平野レミ直伝、ひとつの餃子をみんなで食べる「マウンテン餃子」 (ゲスト:和田率)

  • 写真:MEGUMI
  • 編集・文:廣川淳哉

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新しい餃子の話。

vol.02

@togyother

平野レミ直伝、ひとつの餃子をみんなで食べる「マウンテン餃子」 (ゲスト:和田率)

アートディレクター、コピーライター、建築家、菓子作家という4人のクリエイターがチームを結成し、料理人とは全く異なる視点から新しい餃子づくりに取り組む「トゥギョウザー」。第2回からはゲストを招き、4人と一緒に餃子について考え、話し、実際に餃子をつくる過程などをお届けしていきます。

「餃子については、思うことがたくさんあります」と話すのは、ゲストの和田率。母親である料理研究家の平野レミとキッチンブランド「remy」を立ち上げたクリエイティブ・ディレクターは、子どもたちに手伝ってもらいながら、家庭での餃子づくりを楽しむことも多いそう。

「皮が炭水化物で、中の肉はタンパク質。野菜も入れればそれだけで完全食です。野菜だけならさらにヘルシーで、どんな具材でもそこそこマッチする。餡(あん)を変えれば、365日食べても飽きません」と和田。

餃子のよさは、家族でひとつの食べ物に手を伸ばすという行為にもあるとか。和田は「餃子は食卓を囲んで楽しめるし、近年進む孤食の対極にあるコミュニティフードの代表的な料理だと思います」と続けます。

左から、建築家の能作淳平、この日のゲストである「remy」のクリエイティブ・ディレクター、和田率、アートディレクターの古谷萌、菓子作家の土谷みお、コピーライターの鳥巣智行。

和田を含めた5人で考える、今回の新しいギョウザのテーマは「家族とギョウザ」。トゥギョウザーでは、ゲストに合わせてテーマを用意。テーマに沿ったアイデアを全員が出し合い、そこからひとつ選んで、実際に調理するというルールを設けています。

突然、冷蔵庫から取り出した納豆キムチを食べ始めるマイペースな和田。

テーマ「家族とギョウザ」は、和田の活動にちなんだもの。和田は、娘の弁当をつくってインスタグラムにアップする取り組みを2017年から続けています。毎日弁当作りをする父親として次第に注目を集めるようになり、料理教室や講演を開催し、日々のお弁当写真やレシピを収録した書籍「お弁父」の出版も手がけました。さて、家族というテーマに合わせて、5人はどのようなアイデアを出したのでしょうか。

鳥巣のアイデアは、切り分けて食べる「ホールギョウザ」。家族ではないけれど、分け合って食べることで生まれるつながりに着目。

能作は、大皿に円形に餃子を並べて、中央に薬味を配置した「大きなテーブルで食べるギョウザ」。薬味の使い方や食べる個数などを見ながら、一緒に食べられます。

古谷のアイデアは、家族それぞれが好きな具材を包み、巻いて食べる「好(ハオ)ギョウザ」。左から、焼肉、豆腐&納豆、まぐろ、パイナップル。

サイズ違いの餃子の皮を入れ子状にした土谷の「マトリョーシカギョウザ」。味付けした皮がメイン。

鳥巣はケーキのように切り分けて食べる「ホールギョウザ」、能作は「大きなテーブルで食べるギョウザ」と、ふたりとも、家族のつながりを表現したアイデアを発表。古谷の「好(ハオ)ギョウザ」は、家族全員がそれぞれ好きなものを入れて、茹でた餃子の皮で包み、手巻き寿司のように食べるというもの。土谷の「マトリョーシカギョウザ」は、入れ子状になった皮だけ餃子。「ひとつになったり、バラバラになったり=家族?」と問いかけます。

バラバラの餡と皮を口に入れて完成する「マウンテンギョウザ」

見事全員に食べたいと感じさせ、この日のメニューに選ばれたが、和田のアイデア「マウンテンギョウザ」。

「これは、巨大な餡の塊に茹でた餃子の皮をのせたもの。みんなで山を崩しながら口に入れて、口の中で餡と皮が一緒になれば、最終的に餃子になるという時短メニューなのに、びっくりするくらい餃子の味。実はこれ、母(平野レミ)から学びました」と和田。

買い出しで手に入れた食材。餡には、ひき肉ではなくバラ肉を使用。

和田の指揮のもと、役割分担しながら調理に取り組むトゥギョウザーのメンバー。

このメニューは、電子レンジで加熱するだけの簡単餃子。豚肉ベースの餡を皿に盛り、電子レンジでチン。皮は縦に4分割し、麺状にして茹でたものを、巨大な餡の上に乗せて完成です。通常の餃子の5分の1ほどに短縮できるこの時短メニューには、平野レミのこんな考えがあるんだとか。

「キッチンにひとりで立っている時間よりも、やっぱり楽しいのは食卓を囲んでいる時間。時短した分、時間を豊かに使える、できるだけ家族と過ごす時間を長くという考えが母の料理のベースにはあります(笑)」(和田)

「おいしくなるポイントは、ひき肉ではなく、豚バラ肉を包丁で叩いて使うこと」と和田。

電子レンジ対応の皿に盛り付けた餡を、電子レンジでチンします。

餃子の皮は、カットして麺状にして茹でたら、電子レンジから取り出した餡の上に。

巨大な餡に茹でた餃子の皮をのせて出来上がり。お好みでラー油や香菜をトッピング。

調理を終え、テーブルを囲んだ5人は、それぞれ手を伸ばし、マウンテンギョウザを食べ進めていきます。餡と皮が口の中で出会い、完成する新感覚の餃子の味を楽しむメンバーに、マウンテンギョウザの感想を聞いてみました。

「メニューをお母さんから受け継いでいるのも、家族というテーマに合っていていい。世代を超えて餃子でコミュニケーションしている」(鳥巣)。

「餃子がコミュニティフードというのは確かにそうですよね。つくるのもひとりじゃなくて、みんなで同時進行。食べる前から楽しめるという餃子の良さを再認識できました」(古谷)。

「キッチンにひとりで立つ寂しさはよく知っています。マウンテン餃子はそんなつくり手の寂しさも緩和してくれる積まれた愛のような味がしました」(土谷)。

「食べること自体は変わらなくても、家族の形態や食べるスタイルは変わっていく。時代によって、家族の食事のスタイルが変わることに建築についても考えさせられます」(能作)。


そして、最後に全員を驚かせたのが和田のこんな告白でした。「告白すると、調理中、みんなに『じゃあ、これやっといて』ってお願いしたとき、分量を適当に伝えていました」。

意表をつかれて驚く4人の顔を見て、和田はこう続けました。

「分量計算が面倒だったので、食材の量も、レンジの加熱時間も、全部アバウト。でも、ものすごくおいしかったですよね。そこには理由があって、人がおいしいと感じるのは、7割が味覚以外の要素なんです。今日はレシピ通りではないですが、みんなでお揃いのTシャツを着て、一緒に調理して、一緒に工夫して、一緒に楽しく食べたからおいしい。料理ってそういうもんで、何を食べるかよりも、誰と、どう食べるかなんです。餃子はそれを味わいやすいテーマでしたね」(和田)