デラウェアからこんなワインができるなんて! いままさに飲み頃の凝縮感あふれる白。

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    鹿取みゆき・選&文  尾鷲陽介・写真

    デラウェアからこんなワインができるなんて! いままさに飲み頃の凝縮感あふれる白。

    デラウェアタケダワイナリー

    デラウェアは本来、生食用のブドウだ。昭和30年代には種無しブドウとして人気絶頂だったが、最近は巨峰やピオーネなど大粒のブドウの人気に押されて、やや影が薄い。

    しかし最近はワインの原料として、このブドウに可能性を感じるつくり手が増えている。山形県上山市にあるタケダワイナリーの岸平典子さんは、いち早くこの品種でのワインづくりに本腰を入れた人だ。
    「フランスから帰国して日本でワインづくりを始めて2~3年経った頃から、デラウェアのワインに可能性を感じるようになりました。山形県はデラウェアの栽培で100年以上の歴史があり、特に上山市を含む内陸の南部では、栽培面積も広い。長い年月の間かなり広い面積で栽培が続いていることは、この品種が風土に適していると言えるのではないでしょうか」と語る。

    2014年、彼女はこの品種を自ら育ててワインをつくることにした。除草剤、化学肥料を使わず、基本的には硫黄合剤やボルドー液で病気を防ぐという農法に切り替えた(ただし、天候や畑の状態を見て、化学合成農薬を使うこともある)。以前の栽培者は種なしブドウにするためにジベレリンというホルモン剤を使っていたが、それもやめた。

    自社管理をするようになって4年目あたりから、畑全体の「香り」が変わった。ブドウ棚の下に足を踏み入れると干し草、青草、そして心地よい土の香りが鼻をくすぐる。まるで深々と呼吸をしたくなるような匂いだ。そしてもちろん、ブドウ自体にも変化が生まれた。

    「ブドウの果皮は厚くなり、香りもびっくりするほど強くなりました。フレッシュでいながら、グレープフルーツの皮、アプリコットジャムのような香りが立ち上がり、加えてクミンや黒コショウなどのドライハーブのスパイシーなニュアンスも感じられます。複雑で芳醇です」

    ブドウにこれだけの香りと味わいのボリューム感があるのなら、樽で発酵させても樽の風味に負けることはないと、かねてから構想にあったデラウェアの樽発酵、樽熟成に取り組むことにした。まずは彼女自身が自分の目で見て、一粒ずつ健全なブドウを徹底的に選ぶ。岸平さんは何回も野生酵母での発酵経験があるものの、今回は培養酵母を加えることにした。

    「2004年以来、さまざまなワインで野生酵母での発酵に挑戦してきましたが、自分が納得がいくワインができるかどうかは、その年にどれだけボルドー液などを撒いたか、収穫時の雨、果実や果汁の様子など、ブドウの状態とブドウを取り巻く数えきれないほどの要素によって変わってきます。最近では、こうした要素を注意深く見極めてどうするか判断しています」と岸平さんは語る。

    こうしてできたデラウェアのワイン。ひと口飲んで驚くのはその凝縮感だ。従来のデラウェアのワインにはなかったまったりとした厚みがある。ジャスミン、アプリコットの香りが感じられ、そして奥の方からパイナップルのような香りも立ち上ってくる。エキゾチックな印象も特徴的で、デラウェアからこんなワインができるのかと驚く。リリースから10カ月以上の時を経て、いままさに飲み頃を迎えている。

    ワインは美しい黄金色。畑はワイナリーから1kmほど離れており、面積は0.3ヘクタール。ワイナリーの隣でブドウを育てていた農家が、高齢のため管理が難しくなったその畑の管理を打診してきたのだ。この地で100年間ワインづくりを続けたことで築きあげた信頼があってこと実現した取引だ。収穫量は、慣行農法のデラウェアの畑の半分以下に落としている。

    ワイナリーは山形新幹線かみのやま駅から、車で15分ほどの立地。デラウェアのワインだけで8アイテム並ぶ。1,000円台とお手頃価格の「タケダワイナリーブラン」や「タケダワイナリーサンスフル」が主力商品だ。photo:Miyuki Katori

    自社管理面積/15ha(デラウェアの畑は唯一飛び地の畑で、ワイナリーから約1km離れたところにある) 
    栽培醸造家名 岸平典子
    品種と産地/デラウェア(山形県上山市)
    ワインの容量/750ml
    価格/¥4,180(税込)
    造り/種まきカレンダーを参考に進めている。収穫後、一晩冷蔵庫にて冷却。翌日に選果で病果粒をすべて除去。除梗後、SO2、20ppmを添加し、密閉タンクに投入し24時間スキンコンタクトを実施。2018 年9月2日、まず果汁のみ取り出し、残ったもろみをプレスする。別々のタンクで24時間静置。(滓下げ剤、酵素等は不使用)。上澄みを取り出し、3空以上の旧樽で発酵開始。2018年9月30日にアルコール発酵完了を確認。翌2月に樽からタンクへ、静置滓下げ(コラージュ等使用なし)。2019年3月15日(花の日 ハーフムーン 上昇期)瓶詰め。その際SO2を20ppm添加。無補糖、無補酸、酵素剤無し、清澄剤無し、培養酵母添加あり、無濾過。
    栽培/収穫は2018年8月31日(収穫日はビオディナミ農法の種まきカレンダーに従い「実の日」に決定)。14年から自社管理を始め、農法も変更。剪定は、従来の棚栽培唐傘仕立てだったのものを、自社管理に切り替えてからタケダ方式唐傘仕立てに変更。(これは、岸平典子が始めた仕立て方法で、ベリーA古木やブラック・クイーンと同様)。ビニールハウスでの栽培だったが、借り受けて2年目から完全露地栽培(新梢に直射日光を当てることは、充実した果実を得るには絶対必要だと考えている)。収量は10アールあたり1200kgと、通常のデラウエアの収量2000~3000㎏と比べるとはるかに少ない。

    問合せ先/タケダワイナリー
    TEL:023-672-0040
    http://www.takeda-wine.co.jp/

    ※この連載における自然派ワインの定義については、初回の最下段の「ワインは、自然派。について」に記載しています。また極力、栽培・醸造についての情報を開示していきます。