オレンジワインブームの次はシードル? ナチュール好きを満足させる一本が、新進ワイナリーから登場。

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    鹿取みゆき・選&文  尾鷲陽介・写真

    オレンジワインブームの次はシードル? ナチュール好きを満足させる一本が、新進ワイナリーから登場。

    みずいろレヴァンヴィヴァン

    とても魅力的なシードルに出合った。名前は「みずいろ」。長野県東御市にて昨年設立されたワイナリー、レヴァンヴィヴァンの荻野貴博さんと朋子さん夫妻がつくった。

    シードルからはリンゴの蜜の香りが立ち上り、うっすらと白い花のような香りも感じられる。ふくらみのある果実味にはリンゴらしさが表現されており、さらに複雑で甘みがある。後口はキリッとしてドライだが、伸びやかな酸とともに果実味が長く残る。豊かな酸をもちながら、果実味を十分に味わうことのできる日本のシードルに出合ったことは、いままでなかった。加えて、このシードルは無補糖、無補酸、野生酵母による発酵、そして亜硫酸が無添加だというではないか。二重の驚きだった。

    いままで日本のシードルといえば、自分の植えたブドウが成木になって、そのブドウでワインがつくれるようになるまでの(製造免許取得の基準の醸造量を稼ぐための)、いわばつなぎや補填としてシードルをつくる人たちによるものが多かった。

    荻野夫妻も当初は同様に考えていたが、フランスのナチュラルなシードル、ラ・シードルリー・デュ・ゴルフを飲んでから考えを変えた。「コク、深み、複雑さに、リンゴの旨味のような味わいで、こんなにおいしいシードルがあるのかと衝撃を受けました。」とふたりは声を揃える。「リンゴも可能な限り自分たちで育てて、日本でもこのクオリティのシードルをつくりたい、いや、つくるべきだと思うようになりました」

    まずはリンゴを決めた。東御市で収穫可能な品種のなかから、まずはコクや深みをもたせるため、いちばんおいしくて、味わいにバランスがあると思うサンふじを選び、酸味を加えるための紅玉、甘さや複雑味をもたせるためのシナノゴールドなど長野県品種系を加えた。紅玉はJA(農業協同組合)から購入しているが(全体の半分の量)、残りは借り受けた東御市内の1カ所の畑で自ら減農薬で育てたリンゴを使った。

    少量ずつ8回に分けて行った仕込みではリンゴの配合を試行錯誤したが、当初はやや硫黄っぽい匂いがして水っぽく薄かった。そこで途中の仕込みから、サンふじの比率を上げていった。

    いよいよ始まった本番の仕込みでも、発酵では温度が上がりすぎないようにしたり、液面をきれいするようにしたりと注意を払っていたが、発酵途中の果汁がなかなかおいしいと思えなかった。しかし瓶詰め後1カ月経ったものには、嫌な匂いはなく、酸味とともに旨味が感じられた。そこで思い切って最低でも3カ月の熟成期間を取ることにした。

    果たして3カ月の熟成を経たシードルは、当初の果汁から想像していたものとはまったく違っていた。旨味や酸味をしっかりと備えた日本のナチュラルな酒が出来上がっていた。

    「海外の真似ではない、日本のシードルナチュールをつくっていきたいです。そして少しでも日本のシードルの価値を上げていきたいと思っています」とふたりは語る。今年は、いよいよ自社農園のブドウも初仕込み。ワインづくりにシードルづくり。挑戦は始まったばかりだ。

    8回の仕込みのうち、サンふじの比率を増やす前の2回のロットを「みずいろ」(写真)、3回目以降のロットを「あお」と名付けた。筆者の印象では、前者は酸がより豊かで、後者はリンゴの蜜の印象が強い。醸造については、かつて山梨のワイナリーで瓶内二次発酵のスパークリングワインづくりを経験していたことが役立った。

    ワイナリーは2019年に設立。荻野夫妻は、世界中の数多くのナチュラルワインとそのつくり手たちに出会い、「生きているワイン」の素晴らしさに魅了されワインづくりを志す。化学合成農薬、除草剤、化学肥料は使わずに、醸造ではできるだけ何も加えずに、ナチュラルでピュアに自分たちが本当においしいと思えるものをつくっていきたいという。photo:ハルタ一級建築士事務所

    自社管理面積/ブドウ4ha(作付けは3.1ha)、リンゴ0.8ha

    栽培醸造家名/荻野貴博、荻野朋子

    品種と産地/サンふじ、紅玉、秋映、シナノゴールド、シナノスイート(自社畑とJA購入のリンゴ。すべて長野県東御市産)

    シードルの容量/750ml

    価格/¥2,640(税込)

    造り/リンゴ破砕機で破砕後、化繊の袋に入れて、空圧式の水平式プレス機で強い圧力をかけて一気にプレス。開放型のステンレスタンクにて野生酵母で発酵が始まるのを待つ。発酵を促す加温は行わない。約2週間後にアルコール発酵が始まり、約1カ月後、発酵の途中で瓶詰めし、この後は瓶内で発酵を進める(メトードアンセストラル法による発酵)。3〜4カ月後、澱を取り除くデゴルジュマンという作業を実施。甘さは調節しない。仕込みから瓶詰めまで亜硫酸無添加。無濾過、無清澄、無補糖、無補酸。

    栽培/サンふじ、シナノゴールド、シナノスイート、秋映のリンゴは自社農園で栽培。紅玉はJA購入リンゴ。自社農園産の収量は6.5t/60a。減農薬(リュットレゾネ)、除草剤不使用、不耕起草生栽培。2019年より成園地(収穫の出来る成木がある園地)を借り受け、自社で管理するようになる。いままでは慣行農法だったため、すぐに無農薬栽培に切り替えることは難しく、それでも出来るだけ農薬の量を減らしたいので、減農薬栽培としている。2019年、自分たちで苗から植えた圃場は、完全無農薬栽培を実践。袋かけを行わない無袋(むたい)栽培。太陽の光をしっかり当てることで、糖度が高くなり、蜜の入りもよくなる。当園では秋映の収穫がいちばん早く、シナノスイート、シナノゴールド、サンふじと続く。出来るだけ樹で熟させたいので、収穫も遅い。

    問合せ先/レヴァンヴィヴァン
    TEL:070-2797-2920
    ogino@lesvinsvivants.jp

    ※この連載における自然派ワインの定義については、初回の最下段の「ワインは、自然派。について」に記載しています。また極力、栽培・醸造についての情報を開示していきます。