こんな味わいがあったとは! マスカット・ベーリーAの 歴史を感じられる掘り出し物です。

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    日本ワインで乾杯!We Love Japanese Wine!

    #38|
    鹿取みゆき・選&文
    尾鷲陽介・写真
    selection & text by Miyuki Katori
    main photograph by Yosuke Owashi

    ブラック・クイーン アンド マスカット・ベーリーA 2014

    赤ワイン用の原料として醸造量が最も多いマスカット・ベーリーAは、北は青森県から南は宮崎県まで、本州のほとんどの地域で栽培されています。しかし、1927年に川上善兵衛氏によって新潟県で生み出された後、どうやって各地に広まっていったのか、あまり語られることはありません。

    善兵衛氏は、日本に適した品種の研究に私財を投入し尽くしてしまったため、その頃は借金まみれ。それにもかかわらず、彼は日本各地の研究者や園芸試験場や篤農家に、惜しげも無く苗木を配布していったそうです。現在の日本ワインは、彼のように献身的に尽くした人たちに支えられているのだといま更ながら思います。

    時期は不確かなのですが、善兵衛氏は30年代の後半に、交流のあった山形県の須藤鷹次氏にもマスカット・ベーリーAの苗木を送っています。鷹次氏は、いまも赤湯町にあるブドウ園とワイナリーを営む須藤ぶどう酒の一代目。以前ご紹介した酒井ワイナリーの創設者で、後に赤湯町長となった酒井弥惣とともに、赤湯の斜面でのブドウ栽培の普及に尽力した人だそうです。

    実は山形県では、10数年前までそのブドウがマスカット・ベーリーAだと知らずに育てている人が多かったそうです。苗木に付いていた交配番号が「3986」だったので、みなこの番号で呼んでいたのだとか。善兵衞氏が苦労の末に開発したブドウだったとは、知るよしもなかったのです。

    いまも赤湯のブドウ園にはその時の苗をもとに、増やしたブドウが育てられています。そして当時植えられた古木はいまも健在です。今回ご紹介するのは、4代目の孝一さんが、家族とともにこれらのブドウを育ててつくったワイン。善兵衛氏が同時期に開発したブラック・クイーンとブレンドされたものなのです。

    ほとんど無名に近いワインですが、これは掘り出し物です。ちょっと煮詰めたイチゴソースの香りと瑞々しい果実味、それに程よい渋みも溶け込んで、しっとりした味わいです。こんなワインがあったとは!と初めて飲んだときには私も驚きました。善兵衛さんと鷹次さんに思いを馳せながら飲んでほしいワインです。

    こんな味わいがあったとは! マスカット・ベーリーAの 歴史を感じられる掘り出し物です。
    須藤ぶどう園は歴史も古く創業1921年。温泉街で有名な赤湯のはずれで、自社ブドウ園とワイナリーを家族で営んできました。年間生産量はわずか1万本の小規模ワイナリーです。葡萄園の「紫金園」は、赤湯町では初の観光ブドウ園でもあり、生食用ブドウも栽培しており、夏の終わりから秋にかけてはブドウ狩りも可能です。

    ブラック・クイーン アンド マスカット・ベーリーA 2014

    ワイナリー名/須藤ぶどう酒
    品種と産地/ブラック・クイーン、マスカット・ベーリーA(山形県南陽市赤湯 )
    容量/720ml
    価格/¥2,150
    問い合わせ先/須藤ぶどう酒
    TEL: 0238-43-2578