調理のアドバイスももらえる、こだわりの鮮魚店6選。<前編>

  • 写真:藤本賢一
  • 編集&文:久保寺潤子

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ていねいな仕事ぶりが光る噂の人気店から、プロも通う大型店、独自のルートで鮮魚を仕入れる個性派まで、魚を愛してやまない都内の6軒を紹介しよう。

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鮮度はもちろん、魚そのものに力があるかどうか、それを見分けるのは長年の経験のなせる技、と言う松本さん。

鮮度を超えた先に、魚屋の仕事というものはある。

 白木を基調とした清潔感あふれる「根津松本」のショーケースには、まばゆい輝きを放つ切り身や干物が整然と並ぶ。百貨店の鮮魚売り場でキャリアを積んだ松本秀樹さんが「魚屋の概念を変えたい」と2006年に開店、ご近所だけでなく全国に熱狂的なファンをもつ。人気の理由は、仕入れから加工まですべての工程を松本さん自ら手がける点だ。

「鮮度のよさは当たり前。魚屋の仕事はその先にある。いちばんおいしく食べてもらうため、最良の状態でお出ししています」と松本さん。血抜きした後、昆布出汁に浸けて旨味を引き出した干物、臭みを取るためウロコと皮をていねいに処理したタラ、銀座の寿司屋も顔負けの技が光る刺し身と、クオリティの高さは群を抜く。その仕事ぶりに惚れて通い詰める客は数知れず。「魚が苦手だったけれど、松本さんの魚を食べたら大好きになった」と、近所の常連さんは語る。

魚離れが進む現在、数より質にこだわり一匹たりとも無駄にしないのが信条。必要な分だけ仕入れてロスをなくすことが海洋資源を守ることにもつながると考える。魚を心から大切にする真摯な気持ちが、その味に込められている。

根津松本
東京都文京区根津1-26-5 TEL:03-5913-7353 
営業時間:11時~19時 定休日:日、月

http://nezu-matsumoto.jp

お造り用のマグロを見事な手さばきで切り分ける。和食店のような松本さんの仕事に信頼を寄せる顧客は多い。

冬の魚の王様といえばブリ。骨をきれいに取り除き食べやすい状態に。弾力のある色と艶、ほどよくのった脂が絶妙。

自慢のキンキの干物。凝縮した味とふっくらした歯ごたえは生とは違うおいしさ。こちらも店内で手づくりしている。

根津の商店街に暖簾を掲げる。人気の「ちらし寿司」は予約してから来店を。各種商品は地方発送も行う。

故郷・富山の鮮魚を、八王子から全国へ発信。

10㎏以上もある寒ブリは冬の王者。幼い頃から親しんだ富山の魚の魅力を伝える山本さんは今年「とやまふるさと大使」に就任。SNSを駆使し販路を拡大中。

東京都心から約40km、八王子に富山の魚のみを扱う鮮魚店がある。黒部市出身の山本智さんは学生時代に上京した際、氷見の魚を扱う「とやまフーズ」(前身の店)でアルバイトしたのが縁で店を受け継ぐことに。

「海のない多摩地区では、魚を食べる機会が少ないみたいで。だから、種類豊富でおいしい富山湾の魚を知ってほしいんです。近県からクルマで訪れる方もいます」と山本さん。

立山連峰から注ぐ豊富なミネラル、寒流と暖流が混ざり合う富山湾はプランクトンの宝庫で、天然の生け簀として知られる。なかでも屈指の水揚高を誇る氷見漁港から毎日直送される魚は、東京の市場ではお目にかかれないものも多く、銀座の料理屋から注文を受けることも。近年はネット販売にも力を入れており、ていねいに処理した後、真空パックにして全国へ発送。養殖、冷凍品、海外産ものは扱わない。地元・富山の魚の価値を全国へ発信すべく、奮闘を続ける。

山本鮮魚店
東京都八王子市絹ヶ丘2-2-17 TEL:042-637-1460 
営業時間:10時~19時(火~金)、9時~19時(土、日、祝)
定休日:月(祝日の場合は火曜休) 

https://toyamafoods.net

冬にお目見えする香箱ガニは、ズワイガニのメス。卵と味噌の濃厚な味わいが特徴だ。

冬、甘みを増すアオリイカは刺し身がお薦め。

多摩地区の主要道路、野猿街道沿いに看板を掲げる。店の前身は1987年に高岡出身の店主が創業したとやまフーズ。2015年、現在の店名に変更した。



銀座直売店各地の漁場から、その日のうちに魚が届く。

鮮魚販売から調理までをこなす石井さん。お薦めの調理方法から保存の仕方まで、魚をおいしく食べてもらうためのアドバイスは欠かさないという。

国内のハブ空港である羽田空港に鮮魚センターを設け、産地から消費者へ至る流通の簡素化を実現させた「羽田市場」。早朝、全国の漁船で血抜きや神経絞めされた魚が同日の昼には羽田で集荷され、店頭へ並ぶという超スピーディなシステムのため、東京でも非常に鮮度のいい魚に出合えるわけだ。

「いい魚を手に入れるためには漁師との信頼関係が第一。絶滅危惧種は扱わないなど、漁場の環境にも配慮しています」と話すのは、銀座直売店の店長、石井和彦さん。この店では鮮魚販売はもちろんのこと、昼はマグロ丼をメインに提供する他、16時からは立ち飲みの居酒屋に変身、日本酒に合うとびきりの肴が楽しめる。近隣の会社員が予約の刺し身を持ち帰ることも多い。朝イチにSNSで入荷状況をチェックして、メールや電話で注文するのがツウのやり方。最新の流通システムにのった魚は情報戦を制して手に入れたい。

羽田市場 銀座直売店
東京都中央区銀座8-15-6 クリスタルスクエア銀座1F TEL:03-4582-2394
鮮魚販売:11時~18時
ランチ:11時~14時(平日)
立ち飲み:16時~22時(平日)、11時~18時(土、日) 

https://hanedaichiba.com

冬に脂がのって旨味が増す長崎産のスナガツオ。

北海道産のサメガレイは刺し身やしゃぶしゃぶがお薦め。

ランチや立ち飲みタイムになると鮮魚売り場はなくなるが、注文はいつでもOK。スマホの専用アプリから持ち帰り予約も可能。



この記事は2020年 Pen 1/15号「やっぱり、魚かな。」特集からの抜粋です。
価格・営業時間・定休日は記載と異なる場合があります。来店の際は、事前に店舗までご確認ください。