フランスで自然派を極めた大岡さんが教えてくれた、「小公...
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鹿取みゆき・選&文  尾鷲陽介・写真

フランスで自然派を極めた大岡さんが教えてくれた、「小公子」品種の新たな顔

小公子2019 ラ・グランド・コリーヌ・ジャポン

フランスのローヌ地方で、自分の造りたいワインを求めて、ひた走ってきた大岡弘武さん。2016年、日本に帰国した。その頃すでに、ナチュラルワインの造り手としては、「ラ・グランド・コリーヌ」という名で海外では(そしてもちろん日本でも)注目されていたにもかかわらずだ。子どもたちを日本の文化の中で育てたかったとことも理由のひとつにあったのだが、一方でフランスでのワイン造りに限界のようなものを感じていたという。

ローヌではヨーロッパ系品種であるシラーを完全無農薬で育てていると、3年に1回は収穫がほとんど無くなる年があった。加えてワイン造りの伝統国であるフランスには、栽培品種や仕立て方など、まるでがんじがらめの細かな規制があった。温暖化で気候が変わっても、そうそう栽培品種は変えられない。

「日本に帰って、品種も栽培法もまったく新しいこと、本当に自分の好きなことにチャレンジしよう」。帰国の際、大岡さんの気持ちは奮いたったという。

そして「すでに存在している偉大なワインの出来損ないのコピーではなく、日本でしか造れない揺るぎない個性を持ったワインを造る」ために動きだした。

選んだのが小公子という品種だ。小公子は野性ブドウの血を引くと言われている交配種で、粒が小さく、色素が濃く、酸が高い。大岡さんは、こうした傾向を持つ野性ブドウ系の交配品種をいろいろ飲んでみた。そうして、そのなかで、もっとも味わいが良く、ある程度、収穫量を上げても、凝縮感を持つこの品種でワインを造ることに決めた。

去年、2020年は、夏から収穫時期にかけて天候に恵まれた。山梨の小公子に加えて、大岡さん自らが育てた岡山の小公子も獲れた。これらをブレンドするのかどうかはまだ未定だそうだ。次のリリースが楽しみでならない。

栽培で無化学農薬は大前提だが、醸造では、亜硫酸などブドウ以外のものは一切添加しない。大岡さんは、亜硫酸はほんの少量でも添加されると味わいが異なってしまうと指摘する。亜硫酸が無添加のワインを飲んでから、次に僅かだが入っているワインを飲むと、ワインが少し固くなり、一気に飲みづらくなるというのだ。

「また、亜硫酸が少量添加されているものは、ワインがどう熟成していくのかが、だいたい予想できます。しかし、無添加のものは、その予想が完全に覆されることがあるのです。全く飲めないと思っていたワインが、5年後に素晴らしい偉大なワインになっていたり。現代の醸造学では、理解できない現象を目の前にして、人間の力の小ささを知って謙虚になります」。ボルドー大学醸造学を学んだ彼が語るこうした言葉には、説得力がある。確かに、私も似たような経験をしたことがある。それとともに、彼の人となりが滲み出ているとも思うのだ。

ボトリングされたこのワインを飲むのは、じつは2回めだ。正直に言うと、1回目はあまりピンとこなかった。しかし、2回めを飲んだときには違った。一口飲んで圧倒された。黒系のカシスのような香りは濃密で深い。口中を満たすワインには、奥行きも複雑さもあり、なんとも言えないエネルギーが漲っている。彼が言う、凝縮感とはこのことかと納得ができた。小公子にここまでの凝縮さを感じたのは初めてだ。小公子の新たな姿をみせてくれたワインだった。

ボルドー大学でワインの勉強を始めた頃の大岡さんは、ボルドーのグランヴァン好きで、これぞ偉大と言われるようなワインを飲んでいた。ところが、あるワイン会で飲んだ、ジョルジョ・デコンブ(ボージョレのナチュラルワインの造り手)やプリウレ・ロック(ブルゴーニュのナチュラルワインの名手)のワインを飲んで衝撃を受けた。「それまでボルドーワインを飲んでいたのは、ワインを勉強しているようなもの、つまりすでに体系が出来上がった学問を学んでいるようなものだった」と大岡さんは語っている。Photo:鹿取みゆき

自社管理面積/2ヘクタール

栽培醸造家名/大岡弘武

品種と産地/小公子(山梨県甲州市)、マスカット・オブ・アレクサンドリア、ヤマソービニオン、一才山葡萄、シラー、グルナッシュなど(岡山県)

容量/750ml

価格/¥6700(税込)

醸造/畑で収穫時に可能な限り選果後、房のままタンクへ。そのまま3週間ほど置いた後、足でブドウを潰す。翌日垂直式プレス機で一日中プレス。そのまま小樽に移し発酵を続ける。マロラクティック発酵も樽の中で起きる。一年間、樽内で熟成させる。樽から出してタンクに移し、瓶詰め。ポンプは一切使わずすべて重力によって行う。無濾過、無清澄。亜硫酸もなし。野生酵母よる発酵で、ブドウのみで一切無添加。

栽培/路地(屋根がついたような施設のなかで栽培するのではなく、太陽の下で栽培すること)。仕立て方はオリジナル。剪定作業をした後はほとんどブドウを触らない。必要であれば芽欠きを行う。年に0-2回ボルドー液を散布。除草剤の散布不使用。不耕起草生栽培。現在のところ無肥料。


問い合せ先/ラ・グランド・コリーヌ・ジャポン株式会社
メール:lgcj2017@gmail.com


※この連載における自然派ワインの定義については、初回の最下段の「ワインは、自然派。について」に記載しています。また極力、栽培・醸造についての情報を開示していきます。

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