和VS洋⁉ 令和版とんかつ最新勢力は、この2店。

  • 写真:小野広幸
  • 文:森 一起

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車力門ちゃわんぶの「とんかつ定食」¥3,240(税込)。キャベツやキュウリの浅漬けも、割烹ならではの丁寧な仕事で繊細な味わいです。ほどよく温められた自家製ソース、すりながしのカレーが添えられおり、ボリューム満点。

車力門ちゃわんぶ (四谷三丁目)

四谷三丁目駅からほど近い荒木町エリアは、都内でも屈指のグルメ密集区です。その一角で、不動の人気を誇りながら2017年に惜しまれつつ暖簾を降ろした人気割烹「車力門ちゃわんぶ」が、ほぼ1年半の休業期間を経てランチタイムだけ営業を再開しました。しかも、メニューは「とんかつ定食」のみという潔さ。日本料理界の最高峰である新橋の「京味」出身者の武澤剛志さんが揚げるとんかつに、早くも予約が殺到しています。

注文ごとに大きめにカットされる豚肉は、約15分かけて中まで均一に火を入れ、余熱で芯まで温めています。もともと、揚げ物は武澤さんのスペシャリテのひとつ、牛カツはコース中の白眉でした。米油を使い、豚肉のそばに付きっきりで手間隙惜しまずに揚げられたとんかつは、和包丁で薄めにザクザクとカットされます。そのままなにも付けずに食べると、肉の身に寄り添うコクと甘みに驚かされます。大きめな肉なので、かじりつく快感とともに、とんかつを食べている至福に包まれるでしょう。塩はミネラル感を感じさせる会津産の山塩、自家製のソースは温めて供されます。

キャベツはその都度手切りされ、味噌汁は3種の麹味噌を合わせてとんかつの味わいに合わせたもの。炊き立てで気持ち硬めのご飯も、とんかつにぴったりです。なによりも嬉しいのは、玉ネギやトマト、にんにくなど数種類の野菜と、陳皮(ちんぴ)やシナモンなどのスパイスを用いて、和食の「すりながし」の技法でつくられたカレー。自家製ソースと同じく、野菜や肉の切れはじでつくったコンソメが主体のカレーは、薄味で野菜の旨味そのものの味わい。ソースをかけて味が完成するように優しい口当たりながら、山椒のシャープな辛さがアクセントになっていて、ご飯が進みます。武澤さんのお薦めは、2枚ほどとんかつを残しておいて、カレーと卵黄、自家製ソースでカツカレーにして食べること。すべての素材が相乗効果を生む「ちゃわんぶカツカレー」を1度口にしたら、誰もが次の機会を心待ちにしてしまうに違いありません。日本料理を極めた匠が手がける和の頂点としての「とんかつ」。予約が取れなくなる前に、昼の荒木町に出かけてみてはいかがでしょう。

たっぷり320gの厚さで提供される豚肉は、夏の時期は限りなく無菌豚に近い坂東豚を使用。肉そのもののポテンシャルを最大限に活かしたとんかつは、いくらでも食べられそうなほど軽く、それでいて旨味とコクに満ちています。

通常のとんかつ屋さんと違う鋭利な切り口は、和の包丁使いならでは。1cmという厚さは、ローストビーフを思わせるような肉を食べる喜びに満ちていて、いつまでも食べ飽きることがありません。



とんかつだけで楽しんだあとは、とんかつとご飯に、カレーとソース、卵黄をかけて特製カツカレーに。ひとつの定食で2度楽しめます。



車力門ちゃわんぶ
東京都新宿区荒木町3-22島ビル1F
TEL:03-3356-1680
営業時間:11時~14時
不定休

どこまでも軽やかな、ふわふわの白いとんかつ。

連日最初に売り切れてしまうという、成蔵の「TOKYO-Xのシャ豚ブリアンかつ定食 」3個入り ¥5,780(税込)。その都度手切りされる細切りのキャベツ、お新香とピクルス、優しい味わいの根菜入り豚汁、丹波産特別栽培米こしひかり「喜左衛門」のご飯がセットになっています。

