第5話 お笑いの世界は質も量も大切らしい。酒はどうだ。...

おおたしんじの日本酒男子のルール Rules of Japanese sake men.

絵と文:太田伸志(おおたしんじ)
1977年宮城県丸森町生まれ、東京在住。東京と東北を拠点に活動するクリエイティブプランニングエージェンシー、株式会社スティーブアスタリスク「Steve* inc.(https://steveinc.jp)」代表取締役社長兼CEO。デジタルネイティブなクリエイティブディレクターとして、大手企業のブランディング企画やストーリーづくりを多数手がける他、武蔵野美術大学、専修大学、東北学院大学の講師も歴任するなど、大学や研究機関との連携、仙台市など、街づくりにおける企画にも力を入れている。文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品、グッドデザイン賞、ACC賞をはじめ、受賞経験多数。作家、イラストレーターでもあるが、唎酒師でもある。
第5話
お笑いの世界は質も量も大切らしい。酒はどうだ。
- やっぱり気になる日本酒の量の話 -

M-1グランプリも量の時代へ

先ほど、テレビの生放送で吉本興業が主催する漫才のコンクール『M-1グランプリ』(以下M-1)決勝を観終わった。新酒の登場と同じぐらい毎年楽しみにしている冬の風物詩ではあるが、今年のレベルの高さは圧巻……というか異常だった。お笑い芸人といえば、練習いらずの生まれもった天才的な才能を仕事にしている人、という印象が強かったのだが、今年、その概念が変わった。圧倒的な練習「量」がなければ、絶対にトップレベルに登れない世界であると感じるネタが多かったからだ。

その場をつかむ感性や瞬間的な判断が必要なことはもちろんなのだが、超一流のスポーツや格闘技の世界と同じく、何万回というストイックな反復練習が必要なのだろうなと感じた。しかも、ひとりだけでは成立しないため、恐らくコンビふたりで膨大な時間、膨大な量の練習を積み重ねたことが明らかにわかる、ぞっとするような恐ろしい感覚があった。昔は、その練習量を隠すのが芸人のカッコ良さだとも思われていたのだろうが、隠し切れない圧倒的な努力の量が見えてしまうこともまた、新しい時代のカッコよさなのかもしれない。

言い忘れるところだったが、今回のテーマは日本酒の「味」ではなく、多いほど嬉しい「量」の話である。

第5話 お笑いの世界は質も量も大切らしい。酒はどうだ。ーやっぱり気になる日本酒の量の話ー

日本酒における量の単位

M-1では笑いを評価する軸が審査員ごとに異なるが、日本酒の量を測る単位は厳密に全国共通で決められている。忘年会などで「2合徳利を2本追加で!」などと聞くアレだ。よく使うのは「1合(ごう)=180ml」、そして「1升(しょう)=1800ml」である。実は、日本酒ユーザーが一般的に覚えるのは、このふたつだけでよいのだ。実に簡単である。スタバでいえば「Tall(トール)」と「Grande(グランデ)」さえ覚えればなんとかなるのと一緒である。

とはいえ、好奇心旺盛なPen読者のため、他の単位も説明しておくと、さらに少ない量は「1勺(しゃく)=18mℓ」と表現し、逆にもっと多い単位は「1斗(と)=18ℓ」「1石(こく)=180ℓ」である。石数にいたっては酒蔵ごとのお酒の生産量を表し、蔵の規模感をイメージする時に便利である。

この「尺貫法(しゃっかんほう)」は日本独自の単位であり、しかも日本酒業界を含む、ごく一部の産業でしか使われていない。しかし、世界的にメジャーな「ℓ(リットル)」や「g(グラム)」ほど重要とまではさすがに言わないが、日本酒の世界においては「Venti(ベンティ※日本のスタバでは最大のサイズ)」よりは重要な単位だと言わざるをえない。

