フランスの自然派ワインの優しさに魅せられて、たどり着い...
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鹿取みゆき・選&文  尾鷲陽介・写真

フランスの自然派ワインの優しさに魅せられて、たどり着いた品種とは?

カベルネ・フラン2017 ドメーヌ・ナカジマ

カベルネ・フランという品種の特徴香として、真っ先に挙げられるのは、青いピーマンのようなやや青臭い香りです。ワインの香りの中でも、嗅ぎ取りやすい香りのひとつで、ワインテイスティングの訓練の際でも初めに覚えやすい香りです。その正体は、メトキシ・ピラジンという匂いの素です。ワイン中にこの物質が多く含まれていると青臭い印象が強くなります。

正直に言えば、この香りゆえにカベルネ・フランのワインがあまり好みではありませんでした。そんなカベルネ・フランの印象をガラリと変えてくれたのが、今回、ご紹介するワインです。まずは大きめのたっぷりしたグラスに注いでください。するとすぐにふわっと香りが広がってきます。少しの土っぽさ、ラズベリー、ブラックベリー、そして木の葉のようなニュアンスがあり、深みがあって複雑です。カベルネ・フラン独特の青臭さはなく、爽やかさを湛えています。やわらかく、優しくて身体にすっと馴染むような印象です。色合いはわずかに黒みがかったルビー色。身体の緊張感を解いてくれるようなワインなのです。

つくり手であるドメーヌ・ナカジマの中島豊さんは、「熟しても爽やかな果実感と優しいポテンシャルを感じさせる、フランス・ロワール地方にあるドメーヌ・デ・ボワリュカのナチュラルワインが好きだったのです。この長野県東御の地で、それに近いワインをつくりたくてカベルネ・フランを育てようと思いました」と話します。

畑は標高750mの南向きの急斜面にあります。2010年に植えられたブドウは樹齢9年目を迎えています。なぜ、青臭さがないのでしょうかと尋ねてみると、確証はないと言いながらも、中島さんはこう説明してくれました。

「あくまでも観察した印象ですが、ブドウの収穫が行われる10月の初めの段階では少し青い香りもするのです。ただし、ピーマンのような匂いではなく、青い芝刈りの匂いです。それが中旬、下旬と待っているとわずかになっていきます。香りが熟すタイミングと糖や酸のバランスが取れてくるタイミングが合っているのかもしれません」。待って待って収穫するのは月末だということです。

仕込みでは、中島さん自身が、木に穴を開けてつくった自作の板の上でブドウを転がして果梗(かこう)を取り除き、粒のままタンクに入れます。そして糖分、酸、培養酵母は加えず発酵が始まるのを待つのです。発酵後は樽の中で1年寝かせて、わずかな亜硫酸を入れて瓶詰めを迎えます。魅力あふれるカベルネ・フランは、この地のポテンシャルをしかと伝えてくれています。

少し黒みがかったルビー色が美しい。中島さんは新たな知識を取り入れることに貪欲で、勉強会や海外の研究者の視察にも頻繁に足を運びます。

ブドウの育て方はとてもユニークです。ブドウにとって過酷な環境である急斜面を使い、さらに畝を少し高くしてブドウにストレスを与えています。少しずつ広げてきた畑は合計1.4ヘクタールほど。今年はもう一棟、醸造棟を建てる予定です。

自社管理面積/約1.4ha
栽培醸造家名/中島豊
品種と産地/カベルネ・フラン(長野県東御市和)
ワインの容量/750ml
価格/¥5,400(税込)
造り/自作の除梗機で手除梗後、無破砕で野生酵母による発酵。発酵スタート後は約3週間醸し発酵。パンチングダウンは毎日朝晩実施。プレス後、小樽で約1年間熟成。その後、瓶詰め(瓶詰め時のみトータルSO2、20ppm)して、3カ月後出荷。無補糖、無補酸、酵母添加無し。オリ引きやバトナージュ無し。無濾過・無清澄。
栽培/高畝栽培にして通路は無除草。病気を防ぐために、春に石灰硫黄合剤とボルドー液を4回撒く。肥料は、斜面の上の方の結実が悪いところにリン酸や鶏糞を撒く。害虫には一部の木の一部の枝(休眠結果母枝)にトラカミキリ殺虫剤を塗る。害虫の天敵である虫を放つ。標高750m南向き斜面に植栽。植栽間隔2mx1m。収穫量は毎年約30hl/ha。収穫は例年10月末。
問合せ先:info@d-nakajima.jp
TEL:0268-64-5799

※この連載における自然派ワインの定義については、初回の最下段の「ワインは、自然派。について」に記載しています。さらに毎回極力、栽培・醸造についての情報を開示していきます。         

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