ソウルフードを静かに、力強く切り取る写真シリーズ「ローカル・ロンドン」がグッとくる。

  • 文:宮田華子

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LONDONロンドン

ソウルフードを静かに、力強く切り取る写真シリーズ「ローカル・ロンドン」がグッとくる。

文:宮田華子

ロンドン東部にあるフィッシュ&チップス店「パラダイス」で撮影された『パラダイス・フィッシュバーのチャドラック』(2020年)。こうした店は深夜遅くまで営業しており、お腹を空かせたロンドン人の強い味方。揚げたてをその場で食べるのがおいしい。photo:Sam Wright @_sam_wright_photo @siobhansquire stylist:@naifhen  Hair&Make-Up:@bobanaparojcic

現在3度目のロックダウン中のイングランド。3月8日からやっと緩和が始まったものの、4段階方式による慎重な緩和策のため、厳しい行動制限下の日常に変わりない。

しかし「終わりの始まり」がやっと見えてきたこともあり、「ロックダウン解除後、何がしたい?」という具体的な会話で盛り上がるようになってきた。そんなときに必ずあがるのが「早くレストランに行って食事がしたい!」という声。テイクアウトは現在も可能だが、店内飲食はまだできない。ロックダウン中に料理にいそしんだ人は多いが、そろそろ外食したい気分。みな「プロがつくった美味しいご飯」を食べたくてうずうずしているのだ。

そんな人々の気持ちに寄り添うような写真シリーズが発表された。写真家のサム・ライトによる「ローカル・ロンドン」は、ロンドンにある個人経営の飲食店に焦点を当て、人々の胃袋を支えるソウルフードを静かに、しかし力強く切り取っている。

まだチリチリと音をたてている香ばしいフィッシュ&チップス。レモンとタバスコでつるりと食べる生ガキ。ボリュームたっぷりのイングリッシュブレックファーストに、国民食と言えるインドカレー……など、ライトが「被写体」として選んだ食は、地元っ子であれば誰でも懐かしく思う身近な物ばかりだ。昨年12月、ロックダウン直前に撮影された同シリーズ。写真を眺めるだけで馴染みのあの味がよみがえるが、シリーズ全体に漂う静寂さとメランコリックな雰囲気に、飲食店が直面する厳しい現実を思わずにいられない。

「遠くない将来に、またこうした店を訪れることができますように。そんな希望をこのシリーズから感じてほしい」と語るライト。コロナ禍以前、ロンドンの飲食業界は本当に元気だった。その日をいま遠くに感じるが、作品を見ることで馴染みの店を思い出し「あの店にまた行きたい」「あの店に生き残ってほしい」と思った人は多いだろう。

現在、ガーデン席(店外)の営業再開は「早くても」4月12日からの予定。店内飲食が可能になるのは「早くても」5月17日からとされている。「あの味」まで、まだもう少し。ポストコロナの時代にも「馴染みのあの店」が守られることを願いつつ、もうしばらくステイホームを続けるとしよう。


●SAM WRIGHT
www.samwrightphoto.com