第5話 お笑いの世界は質も量も大切らしい。酒はどうだ。ーやっぱり気になる日本酒の量の話ー

松っちゃんレベルの眼力

さて、読者のみなさんにはショックを与えてしまうかもしれないが、ここで事実を話そう。日本酒の量は厳密にルール化されている……にもかかわらず、居酒屋によって1合の量は異なる。これが現実である。

え!それいいの?という反応がまずありそうなものだが、僕は、そのお店を選んだ自己責任だなと、納得することにしている。頭のスイッチを切り替えて「量以外のことに集中して飲む」。それでよいと思っている。量を補うだけのよさがその店にあればまた来るだろう。それが無ければもう来なければよい。そう、お店を選ぶ権利は常に客にあるのだ。「あれ?少なくない?」などと騒ぎ立てるのは、小学校時代の給食の量までにしておこう。

現在、1合とお願いした時に、徳利ではなくデザイン性の高い片口で出してくれるお店も多く、その量は目で見て判断するしかない。加えて、徳利だからといって安心してはいけない。厚みや高さなど、匠の技術により完成した徳利は微妙に180mℓ以下になるように計算されている場合も多いのだ。もちろん、逆に多いという場合もある。きちんと1合、2合の量を見極める眼力が必要なのである。M-1の世界でも審査員の眼力も話題になっているが、日本酒の世界でも松っちゃんレベルの眼力が必要とされているのだ。

第5話 お笑いの世界は質も量も大切らしい。酒はどうだ。ーやっぱり気になる日本酒の量の話ー

こぼれるほどの涙と升酒

M-1決勝のテレビ生放送の後、インターネットで参加メンバーによる深夜の打ち上げ番組が生中継されていた。そこには各コンビの素の気持ちが、枡に入ったグラスに注がれた日本酒のようにあふれていた。特に印象的だったのはお笑いコンビ「ジャルジャル」の福徳秀介の涙である。

冒頭で伝えたように、お笑いの世界も天才的な才能だけではなく、練習の量が重要になってきたと感じている中、決勝のネタを観て、圧倒的に努力してきたのだろうなと感動したのがジャルジャルである。本文が松っちゃんびいきの文章にも見えるのは、彼らに最も高い点数をつけた審査員だったからという理由もある。そんなジャルジャルは今回、決勝で6位という順位に留まってしまった。しかし、優勝したとろサーモンにしても、最終決戦に残った和牛やミキにしても、一朝一夕でできる技術ではないと一瞬でわかる、圧巻のクオリティだった。和牛が、決勝に進むまでのトーナメントのすべてのネタが、異なるネタだったと聞いた時も、牛肌、いや、鳥肌が立った。

最近の若手は人気ばかりで……と愚痴り気味のベテランお笑い芸人の方々は、ぜひいまの現場を正面から見てほしい。3分という一瞬の決勝の舞台に立つために、きっちり365日分の練習量をささげる彼ら。そりゃ、おのずとファンの量だって増えていくに決まっている。そんなことを考えながら、今日はとろサーモンと和牛を食べつつ、きっちり1合分の日本酒を味わうことにしよう。

第5話 お笑いの世界は質も量も大切らしい。酒はどうだ。ーやっぱり気になる日本酒の量の話ー
第5話 お笑いの世界は質も量も大切らしい。酒はどうだ。...
第3話 人生を楽しむには熱さが必要だ。いまも、未来も。...

おおたしんじの日本酒男子のルール Rules of Japanese sake men.

