白、ロゼ、自然派まで、高コスパで極旨な日本のスパークリングワイン5本はこれだ!

  • 写真:尾鷲陽介
  • 文:鹿取みゆき

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近年、日本ワインのレベルの向上は目覚ましいものがあります。それは、スパークリングワインがおいしくなったことからも実感できます。かつて、日本のスパークリングといえば、ガスを人工的に注入したものが主流でしたが、酵母が生んだ自然の泡による本格的なスパークリングワインが激増、スタイルも実に多彩になりました。

そんな日本のスパークリング。今回は、白やロゼに加えて微発泡性のものからシャンパーニュのように泡立ちの豊かなもの、さらには野生酵母による発酵でつくられたものまで、多彩な5本をご紹介。いずれもコストパフォーマンスのよいものばかりです。暖房の効いた温かい部屋で、ぜひ楽しんでみてください。


1.「ヴァン ペティヤン 2017」――シャルドネの味が際立つペティアン
2.「ケルナー&ピノ・ノワール スパークリング2017」――クリーミーな舌触りが、素晴らしい飲み心地。
3.「縁結 スパークリングワイン デラウェア ブリュット」――シャンパーニュのつくりを踏襲した、爽やかな辛口。
4.「吉祥ブラン・ド・ブラン」――酸と旨味のバランスが絶妙で、出色の出来栄え。
5.「ペティアン・ナチュール・ロゼ」――巨峰でつくった、ローズ色の微発泡。

シャルドネの味が際立つペティアン

「ヴァン・ペティヤン 2017」750ml ¥2,700(税込)/胎内高原ワイナリー TEL:0254-48-2400

通常、「ペティアン(ペティヤン)」と記されていると、微発泡性であることに加えて、瓶内一次発酵であるワインが多いのですが、胎内高原ワイナリーのつくった「ヴァン・ペティヤン」は違います。シャンパーニュと同じように、一度発酵させて出来上がったワインを再度瓶の中で発酵させるという手法をとっているのです。

ただし、口中、そして喉ごしで感じる泡の感触はとても優しいもの。というのも、このワインは、できるだけ多くの人にとって親しみやすい味わいに仕上げようと、あえて発泡感を穏やかにしているからです。初リリースから6年が過ぎ、次第にこうしたスタイルに落ち着いてきたそうです。グラスに注いでみると、確かに泡立ちはややおとなしく見えます。ところが口に含んでみると、キメ細やかな泡が広がって、それとともにシャルドネというブドウのおいしさがストレートに伝わってきます。なにより、喉越しの果実エキスが心地よく、しかも長く続いていくのが嬉しいのです。

聞けばこのスパークリングワイン、酸化防止剤として使われることの多い亜硫酸が無添加だといいます。
「もともと発泡性なので、泡が酸化を防いでくれますし、飲んだ時の口当たりがやわらくなるから」と、つくり手の佐藤彰彦さんは説明してくれました。

胎内高原ワイナリーは、胎内市が経営しているドメーヌ型ワイナリー(自社農園のブドウのみを使用している)です。こんなワインとワイナリーがあることを、もっと多くの人に知ってもらいたいと思います。

ブドウ園は胎内市を見下ろす山の中腹の斜面に位置。周囲の豊かな自然を守ろうと、化学合成農薬を極力使わないようにしています。年によって異なりますが、2017年は1回のみの散布。撒かずに済む年もあるそうです。

クリーミーな舌触りが、素晴らしい飲み心地。

「ケルナー&ピノ・ノワールスパークリング2017」750ml ¥3,240(税込)/キャメルファーム TEL:0120-934-210

2018年の秋から、北海道発のキュートで飲み心地のよいスパークリングワインが続々と登場しているのをご存じでしょうか? キャメルファームのスパークリングワインはその代表格です。

北海道の余市町は、単独の市町村で最大のワイン用ブドウの栽培面積を誇り、優に100ヘクタールを超えます。キャメルファームはそんな余市町において、とりわけブドウ栽培の条件に恵まれた登地区に約16ヘクタールの広大なブドウ園を構えています。17年には、ブドウ園のかたわらに待望のワイナリーも設立されました。

グラスからは花のような芳しい香りが立ち上ります。ジンの香料でも知られるジュニパーベリーを思わせるような香りもわずかに感じられます。味わいには奥行きがありながらも、柑橘のような爽やかな果物味が後から追いかけます。余韻にはほんのりとした甘さがありますが、北海道の冷涼な気候を思わせる酸が背後にあるせいか、切れ味は爽快です。

このスパークリングワインは、ドイツ系品種であるケルナーと、シャンパーニュにも使われるピノ・ノワールとのブレンド。華やかな香りと奥行きのある味わいの両方を持ち合わせているのもそのためなのでしょう。また、タンクの中で酵母が生んだ自然の泡立ちゆえに、舌触りも実にクリーミー。この価格帯のスパークリングワインとしては素晴らしい味わいです。

ちなみにキャメルファームのワイナリーでは、スパークリングワインが生産量の多くを占めています。レンベルガーからつくられた赤のスパークリングワインもお薦めです。

キャメルファームのスパークリングワインのシリーズのラベルにはいずれも、ブドウ畑にやってくる動物たちのイラストが描かれています。2019年2月までに4アイテムがリリースされました。

シャンパーニュのつくりを踏襲した、爽やかな辛口。

「縁結 スパークリングワイン デラウェア ブリュット」 750ml ¥2,592(税込)/島根ワイナリー TEL:0853-53-5577

日本各地のワイナリーでスパークリングワインがつくられるようになったのは、2006年頃のことです。つくり手たちが、生食用のデラウェアでお手頃なスパークリングワインをつくり出したことがその背景にあります。

