェリー樽を熟成に使ったシングルモルト。柑橘系というよりも、熟した黄色い果実を思わせるトロピカルなフルーツや、バターキャラメルを思わせる甘い香り、飲めばリッチなフルーティさの中に、ドライフルーツやスパイスのニュアンスも。まさに、アメリカンホワイトオークとヨーロピアンオークの“いいところ取り”をしたような、ウイスキーの楽しさを教えてくれる一本です。

その品質の高さから多くの蒸溜所が“グレンリベット”の名を冠したため、ジョージ・スミスは模倣者たちを提訴する裁判まで起こしています。ラベルに記載される唯一無二の本物であることを示す定冠詞の“THE”は、そうしたエピソードの名残とも言うべきもの。

「タリスカー18年」――熟成感の裏側に隠された、爆発的なパワフルさ。

「タリスカー18年」700ml アルコール度数45.8% ¥15,336(税込、参考価格)/MHD モエ ヘネシー ディアジオ モエ ヘネシー マーケティング部 TEL:03-5217-9738

スコッチのシングルモルトがもつ魅力のひとつに、“ピーティ”や“スモーキー”と呼ばれる独特のフレーバーがあります。スコットランドでは伝統的に、地中に長い年月をかけて堆積した海藻や植物からなるピート(泥炭)を採掘して乾燥させ、農場や各家庭の熱源とする文化がありました(いまも一部の地方では暖炉などに使われています)。ウイスキーづくりでも、原料である大麦麦芽の乾燥工程でピートが熱源として使われてきたため、仕上がるウイスキーは“消毒液”や“焚き火”のような香りと称される独特なピート香を伴っていたのです。

現在はスコットランドでも、ピートを焚き込まないノンピート麦芽とピート麦芽を使い分けるなど、各蒸留所でピーティなフレーバーの調節が行われています。多くがピーティさを控え目にした本島のウイスキーに対し、その強烈なピーティさで知られるのがアイランズモルトやアイラモルトと呼ばれる島産のウイスキー。スコットランドの西岸に連なるヘブリディーズ諸島や北のオークニー諸島、小さな島に8つの蒸溜所が稼働するアイラ島などでつくられるシングルモルトです。

そうしたアイランズモルトを代表するスカイ島のタリスカーは、“舌の上で爆発する”と評されるパワフルな味わいが特徴。アメリカンホワイトオークのリフィル樽を熟成に使用し、爽やかな柑橘系のフルーツと海辺の焚き火のようなスモーキーさ、そしてスパイシーさが織りなす複雑なフレーバーもタリスカーの身上ですが、この「タリスカー18年」にはヨーロピアンオークのシェリー樽で熟成した原酒も使用。熟成感のある深いスイートさに包まれた後に、パワフルでホットな味わいの余韻がどこまでも続く、寒い冬にぴったりの至高のアイランズモルトです。

ラベルに描かれる鳥が羽を広げたような島がスカイ島。ミストアイランド(霧の島)とも呼ばれるこの島が生むタリスカーは、『宝島』の著者として知られるロバート・ルイス・スチーブンソンをはじめ、古くから文豪や著名人たちに愛されています。

「ボウモア18年」――華やかに放たれる海のスモーキーフレーバー

「ボウモア18年」700ml アルコール度数43% ¥10,368(税込、参考価格)/サントリーお客様センター TEL:0120-139-310

アイランズモルトの多くが備えるピート香には、潮風や海藻など“海”を感じさせるニュアンスが含まれるのが特徴ですが、そうしたニュアンスを最もよく体現するのがアイラ島のボウモア蒸溜所です。蒸溜所はアイラ島最古となる1779年に創業、いくつかある熟成庫のうちのひとつは、波しぶきが外壁を洗う海沿いの海抜ゼロメートル地点に立てられています。

他の多くのアイラモルトと同様にピート麦芽を使用していますが、ヨーロピアンオークのシェリー樽での熟成にこだわるのもボウモアの伝統。“アイラモルトの女王”と称される通り、海藻や磯っぽさを伴うスモーキーなフレーバーに、どこか女性的でエレガントな気品が漂うのもボウモアの特徴です。

エレガントで華やかなスモーキーフレバーと、ヨーロピアンオークのシェリー樽を主体とすることによるフルーティでスイートな味わい。そんな“女王”の魅力を存分に味わいたい人にお薦めなのが「ボウモア18年」。華やかで軽いスモーキーフレーバーの後に続々と現れる、熟したフルーツやトフィーのような甘い香り。飲めばアーモンドやドライフルーツ、ミルクチョコレートのような甘さが温かく舌を包み込んでくれます。


2017年にラベルが一新された「ボウモア18年」。アイラ島最古の歴史を誇る蒸溜所では、いまやスコットランドでも数カ所となったフロアモルティング(自家製麦)を行うなど、伝統的なウイスキーづくりの手法が継承されています。

蒸溜された無色透明のスピリッツを樽に詰め、長い年月をかけて熟成することで得られる各蒸溜所の唯一無二のフレーバー。ここに紹介したような“長熟”のシングルモルトは、スタンダードなものよりもさらに深く、それを存分に楽しませてくれます。贅沢に時間をかけてつくられるシングルモルトとの出合いが、家飲みの時間をより豊かなものにしてくれるでしょう。