絵と文:太田伸志(おおたしんじ)
1977年宮城県丸森町生まれ、東京在住。東京と東北を拠点に活動するクリエイティブプランニングエージェンシー、株式会社スティーブアスタリスク「Steve* inc.(https://steveinc.jp)」代表取締役社長兼CEO。デジタルネイティブなクリエイティブディレクターとして、大手企業のブランディング企画やストーリーづくりを多数手がける他、武蔵野美術大学、専修大学、東北学院大学の講師も歴任するなど、大学や研究機関との連携、仙台市など、街づくりにおける企画にも力を入れている。文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品、グッドデザイン賞、ACC賞をはじめ、受賞経験多数。作家、イラストレーターでもあるが、唎酒師でもある。
第3話
人生を楽しむには熱さが必要だ。いまも、未来も。
- 純米の魅力を最大限に引き出す燗酒の魅力 -

熱燗と駅伝ランナー2049

居酒屋で熱燗でも飲もうか。そんな話を切り出すと、「え!?」と抵抗感を示す人がいる。そのネガティブイメージの理由で意外と多いのが「正月に実家へ帰った時に、箱根駅伝を観ながらオヤジが昼間っから飲んでいる酒っぽいから」という、熱燗=オヤジの飲みものという意見である。箱根駅伝とオヤジと熱燗。この固定されたイメージは、もしかしたらハリウッド超大作、映画『ブレードランナー2049』ぐらい大きく未来が変化してしまっても、日本ではずっと変わらず続きそうな、ある意味、愛すべき文化なのかもしれない。

とはいえ、そのネガティブなイメージを払拭しなければ人類と燗酒の未来は無い。オヤジのネガティブイメージがあるのなら、オヤジがポジティブイメージに切り替えてやろうじゃないか。ご老体に鞭を打ちながら、映画界の未来を情熱をもって切り開くかっこいいオヤジ代表、ハリソン・フォードをリスペクトしつつ、僕も若手オヤジ代表として寝起きの脳に鞭を打つ気持ちで、燗酒に対する読者のイメージが変わるよう情熱を惜しまない覚悟である。断っておくが、来年インディ・ジョーンズの新作の撮影があるからといって、鞭を打つという表現を使っている訳ではない。

第3話 人生を楽しむには熱さが必要だ。いまも、未来も。ー純米の魅力を最大限に引き出す燗酒の魅力ー

美しき温度変化と日本文化

さて、まずは少しだけテンションと日本酒の温度を下げて、冷静に「燗酒」について情報を整理しよう。まず、燗酒には温度の違いによって細かな名称が決められている。日本酒における最低温度は5度前後がベストと言われているが、この状態を「雪冷え(ゆきびえ)」と呼ぶ。10度前後になると「花冷え(はなびえ)」15度前後になると「涼冷え(すずびえ)」常温は「冷や(ひや)」である。ここでのポイントは、常温を冷やと呼ぶ点。冷蔵庫などで冷やしたものを指すのではないということ。最近では、冷蔵庫で冷やしたものを一般的には「冷酒」と呼ぶお店も多いので、冷やは「常温」と伝えた方がわかりやすいだろう。 

そして熱を加えていくと、まずは春の日差しのような穏やかな温かさの日向燗(ひなたかん)」、37度前後になると「人肌燗(ひとはだかん)」、40度前後で「ぬる燗(ぬるかん)」、45度前後で「上燗(じょうかん)」、50度前後で「熱燗(あつかん)」、55度前後で「飛び切り燗(とびきりかん)」となる。そう、熱燗とは、厳密には50度前後のものだけが呼ばれる温度帯なのだ。

どうだろう。一気に並べてしまったが、ここで感じていただきたい本質は名称の多さではなく、温度帯によって細かく名付けられている繊細な日本の美意識である。雨の呼び名や、雪の呼び名と同じく、なんと燗酒にも細やかな名称が存在するのだ。燗酒は、それほど情熱をもって語るにふさわしい美しき日本文化なのである。日本文化に強い影響を受けたと言われる名作、ブレードランナー1作目の監督だったリドリー・スコットも、きっとこの感動を理解してくれるに違いない。

第3話 人生を楽しむには熱さが必要だ。いまも、未来も。ー純米の魅力を最大限に引き出す燗酒の魅力ー

ハリソンの人生のごとく

さまざまな名称が出てきたところで、逆にハードルの高さを感じてしまった読者のみなさま、申し訳ない。だが、これらの名称をすべて覚えなければ燗酒を注文できないわけではない。むしろこれらすべての名称を覚えて注文する客と店主など、現代日本においては、旧型レプリカント・ネクサス8型と同じくらい絶滅危惧種である(まだブレードランナーの話をしている)。

