固定観念を捨てブドウ一粒一粒と向き合って生まれた、“こ...
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鹿取みゆき・選&文  尾鷲陽介・写真

固定観念を捨てブドウ一粒一粒と向き合って生まれた、“これぞ自然派”な一本。

エゴ アパーチャーファーム

造り手たちはワイン醸造を重ねる中で、新たな気づきを得ることがある。そしてそのきっかけはさまざまだ。アパーチャーファームの田辺良さんの場合、それは昨年、日本各地に被害をもたらした台風19号の襲来だった。彼の畑のある長野県も台風の影響をかなり受けそうだと予想した田辺さんは、急遽収穫を早めた。そのため、手伝いに来てくれる収穫ボランティアの人たちといつもはすべてのブドウを畑で選果をするところを、量を半分に減らし自宅で選り分けすることにした。

キッチンのテーブルにブドウを広げて、丸2日かけて、じっくりとブドウを選んだ。見た目は劣化していそうな房でも、ブドウの粒自体を確認していった。

「このブドウはワインになったらどうなるだろうと一粒食べてみると、驚いたことに、これはうまい! と感じるものがたくさんありました。いままでなんですべて捨ててしまっていたのだろう? と思ってしまいました」と田辺さんはいう。そして一粒ずつ、ゆっくりと、おいしいと思えるものを選んでいった。

次に、ていねいに手で果梗(ブドウのヘタや柄の部分)を外し、粒のまま低温で8日間置いて、野生酵母が沸きつくのを待った。その後、足で踏んで発酵が進み、その途中でひと樽分だけ果皮や種と分けたワインを古い樽に移してそのまま熟成をさせたそうだ。果皮や種を取り分ける時は、搾ったりせずに重力で流れ落ちる液体のみを使った。

田辺さんがこのワインの名前を「エゴ」と名付けたのは、造り手が固定観念、あるいは、エゴから解き放たれて誕生したワインだからだという。実は田辺さんは同じ赤ワインでも毎年ワイン名を変更している。

果たして、出来上がったワインは例年より、凝縮感も深みもある味わいに仕上がっていた。そう、ワインの色合いは濃く、黒紫のビロードのような色合いをしている。香りは、黒系のカシスの香りが濃密で、それにスパイスのような香りが溶け込む。まだ若々しいが、すでに質感はなめらかでしっとりとして奥行きもある。いままでのワイン以上の凝縮感が生まれている。

「自分の固定観念のせいで逃していた味わいが、今回のワインには出ていると思いました。改めてブドウがそのままワインの味わいにつながっているという、ワインづくり本来の姿も見えたような気がしました。造りたいワインがあるのなら、そのワインに近いブドウを育てる必要があるんだな思いました」と田辺さん。ブドウ一粒一粒と固定観念抜きに向き合うことの大切さも改めて実感したのだろう。

「カーブ・ハタノ」での委託醸造ながら、3年が過ぎ、ワインづくりに対する考えも変わってきた。いちばん変わったのは、自分が育てたブドウを信じる心構えができたことだ。野生酵母での発酵が不安になって、培養酵母を加えたりせずに、最近はむしろ野生酵母が動きやすい環境を整えるようにしているそうだ。亜硫酸を入れるタイミングも見極められるようになった。

そして来年、とうとう自身のワイナリー設立に向けて一歩を踏み出す。長野に移り住んで10年。資金繰りなどまだ課題はあるが、来年は新生アパーチャーファームが誕生する。

ブランド名の「アパーチャー」は、カメラの絞りという意味。学生の頃に写真を学んだ田辺さんは、「将来の農園のイメージにフォーカスしていくという意味だ」と説明する。エゴのラベルの写真は、石に生えた苔を自身で撮影したという。

自社管理面積/1ヘクタール

栽培醸造家名/田辺良

品種と産地/メルロ(長野県東御市東上田地区)

容量/750ml

価格/¥6,000(税込)

造り/粒よりで選果した後、手除梗後、粒のまま発酵。野生酵母でステンレスタンクで発酵。約1カ月間後、フリーワインを古樽に入れて6カ月間熟成。瓶詰め直前に10ppm。補糖や補酸はなし。ろ過・清澄はなし。

栽培/畑の開園は9年。一文字短梢仕立て、殺虫剤(なし)、石灰硫黄合剤は1回、ボルドー液は4回散布、除草剤(なし)、化学肥料(なし)、不耕起(耕さないこと)。収穫日は10月13日。

問い合せ先/Aperture Farm
www.facebook.com/ApertureFarm/?ref=bookmarks


※この連載における自然派ワインの定義については、初回の最下段の「ワインは、自然派。について」に記載しています。また極力、栽培・醸造についての情報を開示していきます。

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