類まれなる芳香を放つピノが、日本にも現れた。

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    鹿取みゆき・選&文  尾鷲陽介・写真

    類まれなる芳香を放つピノが、日本にも現れた。

    2017 中棚ピノ・ノワールジオヒルズワイナリー

    類まれなる芳香を放ち、多くの人を魅了する……。ピノ・ノワールという品種からつくられたワインは、そんな魅力をもつことが多いものです。そして最近、日本でもピノらしさをもったワインが少しずつ見つかるようになりました。この秋にも、とても魅力的な日本のピノ・ノワールのワインが登場します。長野県小諸市の御牧ヶ原にあるジオヒルズワイナリーが初めてリリースする、「中棚ピノ・ノワール」です。ワインをグラスに注いでみると、フレッシュなラズベリーの香りが立ち上ります。その香りに、スパイス、土っぽさがしだいに絡まってきて、なんとも妖艶な印象です。濃厚なワインではないのですが、果実味と酸のバランスが絶妙で、しっとりとした仕上がりで心地よい。余韻の酸も伸びやかに続きます。

    実はこのワインは昨年、つくり手の富岡隼人さんが委託醸造先のワイナリーでつくったもの。今秋オープン予定の自身の「ジオヒルズワイナリー」ができる前だったためです。しかも、初めての野生酵母を使ったワインづくりでした。2010年から育てていたピノ・ノワールの収穫が初めてまとまった量になったので、仕込んでみようということになったのです。野生酵母の発酵に経験豊富なつくり手が委託先にいたことも、富岡さんの挑戦する気持ちをあと押ししました。

    「本当にうまく発酵するのか?寒さで発酵が止まってしまうのではないだろうか?など、不安は尽きませんでした」と富岡さん。果梗(かこう)を取り除いた粒のものと、房のままのものとを交互に積み重ねていき、待つこと5日間。ワインの発酵が始まりました。温度が上がりすぎて嫌な香りが出ないように、温度管理には十分気を付けたといいます。ようやく出来上がったワインには、複雑さとともに紛れもないピノ・ノワールらしさがありました。

    そして今年、富岡さんは、自身のワイナリーでの初仕込みを迎えています。ただし、今年は初めての機械による醸造。すべて培養酵母を仕込むそうです。「1回目はこのワイナリーでの仕込みがどうなるか見極めて、再び野生酵母のつくりに挑戦します。同時に、御牧ヶ原のブドウについてもっと知ることも大切だと思っています」。ワイナリーのオープンは2018年11月1日。長野の自然の中に、ピノ・ノワールを飲みに出かけてみませんか?

    長野県の小諸市を流れる千曲川の傍らにある台地、御牧ヶ原に畑はあります。富岡さんの父・正樹さんが2002年に開園したました。皮がやわらかく、実が割れやすいピノ・ノワールは栽培にも一段と気を使いますが、冷涼な気候もこの品種にはメリットとなっています。正樹さんは老舗旅館「中棚荘」の当主でもあります。

    ワイナリーの名前はジオヒルズ。ジオヒルズのジオはベトナム語で風。ベトナムは富岡さんにとって、かつて住んでいたこともある第2の故郷です。御牧ヶ原で栽培していると、時折吹く風が心地よい時もあれば、暴風になる時もあります。大地で育まれたワインが風となって、飲み手のもとに届いていってほしい。そうした思いも込められているそうです。360°の眺望をもつワイナリーの2階にはカフェがあり、ワインとともにベトナム料理を取り入れた食事をワインを楽しめます。

    自社畑面積/1.5ha
    醸造家名/富岡隼人
    品種と産地/シャルドネ、メルロー、ピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブラン、シラー(長野県小諸市御牧ケ原)
    容量/750ml  
    価格/¥4,200(税込)
    造り/果梗を取り除いた粒のものと、房のままのものとを交互に重ねて仕込み、野生酵母で約2週間発酵。その後、古い樽に詰め、少量の亜硫酸添加。補糖・補酸・清澄無し。瓶詰め前に粗いろ過を行う。栽培は化学合成肥料・除草剤の散布はなし。不耕起草生栽培。有機のたい肥を1年かけてつくり、冬にブドウの樹の周りに散布。たい肥は豚糞・落ち葉・もみ殻・そば殻・リンゴ風呂で使ったリンゴなどでつくる。殺虫剤の散布は1~2回。現状では殺菌剤も7回撒いています。
    問合せ先/ジオヒルズワイナリー
    TEL:0867-96-3658
    https://nakadanasou.com/meal/wine/

    ※この連載における自然派ワインの定義については、初回の最下段の「ワインは、自然派。について」に記載しています。また、極力栽培・醸造についての情報を開示していきます。