大丈夫。居酒屋において燗酒を楽しむために、まず最低限覚えると楽しいのは「冷酒」「ぬる燗」「熱燗」この3つの単語で、まずは充分である。そして、この3つの単語ぐらいであれば、全国どのような店でもあまり面倒くさがられないはずだ。前回までにも書いているが(※第1回、第2回を参考)僕は純米酒が好きだ。だが、純米酒にもさまざまな種類がある。フルーティでさわやかなスッキリ系から、米の香りがふくよかで味わいのあるものまで。燗酒初級編としては、まずは「冷酒」で楽しんでいる時に、米の風味が強いと思った酒(精米歩合であまり削っていない純米酒に特に多い)で「ぬる燗」にしてみよう。どうだろう、トゲトゲしていたものが整い、やわらかく包みこまれるようなお米の旨味を楽しめるはずだ。そして次もまったく同じ酒で「熱燗」へ移行する。さぁ、今度は炊きたてのお米を一口頬張ったかのような旨味と香ばしさを感じるのではないだろうか。

ちなみに、マナーとして、もともとお店側が燗酒用として出していない場合「このお酒、燗に出来たりしますか?」と一言聞くのがルール。もし、お店の方に「出していないんですよ」と言われた場合、素直に「ごめんなさい、大丈夫です」と、そのお店では燗にするのを避けるのが紳士。「できますよ」と、むしろ笑顔で乗ってきてくれる場合は、(経験上、むしろ喜んでくれる店主が多い)ぜひお試しいただきたい。「冷酒」「ぬる燗」「熱燗」この3つの単語はあなたの日本酒ライフを一段階上にあげてくれる魔法の言葉となるだろう。ハリソン・フォードで言えは彼の俳優人生を引き上げた3つの作品「ブレードランナー」「インディ・ジョーンズ」「スター・ウォーズ」と同義語であるといえる。いずれも僕の人生に影響を与えた大好きな作品だ。同じ俳優でも作品が違うと、新たな良さを感じるものなのだ。

第3話 人生を楽しむには熱さが必要だ。いまも、未来も。ー純米の魅力を最大限に引き出す燗酒の魅力ー

冷静と情熱と燗酒の間

さて、ハリソンやリドリーなど、オヤジ系の登場人物が多いため、結局オヤジっぽい酒なのかい!というツッコミが入りそうだが、このタイミングで僕なりの結論を言おう。

「燗酒こそ、女性にお薦めの酒である」

M・ナイト・シャマラン監督の脚本にありそうなどんでん返しだが、僕はそう思うのだ。燗酒のことを知れば知るほど、燗酒は女性にお薦めしたくなる酒であることがわかる。たとえば、女性にとっての冬の大敵、冷え。日本酒はそもそもビールやワインなどの他のお酒と比べると、身体を冷やさない効果があるが、燗酒ならさらに温かい状態のままお酒を楽しめる。また、一般的にはアルコールは体温に近い温度に温まってから吸収されるため、冷たいお酒は酔いを感じるまでに時間がかかり、ついつい飲み過ぎてしまうことが多いと言われている。その点熱燗ならば時間差なく酔いを感じやすいため、飲み過ぎを防ぐ効果もあるという。

また、あまり日本酒を飲む機会が無い方にとっても、やっと気に入った銘柄が見つかった方はぜひ、まったく同じお酒で「冷酒」「ぬる燗」「熱燗」で試すと、失敗することなく変化を楽しめるのではないだろうか。気に入った銘柄の、違う温度の表情も楽しむ。あたかも恋人のあらゆる側面を愛し続ける、一途なラブストーリーのようなものとも言える。この冬、昔の恋愛映画を観た後に居酒屋の燗酒で一杯というのも、乙な過ごし方なのではないだろうか。ただし、僕としてはハリソン出演の恋愛映画はお薦めできないということを付け加えて、今回は〆とさせていただく。

第3話 人生を楽しむには熱さが必要だ。いまも、未来も。ー純米の魅力を最大限に引き出す燗酒の魅力ー
第3話 人生を楽しむには熱さが必要だ。いまも、未来も。...
第2話 100%じゃない。だから君のことが気になるんだ...