成蔵 (南阿佐ヶ谷)

2010年に高田馬場に開店すると、瞬く間に日本を代表するとんかつの有名店になった「成蔵(なりくら)」。19年3月に閉店が発表されると全国から惜しむファンが押し寄せ、最終日まで長蛇の列が続きました。その後、店主の三谷成蔵さんが自身のSNSで店の再開を発表。とんかつ界のレジェンドは19年7月8日、東京・南阿佐ヶ谷にて華麗に復活を遂げたのです。以前の高田馬場の店舗は「なりくら」という店名で弟子たちに譲り、広くなった新たな厨房で三谷さんの飽くことなき「とんかつ」へのチャレンジが始まりました。

明治期に伝来した西洋料理「カツレツ」は、日本の洋食の歴史の中で平仮名の「とんかつ」に変わり、さまざまな店が工夫を凝らして進化させて来ました。そんな中、「成蔵」がトップの人気を誇るのは、ひと目でこの店と分かる"白い色”のインパクトかもしれません。極めて糖分が少ない特注のパン粉を使い、徹底した低温揚げを施すことで完成される白いとんかつ。余りにも低温なため、最初、豚の腸間膜のラードに浸される時、ほとんど音を立てません。具体的には110度という低温で揚げ始め、フィニッシュは145度(通常とんかつを揚げる温度は170〜180度)と驚くほどの低温揚げです。

低温から揚げられているのにまったく油を感じさせない衣は、サクサクと軽やかな音を立てながら、口中を爽やかな香ばしさで包みます。どこまでもやわらかな肉を噛み締めると、ほのかに甘い肉汁が口中を満たして至福の瞬間が訪れます。優しさだけでつくられたような白いとんかつは、そのままでもうっとりする味わいですが、岩塩やソースを合わせる毎に上質な味の変化が起きて、いつまでも飽きることがありません。肉は、旨味の強いサシが特長で、やわらかさとコク、噛み心地と香りを兼ね備えたTOKYO-X、低温・高湿度の雪室で熟成させることで、やわらかさと深い旨味を引き出した雪室熟成豚の2種から選べ、それぞれに特ロース、リブロース、シャ豚ブリアンかつ(2個か3個)の定食、単品のひれかつが用意されています。とんかつだけでも何種類か試したくなりますが、メンチかつ、ささみかつ、エビフライなどの単品も絶対に食べておきたいメニューです。オンラインの予約システム「OMAKASE」が導入され、予約できるようになった「白いとんかつ」。この機会にぜひ試してみてはいかがでしょう。

抵糖度の特注パン粉は、優しく抱き締めるようにたっぷりと肉を覆っています。選び抜かれた融点の高いラード、厳選された肉。銅鍋の中、静かな音を立てながら、じっくりと低温で揚げられるとんかつは、この店でしか出合えない特別な料理です。

余熱を効かせることで限りなくジューシーに仕上げられた「シャ豚ブリアンかつ」。卓上にはソースも用意されていますが、岩塩で食べるのが店のお薦め。白い衣の中から覗く美しい断面こそは、「成蔵」のとんかつの醍醐味です。ひれとは思えない肉の滋味に満ちあふれた、この店ならではの味わいです。

左上から時計回りに、肉汁があふれ出す「メンチカツ 」¥580(税込)、ていねいな仕込みでしっとりとやわらかな「ささみかつ」 ¥580(税込)、上質な天ぷらのように蒸しと揚げの技が表裏一体となった「エビフライ」¥780(税込)。単品メニューもぜひ食べておきたいところです。

成蔵
東京都杉並区成田東4-33-9
営業時間:11時〜14時、17時30分〜22時
定休日:水、日
https://www.omakase-japan.jp/stores/55285