薄紫色で小ぶりのこのブドウからつくられるスパークリングワインの多くは、一度目の発酵途中、糖分がまだ残っている段階で瓶詰めして瓶の中で発酵を続けたり、人工的に炭酸ガスを注入したりして、やや簡易な手法で発泡性にすることが多いのですが、このワインは違います。本場シャンパーニュ地方のつくり通り、一度発酵を終えてワインになったものを、糖分を加えて二度目の発酵を瓶の中で行うという瓶内二次発酵方式でスパークリングワインに仕上げています。

「島根県には、デラウェアを長く栽培してきたという歴史があります。この県独自のスパークリングワインをつくりたいと思い、あえてこの方法にチャレンジしました」とは、このワインをつくった島根ワイナリーの足立篤さん。「デラウェアのスパークリングワインには、ブドウらしい甘い香りがするものが多いため、味わい自体も甘口タイプのものが主流ですが、このワインは食中酒としても楽しめる本格派を目指して、爽やかな辛口(ブリュット)に仕上げています」

こうした取り組みのかいがあり、このスパークリングワインはいままでのデラウェアのワインとは一線を画しています。まずは香ばしいブリオッシュのような香りに驚きますが、味わいにも驚きが。まったりとして膨らみのある味わいが、口中を満たしてくれます。つくり手の土地への思いが込められたワインなのです。

このスパークリングワインは、2018年に飲んだワインの中でもコストパフォーマンスのよさに驚いた1本。「縁結」という名前は、ワイナリーの近くにある出雲大社にちなんだものです。

酸と旨味のバランスが絶妙で、出色の出来栄え。

「吉祥ブラン・ド・ブラン」750ml ¥4,320(税込)/楠わいなりー TEL:026-214-8568

最近飲んだ日本のスパークリングワインの中でも出色の出来栄えで、エレガントさとコストパフォーマンスのよさに感動したのが、楠わいなりーの「吉祥」です。

黄金色の液体を口に含むとキメ細やかな泡立ちがふわっと広がり、ブリオッシュのような香ばしい香りで口中が満たされます。そしてじわじわと感じられる旨味とそれを支える適度な酸とのバランスが絶妙なのです! 余韻には複雑なまったりとした味わいが続き、なんともおいしいスパークリングワインです。あまりにおいしくて、飲んだ途端、楠さんに価格の確認のメールをしてしまったくらいです。このワインはシャルドネだけを用いて、一度発酵させて完成したワインを、もう一度瓶の中で発酵させるという瓶内二次発酵でつくられています。

つくり手の楠茂幸さんは、ワインへの思いがふつふつと湧き起こり、会社を辞めて、郷里の長野県の須坂市にワイナリーを設立した人です。彼のシャルドネのワインはブルゴーニュワインに詳しいマスター・オブ・ワインのジャスパー・モリスにも大絶賛されました。なぜ手間も時間もかかる瓶内2次発酵のスパークリングワインまでをもつくろうと思ったのか、たずねてみると、こんな答えが返ってきました。

「ワインメーカーは、スパークリングワインをつくってみたいという衝動にかられるものです。お祝いの席での乾杯に日本のスパークリングワインがあれば素晴らしいではないか、日本でもおいしいスパークリングワインができることを知ってほしい、という思いに突き動かされてつくっています」

楠さんの言葉通り、彼のつくった黄金色の液体の中に際立つ泡は、グラスを持つ者の心を華やかに高揚させてくれます。

「吉祥」とはおめでたいことやその兆しを意味します。おめでたい席で使われて、飲む人が幸せで楽しい気持ちになってほしいという楠さんの願いが込められています。

巨峰でつくった、ローズ色の微発泡。

「ペティアン・ナチュール・ロゼ」750ml ¥1,836/ドメーヌ カジマ TEL:0268-64-5799

巨峰は、皆さんもご存じの生食用のブドウ。その巨峰でつくられた微発泡酒です。色合いは、ほんのり紅が差したような透明感のあるローズ色。泡立ちとともに、口の中一杯に赤いベリーの香りが広がります。程よい酸味もあって、実にジューシー。ついつい杯を重ねてしまう、ある意味、危ないワインです。このワインがつくられたのは、長野県の東御市(とうみし)。日本で最も巨峰の生産量が多い長野県の中でも有数の産地です。

「冷涼で、晴れの日が多い東御市の巨峰は、味わいが濃厚で酸味も豊かです。また生食用品種は食用独特の香りが強すぎることが多いのですが、東御の巨峰にはそうした傾向がありません」と、つくり手の中島豊さんは話してくれました。それだけではなく、中島さんはこのブドウを収穫カゴに少しずつ入れて、2週間から1カ月間、わざわざ陰干しをしているのです。

「生食用は粒が大きく、ワイン用としては、みずみずしすぎるところがありますが、陰干しによって、ブドウ中の成分は水気が飛び、凝縮され、香りも味わいも甘くなります」と中島さん。

さらに影干ししたブドウを、中島さんが足で踏んで、自然に野生酵母が湧き出すのを待つそうです。価格も1,000円台と、発泡酒としては破格の安さ。中島さんも、気軽においしさを楽しんでもらうことを願っています。

中島さんは、フランスのロワール地方のナチュラルワインに惹かれてワインの世界に。長野県東御市の南斜面に自社農園を拓き、ワイナリーを立ち上げました。この巨峰のペティアンは、いままでの巨峰の発泡酒のイメージを一新してくれるおいしさです。