おおたしんじの日本酒男子のルール Rules of Japanese sake men.

絵と文:太田伸志(おおたしんじ)
1977年宮城県丸森町生まれ、東京在住。東京と東北を拠点に活動するクリエイティブプランニングエージェンシー、株式会社スティーブアスタリスク「Steve* inc.(https://steveinc.jp)」代表取締役社長兼CEO。デジタルネイティブなクリエイティブディレクターとして、大手企業のブランディング企画やストーリーづくりを多数手がける他、武蔵野美術大学、専修大学、東北学院大学の講師も歴任するなど、大学や研究機関との連携、仙台市など、街づくりにおける企画にも力を入れている。文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品、グッドデザイン賞、ACC賞をはじめ、受賞経験多数。作家、イラストレーターでもあるが、唎酒師でもある。
第2話
100%じゃない。だから君のことが気になるんだ。
- 精米歩合によって異なるお米の風味 -

悩ましきお天気お姉さん

最近雨が多いせいか、ついつい毎朝テレビをつけて天気予報を観てしまう。低血圧ぎみのためか朝は弱い僕だが、寝ぼけながらもテレビに映るお天気お姉さんの爽やかな笑顔を観ているうちに、今日も1日がんばろうという勇気が発酵中の酒米のようにじわじわ湧いてくる。お天気お姉さんには、この場を借りて感謝を伝えたい。

しかし、降水確率というものがどうしても腑に落ちない。「降水確率100%」は絶対に雨が降る。「降水確率0%」は絶対に雨が降らない。それはわかるが「降水確率50%」ってなんだ。降るかもしれないし、降らないかもしれない。そんな曖昧なパーセンテージを人に伝える意味はあるのだろうか。これでは、雨が降っても降らなくても正解になってしまう。いやまてよ、お天気お姉さんだって言いたくて言っている訳ではないのかもしれない。心のどこかでこう思う日もあるはずだ。「あなたにとって大切なプレゼンがある今日、予報では雨の降る確率50%ですが、私は0%だと信じています」と。いつもどこかアンニュイな雰囲気を感じるのはそのせいかも……と、今日も能天気な妄想から執筆をスタートさせていただく。

第2話 100%じゃない。だから君のことが気になるんだ。ー精米歩合によって異なるお米の風味ー

削られて競い合う世界

さて、降水確率のパーセンテージはお天気お姉さんに任せるとして、今回話題にしたいのは日本酒づくりの精米におけるパーセンテージ。それがラベルの裏に必ずと言っていいほど表記されている「精米歩合(せいまいぶあい)」である。そう、日本酒の瓶のラベルに書いてある「精米歩合45%」とかいうアレ。読み方は精米歩合と書いて「せいまいぶあい」と読む。以前「せいまいほごうは39%かぁ。最近この蔵も削るようになってきたねぇ」と、通な雰囲気を醸し出している上品な紳士を見かけたことがあるが、威厳のほうが削られてしまうのでご注意を。ちなみに僕も最初、間違えて読んでいた。

精米歩合とは、ひと言でいえば「材料として使われているお米ひと粒あたりが、どれだけ削られているのかを表す数値」である。精米歩合60%の日本酒はお米の外側40%を削って仕込んだお酒。逆に、精米歩合40%の日本酒はお米の外側60%を削って仕込んだお酒となる。日本酒は、お米の中心部を使えば使うほど雑味がなく香り高い味になると言われている。それに比例して、お酒として取れる量も少なくなるので高価になるというのが基本概念である。そう、今回のテーマは日本酒におけるパーセンテージ。天気予報などで使われる「確率」の話ではなく、酒米が削られている「割合」の話である。

第2話 100%じゃない。だから君のことが気になるんだ。ー精米歩合によって異なるお米の風味ー

島耕作 VS. Youtuber

削られれば削られるほど、そのお米でできたお酒の一般名称としての格付けはランクアップしていく。あたかも社会の荒波に削られながらも、課長、部長、取締役と肩書きをランクアップさせていった島耕作のようではないか。日本酒の精米歩合が60%以下なら「吟醸」、50%以下なら「大吟醸」と、名称が厳密に定められている。つまり、純米酒でいえば、精米歩合55%であれば「純米吟醸酒」、精米歩合45%であれば「純米大吟醸酒」と名称が変化する。稀に特別純米という、まさに特別扱いなカテゴリーに属する日本酒もあるが、それはまた別の機会に。

人生におけるさまざまな障壁とぶつかり合って削り合って、社会的地位を手にした島耕作。高度成長期の日本経済を支えてくれたのは、彼のように身を削る思いをしながら少しづつ認められ、出世の階段を一歩づつ登りながら、新しい日本を切り開いてくれた先駆者に他ならない。島耕作、ありがとう。純米大吟醸、ありがとう。

しかし、悲報である。時代は変化し、荒波に削られながらもコツコツと何十年も下積みを生きてきた人間だけが、社会的地位を獲得するという時代は終わった。下積み時代がまったくなくとも、個性あふれる才能で、あっという間に成功するYoutuberがたくさんいる時代なのだ。日本酒だって同じ。精米歩合の少なさだけで価値を判断するのではなく、個性を楽しむ時代なのではないだろうか。

第2話 100%じゃない。だから君のことが気になるんだ。ー精米歩合によって異なるお米の風味ー

ライス・ワーク・バランス

お米自体が本来もっている雑味や風味を味わうことにこそ、繊細な日本酒の楽しみが隠れている。どこまで削っているかに価値を感じている方も多いのかもしれないが、日本酒好きの若い世代では最近、削り過ぎたら日本酒の風味が無くなっちゃうじゃんか、という粋な風潮も高まってきている。そう、仕事だって大企業での出世を目指すだけが正解じゃない。生まれもった、それぞれの個性や性格に正直に、実直に向き合っているかどうかが大切になってきているのではないだろうか。日本酒の世界もビジネスの世界も、オープンイノベーションでダイバーシティな環境への対応が求められているのだ。

前回同様、繰り返すが好みは人それぞれである。僕は純米酒が好きだし、純米酒以外を好きな人がいたってよい。飲みたければ飲めばよいし、飲みたくなければ飲まなければよい。僕が言いたいのは、住む場所や着る服と同じく、飲むお酒だって「好きに選んでよいんだよ」ということだけである。僕はキレイな吟醸系のお酒が好きだが、お米らしさが残っているお酒も好きだ。理想は、前半はキレイめの純米吟醸系から攻め、中盤から後半にかけては米のふくよかな旨味が出ている、あまり削っていない精米歩合高めのお酒を選ぶことが多い。特に米の風味を感じるなと思ったら燗にしてみたりもする。熱を加えることで炊きたてのお米のような香ばしさが増すのだ。これからの季節、木枯らしが吹く窓の外を眺めながら、お米の風味が香る燗酒を楽しみながら鍋をつつくなんて最高であろう。

先ほど、時代は変わったという話をしたが、価値観の変化を柔軟に受け入れる島耕作なら、もしかしたら荒削りな若手Youtuberとも、あっという間に意気投合し、新しいビジネスの話でもしながら新橋あたりの焼き鳥屋で、熱燗で乾杯しているのかもしれない。

第2話 100%じゃない。だから君のことが気になるんだ。ー精米歩合によって異なるお米の風味ー
第2話 100%じゃない。だから君のことが気になるんだ...